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00:異形の森の森番

大分前から温めていたオリジナルのファンタジーの小説を書いていこうと思います。


性癖とか好きな物だけ突っ込んでいきます。

執筆はそんなに早くないですが、エタらないように頑張ります。

 ブレストル王国の南方には広大な森林地帯が広がっている。『異形の森』と呼ばれるこの大森林は、外神戦争において空の裂け目より現れた異界の神とその眷属達が、本拠地とした暗く深い森だ。

 神代より続いたとされる古代の魔法王国が栄華を極めた頃、この地には大きな街が幾つも存在したと記録されている。それら多くの土地と街と人が異界の神の魔法により生態系の軛を外れ、凶暴な魔獣の住まう森に変貌してしまった。

 邪神の封印と悪魔を統率する魔王の討伐によって外神戦争が終結し、配下である悪魔やその眷属と言える魔人達が散り散りになった後も、異形の森は変わらずそこに残った。

 この森の奥には現在においても、過剰なマナにより異常な進化・変貌を遂げた動植物が跋扈する。更には異界の神を信奉する魔王軍残党のオークやゴブリン、ワーアニマル等の亜人の集落が無数に存在した。

 それら異形の怪物や森を拠点とする敵対的な亜人達は、戦争終結後も変わらず頻繁に森を出ては無辜の人々の生活を脅かしている。

 外神戦争終結の後に南方に配されたブレストル王国の諸侯達は、これら森の脅威に対して防衛線を引いて村や町を襲う魔獣や亜人達と戦い続けて来た。

 諸侯達は森の脅威から人々を守るだけではなく、森を少しずつ切り開いて浄化の儀式を施すことによって、徐々に人類の版図を広げていった。

 多くの流血の末、南方諸侯はオークの首長連合より古い時代の城塞跡を奪取する。この城壁の修復と改築により、北上する闇の軍勢を押しとどめることに成功した。

 これが200年かけた長い戦いの終焉、栄光の始まり。そしてこれが、戦乱の端緒でもあった。



 異形の森は昼なお暗い。木々や草花の一つ一つは見慣れた種でも、折り重なって陰を作れば人に害をなす獣の住処となった。ゆえにこそ危険を避けて森を歩くには豊富な知識と鋭敏な五感が求められる。

 開拓村を拠点として異形の森に踏み込む冒険者ならば誰もがその技能を要求される。

 開拓村に住む熟練(ベテラン)冒険者のブランドンも例にもれずこの技能に長けていた。彼は常から1人で森に入り、魔物の縄張りを避けながら希少な薬草を摘んで帰る事を生業にしていた。

 徒党(パーティ)を組んで魔物を倒しながら進む冒険者も多いが、森の複雑な地形に足を取られる仲間を気遣いながら歩くのは、どうにも性に合わなかったのだ。

 彼はこの日、絶命の危機に見舞われていた。原因は不運か慢心、あるいはその両方か。闇の軍勢の番犬である魔狼(ワーグ)に発見され、かれこれ1時間以上追跡されている。

 普段ならこういう危険な魔獣の住む繁みには近寄らないというのに、群れを離れて活動するこの個体に直前まで気づくことができなかった。

 ブランドンは小走りに逃げながらも背後の気配を窺った。間違いなくまだ背後にいる。

 この魔獣は執拗で狡猾だ。姿を隠しながら一撃を加えられる間合いと隙を窺っているのだろう。だからこそまだ命を繋いでいられるのだが、足を止めて爪や牙の間合いに入ってしまえば瞬きの間に喉を食い破られるだろう。

 男の逃走劇は唐突に終わりを告げる。薄暗い森の中で、足元の盛り上がった木の根を見落としていた。

 蹴躓いて態勢を崩したその瞬間、背後に潜んでいた狩人が走り出した。咄嗟に剣を構えるが間に合わず、その前足が胴体に到達する。

 魔狼(ワーグ)の牙と爪はブランドンの命を奪うことはなかった。大きな牙がブランドンの喉元に迫ったその瞬間、魔狼(ワーグ)は真横から飛んできた矢に首を射抜かれていた。

 射抜かれた衝撃で魔狼の体は跳ねて軌道がずれる、冒険者の男に覆いかぶさることなく、地面に力なく倒れ伏した。

 ブランドンを助けた矢の主は、魔狼(ワーグ)以上に姿が見えない。だがブランドンにはここまでの離れ業を可能にする男を一人しか知らなかった。

「…………はーーーーー。おい、ベンウッド! 助けるならもっと早くやってくれ!」

 ブランドンは立ち上がって埃を払いながら、隠れている男にわざとらしい大声で呼びかける。八つ当たりしている自覚はあるが、この男がギリギリまで干渉しようとしないことには常々文句を言っている。

 呼びかけから幾分か待つと、がさりがさりと音を立てながら、思ったとおりの男が森の暗がりから現れた。

 エルフの如き弓の妙技と獣すら欺く隠形をやって見せたこの男、異形の森中層域に居を構える森番の若者で名をベンウッドという。

 若者は遠目にも立派な体躯をしており、身の丈は7尺半(180cm)に近い。その長身には余すことなく引き絞ったような筋肉をまとっている。

 衣服は安物の生地で作られた長袖と長ズボン、迷彩代わりの濃緑のフード付きクロークと目立つところはないが、クロークの下に隠れた茶色の革鎧は魔狼の革を何層にもわたって重ねた特注品だ。

 加えて右手に身長と同じ長さの大弓を持ち、これを自在に振り回す。先程魔狼(ワーグ)を一射で仕留めた強弓だ。

 熟練(ベテラン)のブランドンをしてその生得の才に恐れを感じるほどだが、わかりやすく困ったような表情は年相応のものだった。

「助けても良いけど、獲物を横取りしたとか言わない?」

「俺がそんなだせぇこと一度でも言ったかよ」

「ブショルさん達は言ったよ」

「そりゃ………うん、災難だったな」

 同僚の名前を聞き顔を思い浮かべて、「あいつらなら言いそう」と納得してしまった。

 連中は他の徒党(パーティ)と仕事の取り分で良く揉めている。言いがかりに近い物言いで分け前をせびろうとするのが常の輩だった。

 申し訳ない気持ちと一緒に残りの反論は飲み込んだが、ついでに気になった話も思い出す。

「あーー……そうだ。なあベンウッド、2ヵ月ぐらい前にブショル達が石肌のトロールを狩って来たんだがよ。あれってもしかして…」

「多分それ、止めを刺したのは俺だよ」

 ベンウッドは仕留めた魔狼(ワーグ)の血抜きを始めながら事も無げに答える。

 トロールは闇の軍勢の一角を担う巨人で、成体であれば2丈(5m弱)を優に越える巨躯に育つ。

 知性は低く棍棒程度の武器しか使わないが、とにかく凶暴な上に頑丈で少々の傷は瞬く間に回復する。

 オークに管理されないトロールは獲物を求めて放浪することが多く、時には人里近くまで現れることもあった。

 トロールは個体によって特殊な能力を持つ個体が時折発生するが、ブショル達が持ち帰った遺体は石のように肌が堅牢な個体であった。

 ブショル達も腕は悪くないが、とてもそんな大物を狩れるような腕ではない。弱った個体を狩ったか、あるいは誰かから奪ったか。そのどちらかだろうと噂されていた。

「なるほどな。ついでに聞くが、そのブショル達のパーティが1ヵ月ぐらい前から行方知れずでよ。………なんか知ってるか?」

「ああ。巨蜘蛛(ラージスパイダー)に食われて死んでたよ」

 巨蜘蛛(ラージスパイダー)は名前の通り人よりでかい蜘蛛の魔物で、巣に近づいた獲物を積極的に襲う。

 大きい以外に特別な力は無いのだが、巣一つに3匹以上住んでることもあり、奇襲を受ければ熟練の冒険者一党でも壊滅しかねない。

 恐らく知らずに巨蜘蛛(ラージスパイダー)の縄張り、あるいは粘着質な糸の罠に引っかかったのだろう。そして恐らく、ベンウッドは何もせずに見殺しにした。

 森に居る限りベンウッドはどんな生物にも中立の立場をとる。狼が鹿を追っていても人が鹿を助けたりしないように、魔獣が人を襲っていても助けない。

 そんな彼がわざわざ助けてくれたというのに、その男は言ってはならないこと言ったのだ。この結果も自業自得というやつだ。

「そりゃ仕方ねえな。でもまあ、あんなアホでも心配するやつや悲しむやつがいる。死体見つけたら教えてくれよ」

「……開拓村に行く時があったらそうするよ」

 ベンウッドは手元を覗き込むブランドンをちらりと見上げ、すぐに手元に視線を戻す。ブランドンは彼の生返事をそれ以上追求しなかった。

 生きても死んでも自己責任。助け合いの精神は美徳だが、冒険者同士でさえ実践できているかは怪しい。冒険者でもない彼にそれを望むのは傲慢だろう。

 ブランドンが荷物と装具の点検を済ませる間に、ベンウッドは魔狼(ワーグ)の血抜きを済ませており、真水生成クリエイト・ウォーターの魔術で血と泥の清掃まで終えていた。

「じゃ、次は気を付けて」

 ベンウッドは獲物を肩に担ぐと、挨拶もそこそこに森の中へと消えていく。

 ブランドンは荷物を抱え直すと今日の仕事を切り上げることにした。|



2025/03/25 一部表現を加筆修正

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