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18話【2度目の外出】

 ザケイル家から歩いて30分ほど、3人は再び商業都市ランドルを訪れていた。

 前回の様な急襲が再び起こるのでは無いかと心配していたが、今のところはつつがなく平和な買い物を満喫している。


「ハルト、どの鍋がいいの?」


「そうだな。結構深めのやつがいいけど、深すぎると側面に手が当たって火傷しそうだな…こんくらいのが良いかな」


「分かった。すみませーん、これくださーい!」


 ハルトは、前回話に出したリンゴ飴…こちらの言い方に直すと、リゴル飴を作る為、ルミリと共に鍋とリゴルの実を買いに来ている。

 現在クロルは別行動、小遣いを渡して洋服店に置いてきた。クロルを探している奴隷商も居るだろうが、ティーゴに幻覚魔法で耳と髪色を変えてもらっているので気付かれないだろう。


 ルミリにも掛けられないか気になったのだが、どうにも幻覚魔法とルミリは相性が悪く、効果が薄いらしい。だから『カゲロウ』で見えづらくするだけに留まっているとか。


 ルミリはクロルに付いていこうとしたが、クロルの猛反対に負けてしぶしぶハルトと行動を共にしている。

 二人きりになれたのは嬉しいが、妥協された感が半端ないので少し心に傷が入った。


「妥協でも喜んじまうのが男の悲しい所だよな…」


「…?何ぶつぶつ言ってるの?」


「いや、こっちの話」


 何でもないとおどけてみせて、またルミリに呆れられる。

 もはや恒例となってきているが、このままではまずいかもしれない。気付いたら男として見られなくなり、告白しても「ごめん、友達としか見れない」と断られる現象に片足を突っ込んでいる気がする。


 何か改善策を考えなければと頭を捻っていると、ルミリに肩を叩かれて現実に意識を戻す。

 気付いたら果物屋の前まで歩いてきていたらしい。


「ねね、リゴルの実はどれが良い?これとかキレイな形だし、真っ赤で美味しそうだよ!」


「みんなの分作りたいから、5個ぐらい買いたいかな。おっちゃん、リゴルの実、美味そうなのから5個詰めてくんない?」


「兄ちゃん気前が良いねぇ!一つおまけしてやるよ!」


「お、ラッキー。あんがとな、おっちゃん!まあ気前がいいのは金払うこの子なんだけどな!」


「そいつぁ胸張って言う事じゃねぇぞ兄ちゃん!まあ買ってくれんなら何でもいいんだがな。ここ最近は例の大魔獣の影響で人通りが少なくて、売れ行きが悪りぃんだよ」


 聞いたことのない単語が飛び出し、ハルトは耳をひくつかせる。


「大魔獣ってなんだ?」


 果物屋の男は、驚いた顔でハルトの顔を見つめ、


「兄ちゃん、大魔獣セラフィムを知らんのか!あいつは全世界の敵だぜ、セラフィムが近づいた国からやってくる移民が恒例行事になってるくらいだ。今はうちに近づいてるがな」


「どんな奴なんだ?セラフィムってのは」


「俺もこの目で見たわけじゃねぇが、どうにも6枚の羽に山ほど目を付けた気味の悪りぃ怪物だって話だ。しかもそいつは二匹の手下を連れててな、3体まとまって行動するもんだから倒すのも一苦労だって話さ」


「へぇ〜、そんなんがいるんだな。今どこら辺にいんの?」


「早くて1ヶ月、遅くても2ヶ月ありゃここら近辺を通る。…ここだけの話、俺もそろそろ隣国に逃げようかと思ってんだ。セラフィムが通った跡には草の一本も残らねぇって話もある。国から補償が出るとは言え、命が無けりゃ商売も出来ねぇからな。兄ちゃんも気ぃつけろよ」


「おう!あんがとな、おっちゃーん!」


 手をブンブンと振りながら、果物屋から離れるハルトとルミリ。

 大魔獣セラフィム。話を聞く限り、全世界共通の大災害らしい。1ヶ月から2ヶ月後に近くを通るらしいが、ザケイル領から離れた場所なのだろうか。

 ザケイル領に領民はいないとはいえ、大きな屋敷と敷地がある。あんな広大な土地を野原にされてはたまったもんではない。


 避難する必要はないのかと思い、ルミリに声を掛ける。


「うちのやつらは逃げなくていいの?セラフィムってやつから」


「うーん、どんな進路で来るかわからないからほんとは逃げた方がいいんだけど、何せうちには置いてけないものが多いし…何より全員癖が強いから、まとまって行動してるとバレちゃうんだよね」


「あー、なるほど納得」


 あまりに説得力のあるルミリの言に、苦笑いで答えるハルト。

 世間から疎まれる亜人族であるルミリ、変なマスクで身を隠すヴラン、メイド服姿のソフィア…ティーゴは特に問題ないだろうが、他の面々が濃すぎる。


「じゃ、セラフィムが近くを通らない様に祈るだけか」


「そうなるね。セラフィムは特定の何かを狙ったりせずに、一定の進路を保って進むから、こればっかりは本当に運になってくる。だから普段からお行儀よくしてね?ハルト」


「お行儀よくって言い方可愛いな」


「ちゃんと聞いてって!」


 真剣に話をするルミリに軽口で返すハルト。2人がいつも通りの会話を繰り広げながら歩いていると、クロルを置いてきた洋服店に辿り着く。


「さて、クロルはどこかなっと…」


 隠蔽魔法はもちろん身内にも効き目がある為、ぱっと見でクロルが分かりづらい。その為、何処にいるのか時間がかかることを覚悟していたのだが…


「ハルト、あれじゃない?」


「あれって…何が起きてんの?」


 ハルトは、ルミリの指さす先に目をやり、ギョッと目を見開いて驚く。


「お客様大変お似合いです〜!お次はこちらを!」


「いえいえ、次はこちらを!」


「その系統はさっき着たでしょ!それよりも違う系統を…!」


「も、もう大丈夫ですって〜!!…あ!ハルト様!た、助けて下さいぃぃー!」


 クロルの周りに複数の店員が群がり、自分の思い思いの服を着せようと押し寄せている。

 屋敷でもルミリが着せ替え人形にしていたが、クロルには服を映えさせる才能があるのだろうか。今まで体験したことのない状況を目の当たりにし、ハルトはどうすればいいのか分からず迷ってしまう。


「…お客様お似合いです〜。って、お世辞じゃないことあるんだな。知らなかったよ」


「そんなこと言ってないで助けてくださいよぉぉ!!」


「ルミリ、どうすればいい?あれ」


「どうしよっか…とりあえず見守ろうか。可愛いし」


「あら、慈悲深いルミリ様にしては残酷な選択。どしたの?反抗期?」


「いやぁ、クロルちゃんを見てると無性に愛でたくなる気持ち、分かるからなぁ。何でだろう?」


「まぁ愛されキャラではあるよな」


 揉みくちゃにされて助けを求めるクロルをよそに、世間話を始めるハルトとルミリ。

 そんな2人の様子を見兼ねて、クロルが再度助けを求める。


「そんな話してないでぇ!助けてくださぁぁい!」


 そんなクロルの叫びは2人には届かず、広い店内に木霊するだけだった。




ーーーーーーーーーーーーー。




「はぁ…酷い目に遭いました…服は買えましたけど、あんな事になるならもう一生分の服を買っておけばよかったかもしれません」


 深い深いため息を吐き、そう愚痴をこぼすクロル。だがそうなるのも無理はない。ただ服を買うだけであんな目に遭うとは、誰が予想できただろうか。少なくともクロルには想像もつかなかった様で、予想外の猛攻に辟易している様子だ。


「まあまあ、大人気で良かったじゃねぇか。うちの子が他所で人気だと鼻が高いもんなんだな。…いや、今はクロルのが年上なんだからこの表現は間違いかもしれんが」


「そんな軽く流さないでくださいよ!じゃあハルト様は自分の子供がお嫁さんに行っても同じ事言うんですか!?それと同じくらい重く受け止めてください!」


「絶対そんなに重くないし、俺17だから子供のこと考えるのは早えよ」


 憤慨するクロルを、少し的外れにたしなめるハルト。

 ハルトは未だにクロルの方が年上という事実に違和感があり、子供の様に扱っている。

 本来のハルトであれば、年上の女性との会話はおろか、同年代の異性との会話もままならないというのに、相手がクロルとなるとすぐに冗談混じりの会話になる。

 会話がぎこちなくなるよりはマシだろうが、早くクロルの歳に合わせた会話が出来るようになりたいものだ。


「まぁ、クロルが歳の割にガキっぽいってのもあるけどな」


「むっ!何ですか、助けてくれなかった上に突然馬鹿にしたような発言!小さかった期間が長かったんですから、少しは子供っぽくなりますよ!むしろ子供っぽさを兼ね備えた完璧な愛され女の子じゃないですか!何が不満なんです!?」


「うーん、自分で言わなけりゃ肯定したくなる文言なんだがなぁ…」


「2人とも、その辺にして…用事も済んだし、そろそろ帰る?」


 いつまでも会話が終わらない2人を見兼ねて、ルミリが話題を変える。


「そうだな、あんまり長居して昨日みたいになったら怖いし」


「そうですね…あっ、一つだけやりたい事があります!いいですか?」


「要件を聞く前にイエスとは言えんから、とりあえず何がしたいか言ってみ」


 ハルトは、クロルの方を流し目で見ながら相槌を打ち話を促す。

 クロルは、なぜかドヤ顔で息を吸い込み、


「ズバリ!…私とハルト様の天輪を調べたいです!」


 と、正直ハルトも気になっていた事を提案してくれた。

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