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16話【会議は踊る】

「ジーニスについての情報って…さっきの元鎧男からか!あいつ、捕まえてからそんなに経ってないのに良く吐かせられましたね」


 ジーニスに関する有益な情報を手に入れたと、吉報を知らせてくれたソフィアにハルトは素直に感心する。

 もっとも、荒々しい言葉遣いに浮き沈みの激しい性格も相まって、直情的で短気な印象を受けた為、案外少し痛めつけられたらすぐに主人の情報を吐くような小物だったのかもしれない。


「おや、お褒めに預かり光栄です。私はメイドとしての様々な知識を叩き込まれておりますので、情報を吐かせる程度でしたら訳なく遂行できます故」


「拷問はメイドの仕事じゃないでしょ!…なんか、メイドという言葉を万能である理由を誤魔化す免罪符にしてません?」


「おや、そんなことはありませんよ?それに、拷問も完璧とは言えませんでした。なるべく早く情報を吐かせる為、本来ならじわじわと時間をかけるべきところを省略し、一気に耐え難い痛苦を与えたので、加減を誤れば死んでいたかもしれません。反省すべき点です」


「耐え難い痛苦って…」


 淡々と語られる内容の壮絶さに絶句するハルトの脳裏に、血塗れで倉庫から姿を現したソフィアが思い起こされる。

 やはり、あの倉庫で拷問を行なっていたのだろう。

 あれが全て返り血であったなら、元鎧男は本当に生きているのか不安になってくる。


 それにしても、この調子でいく暗殺術や武具の扱いにも心得があっておかしくない。実は、この屋敷で一番恐ろしいのは彼女なのかもしれない。


「なんだ、さっきの悲鳴は拷問してたからだったんですね!お化けじゃなくて安心しました!」


「お前、本当にそれで安心していいの?」


 悲鳴の正体が得体の知れない怪物でないことに安堵するクロル。

 あんなにショッキングな場面に出くわしてここまで軽い反応が出来るとは、もしかすると大物なのかもしれない。


「おや、仲睦まじいご様子。ですが、そろそろ本題に入らせて頂いてもよろしいでしょうか?」


「あ、はい!すいません」


 ソフィアの一言でスイッチを切り替え、真剣に話を聞く姿勢になる。

 なにせ、この情報に命運がかかっている可能性すらある、そんな状況なのだ。


「では、まず一つ目の情報ですが…」


 神妙な面持ちで語り出すソフィアに思わず息を呑む。一体、どんな重要情報が飛び出てくるのか…


「…ジーニス卿は、かなりの好色家のようです」


「今までの期待を返してくれ!!」


 先程までの深刻な空気から一転、出てきた情報のどうでもよさにおもわずツッコミが出てしまう。


「おや、すみません。まずあまり重要ではないものからの方が心構えが出来るかと」


「その気遣いはいいんで、先に大事な事教えて下さい!」


「おや、そうですか。では、先程ハルト様が気になさっていた天輪について。先程の男から聞き出したのですが…ルミリ様に報告したところ、既にご存知だったようで」


「え?そうなのか、ルミリ」


「うん、昔お兄様から教えてもらってね。お兄様とジーニスさんは関わりがあったみたいで、その時に自慢されたって言ってたよ」


「自慢で手の内明かすって、すげぇ間抜けなのか、バラしても問題ないって自信の表れなのか…」


 どちらにせよ、知りたかった情報が既に手に入っていたとは驚いた。

 今思うと、確かにルミリは強化する力の持ち主に心当たりがあったし、その力からジーニスが黒幕と判明したのだから当たり前のことなのだが。

 

「それで?肝心のジーニスの天輪はなんなんだ?」


「ジーニスさんの天輪は、『与凶よきょう』。この能力を使われた人は、理性がなくなり凶暴化する代わりに、絶大な力を得る。さっきの男はこの力で強化されてたんだ」


「『与凶』…厄介な力だな。同時に複数にかけたり出来るならもっと厄介なんだが、可能なのか?」


「そこまではちょっと…」


「おや、でしたら補足させていただきます。先程吐かせた情報によりますと、その力はジーニス様ではなく掛けられた側に負担を強いるため、制限などはないようです。負担というのも、使用後に全身に鈍い痛みが走り、一日ほどまともに動けなくなる程度だとか」


「うげ、そんなの最強の軍隊作れるじゃねぇか…効果時間はどんくらいだ?」


「一度意識が途切れるまでらしいですが、基本的に1時間ほどで体がついていかなくなり気絶してしまうらしいです。なので実質的に、1時間が制限時間として定められている力のようですね」


「なるほど…常時掛けておくとかが出来ないなら、奇襲が妥当か…?家に忍び込むとかは厳しいだろうし、外に出てる時を狙って…」


 そんな事をぶつぶつ声に出していると、チリチリと頭の中に電流のような音が響く。

 次第に大きくなるその音は、お決まりの合図である。

 そう、この音は、未来が見える直前のーー。


ーーーーーーーーーーーーー。


 …土煙が晴れ、物が乱雑する部屋の情景が見えてくる。


「ゆ、許してくれ!ルミリ嬢を狙ったのは謝る!ザケイル領への支援もしよう!だからどうか、どうか許してくれ!」


 地面に手を付き頭を下げ、赦しを乞うのは40半ばと見える中々の美丈夫。

 男の頭部に手を向け、生かすか殺すかの選択権を握るルミリは、ふぅ、と浅くため息を吐くと手を下げて、


「やったね!ハルト!これでジーニスさんから狙われる心配はないよ!」


 そう言ってハルトの方を振り返ると、満面の笑みを向けてくる。


 ハルトはこくりと頷き、ルミリの方へ歩いていき、男の前に立つと、


「今度うちに手ぇ出したら本当に覚悟しとけよ」


 男に向かってそう言い放ち、他人が握った生殺与奪にあやかって釘を刺す。


「行こう、ルミリ」


「うん、そうだね。帰ろう、ハルト」


 2人はそう言って、怪我をして倒れる大勢の男達の間をすり抜けて歩く。

 途中で、男達の呻き声や、隣の部屋からドタドタと音が聞こえてくるが、無視して歩く。

 そのままドアの前まで進み、ドアノブをひねると、ギィと音を立てて扉が開く。廊下に出る瞬間、ハルトは振り返って、


「じゃーな、クソ貴族」


 捨て台詞と共に部屋から出て行った。



ーーーーーーーーーーーーー。


「…おぉ」


 いきなり見えた未来は、明らかに勝利している絵面だった。

 いつもなら突然の場面転換に目が一瞬おかしくなり立ち眩むのだが、今回は希望に満ちた内容に感動し、前をほぼ見ていなかったので立ち眩みもなしだ。

 ただ、前を見ていなかった弊害があり、


「…ハルト?どうかした?」


 そう言いながら顔を覗き込んでくるルミリ。

その声にハッとして、ハルトの眼球が目の前の景色を正しく脳へ伝達する。

 すると、ハルトには突然近距離に弩級の美少女が飛び込んできたように見えて、


「うおおお!??」


 口から心臓が飛び出しはしなかったが、その代わり後ろへ飛びのき盛大に転んでしまった。


「え!え!?ハ、ハルト、大丈夫!?ごめんね、そんなにびっくりするとは思わなくて…」


 後ろからでんぐり返しをしたような体制のハルトを心配するルミリ。


「だ、だいじょぶだいじょぶ。ただ、健全な男子高校生に前振り無しの近距離美少女は刺激が強くて…」


「…もう、こっちは本気で心配したのに、すぐ茶化すんだから」


「だから茶化してないって」


 本気でそう思っているのに伝わらないハルトの想い。ただそれも普段の振る舞いの結果なので、本気に捉えられないのも無理はないだろう。


 転んだ衝撃で目が覚めたハルトは、足を上に振り上げて、反動で体を起こして地面に座り直して、頭をブンブンと左右に振る。


 未来視で見えた景色では、既に屋敷に侵入し、近衛をあらかた倒した後のようだった。

 ジーニスを倒すには、屋敷への侵入経路と近衛の片付け方、この二つが大きなネックとなってくるだろう。

 まずは屋敷への侵入だが、ハルトは既に一つ作戦を思い付いている。

 

「ティーゴ、使えるって言ってた魔法たち、もう一度言ってくれないか?」


 可能性の幅を広げる為、切れる手札の枚数を今一度確認すべく、ティーゴに確認を取る。

 前にティーゴに魔法の授業を受けていた時にティーゴの使える魔法を紹介してもらったが、数が多すぎて正直あまり覚えていない。

 作戦に必要な魔法は覚えているが、他にも何か状況を有利に出来るものがあるなら儲け物だ。


「分かった。説明していくから、ハルト君が紙に書き起こしておいてくれ。まずは…」


 そうして、自分の使える魔法を次々と羅列していくティーゴ。魔法の研究者を自称していたが、その名に恥じぬ数と種類の魔法がつらつらと羅列されていく。それをハルトが日本語で紙に書き起こし、記録する。

 右にワンポイントで簡単な説明を付け加えつつ、数が50に迫ろうかというところで、


「…とまぁ、このくらいだね。もしかしたら忘れてるのもあるかもだが、そこは容赦してくれ」


「いや、充分だ。正直充分すぎるが…これなら、屋敷への侵入は出来そうだな。かなりティーゴ頼りの作戦になっちまうけど…力も魔法も無い俺には、足りないところを人に頼って補うしか無いんだ。て事で、頼られてくれ」


「そこまでいくと清々しいね、勿論協力はするけど…まず、どんな作戦か聞いてもいいかい?」


「いいぜ、まずは…」


 全員の前で、作戦を説明するハルト。だがその内容は、あまりに荒唐無稽で…


「って感じだ。いけると思うか?ティーゴ」


 と、渋い顔をしているティーゴに確認を取る。正直、表情であまり期待値の高い作戦ではないと言われているようなものだが。


「…まあ、無理ではないと思うが…流石に賭けの要素が強すぎる。ルミリ嬢にも危険が及びかねない。正直、大手を振って賛成は出来ないね」


「やっぱそうか…ルミリはどう思う?」


「ボクは賛成。裏口から入ったりするのは現実的じゃないし、正面から入るしかない。なら、その作戦でいいんじゃないかな。ボクが侵入するのも賛成。この中で一番戦えるのはボクだし、何かあった時動ける人が実行した方がいいからね。…でも、ハルトは大丈夫なの?」


「俺が提案したんだし大丈夫だよ。で、ティーゴ、本人が賛成してるんだけど、どうよ?」


「…はぁ。ルミリ嬢がそれでいいって言うんなら反対しないさ。でも、ちゃんとヴランに人形を作って貰って下さいね」


「お、僕の出番かなァ?今日あんまり話に入れなかったから暇だったんだよねェ、張り切って作らせてもらうよォ」


「うし、それじゃ侵入はそれで行こう。で、肝心のどうやって近衛を倒すかだけど…ルミリが頑張って倒す以外でなんか案あるか?」


 そう言って、他の面々に意見を求めるハルト。鎧男1人であそこまで苦戦したのだ、複数人で来られたらたまった物ではないだろう。ならば、戦って勝つのは現実的ではない。

 ハルトも他の案はないかと考えていると、右の方から「ハルト様ハルト様」と声が聞こえて、


「私の作戦、聞いて貰って良いですか?」


「お、いいぞ、クロル。どんなのだ?」


 クロルが耳を貸すようジェスチャーをして来たので、それに従いクロルの口元へ耳を持っていく。

 ハルトの耳元で作戦を伝えるクロル、その話が終わると、ハルトは驚いた顔で、


「…その作戦、イケるかもな」


 と、そう呟く。出会った時から思っていたが、クロルは12、3歳の子供にしか見えない割に言葉遣いや所作が流暢で、思考力も高い。

 さらに数年間奴隷だったのなら、まともな教育を受ける機会もないだろうに、なぜここまでの教養があるのだろうか。

 だが、その疑問は今は置いておく。

 ハルトは他のメンバーの方へ向き直ると、クロルの考えた作戦を伝える。


「うん…良い作戦だ。それで決まりで良いんじゃないか?」


「ボクもそれで異論ないよ!」


「よし、それじゃソフィアさん、魔法石と指輪を買って来てくれませんか?なるべく早めに」


「おや、それでは明日にでも買って参りましょう」


「助かります!それじゃティーゴ、ヴラン、ソフィアさん、諸々の準備よろしく!」


「分かったよォ。人形が出来るのは大体2日後だと思うから、それ以降ならいつでも行ってらっしゃァい」


「私は特に事前に準備はいらないが…ソフィアが買って来た魔法石に魔法を込める都合上、明日以降にしか無理だろうね」


「なら、決行は3日後にしよう。3日後まで各自、解散!」


 こうして、ハルトの一言をもって、第一回ザケイル家作戦会議は幕を閉じた。

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