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15話【大事な話】

金曜土曜と更新できなくて申し訳ない。仕事が忙しくて書き溜めが消失したので遅れました。

お詫びと言っては何ですが、今回の話は新要素てんこ盛りにしてみました。ぜひご覧ください。

「はい、ではここに第一回ザケイル家作戦会議の開幕を宣言しまーす!ぱちぱちぱちー」


「なんでハルトが仕切ってるの?」


 食堂に集まったザケイル家の主要な面々の前でいきなり大声をあげ、指揮を取り出すハルト。

 そこに、ザケイル家の当主であるルミリからのツッコミが入る。


「こういう場で音頭を取るの好きなんだよ、任せて下さいよご主人様ぁ」


「…まぁいいけど、ちゃんと真面目にやってね?」


「ガッテン承知!」


 こんなやりとりを挟みつつ、作戦会議は順調に進んでいった。

 クロルと出会った経緯、鎧男との死闘、そして本題の…


「ジーニス・ランドル卿か…」


 ルミリの口から黒幕の名が告げられると、ティーゴが重々しく呟いた。


「そもそも、なんでそいつはルミリを狙うんだ?別になんかした訳でもないんだろ?」


「そうだね、ジーニス卿からするとボクなんて歯牙にかける価値もない弱小貴族だよ。実際ザケイル領はランドル領の庇護下にあるしね」


「それじゃなんで…」


「可能性があるとすると二つだね」


 そう言ってティーゴが指を二本立て、一本を折り曲げて話を続ける。


「一つは、力試し。ジーニス卿は本格的に当主争いに力を入れてる。周りの貴族を懐に取り込んで、力を蓄えてるって話だ。そこで、ザケイル家が取り込むに値するかの試金石が件の鎧男だった、っていう説」


 一つ目の話を終え、先ほど折り曲げた指をもう一度立てると、ティーゴの顔つきが変わる。


「もう一つの可能性は、単純にルミリ嬢が目障りって説。ヴランの身代わりがなきゃ死んでたんだろう?なら、私的にはこっちの説が濃厚かな」


「だから、何で目障りなんだよ?昔ルミリに告白して振られでもしたのか?」


「そんな理由で人殺しをするような小物なら、今頃大貴族にはなってないさ。…言っちゃ悪いけど、亜人族って種族が関係してるんだろうね」


 ティーゴが話し終えると、何となく気まずい空気が流れる。少し言う事を躊躇していた所を見ると、こうなる事は予想できたのだろう。

 だが、ハルトにその理由は分からない。

 こういう時、無知というのは嫌になる。


「…あのー、こんな空気で言い出すのもアレなんだけど…」


「何だい?」


「亜人族って、何で迫害されてんの?」


 ハルトの発言を受け、皆の反応は様々。

 やっぱりと言った顔のルミリ、唖然とするティーゴ、笑いを堪えるヴラン、相変わらずの無表情、ソフィア。

 だが、一番反応が大きかったのはやはりこの子で…


「えぇ!?ハルト様亜人族のこと知らないんですか!?どれだけ学がないんですか!?」


「学がないのは認めるけど、お前本当に主従関係重要視してんの?」


 クロルがオーバーリアクションなのは置いておいても、各々の反応を見るにやはりこちらでは常識として亜人族は疎まれる存在なのだろう。


 聞いてはいけないことだったかと己の発言を後悔しかけた時、ルミリが口を開き、


「ハルトが亜人族の事を知らないって言ってたのに、聞かれないことに甘えて説明しなかったのは悪かったね。ごめん」


「いやいやいや、ルミリが謝る事じゃねぇよ!

けど、ここまで来て知らずにいるのはスッキリしない。説明、してくれるか?」


「ルミリ嬢、ここは私が…」


「いや、良いよ、大丈夫。ボクが一番分かってるし、ケジメはつけるべきだ」


 代わりに説明しようとするティーゴを振り解き、ハルトの方に向き直るルミリ。

 唾を飲み込む音すら聞こえそうな静けさの中で、ルミリが口を開く。


「亜人族は昔、王族を皆殺しにしたんだ」


「…え?」


 いきなり飛躍した話に困惑するハルト。だが、そんな事お構いなしにルミリは話を続ける。


「この国の王族が当主制なのは、正式な王族が居なくなったから。昔々、亜人族が徒党を組んで王族を皆殺しにした。亜人族は王族に取って代わって国の執政を行おうとしたけど、勿論国民はついてこなかった。そして、今では皆が知る大宗教、当時は新興宗教だった『セラペスト』の人達が、その亜人族の一派を壊滅させた」


「ちょちょ、ちょっと…」


「そして『セラペスト』は、世襲制ではなく選挙を行って当主を決める方式を提案、国民の多数の賛成でこの形になった。この時決まった参加条件等は今でも引き継がれてる。…そして、『セラペスト』が残した亜人族への置き土産がもう一つある」


「…それは?」


「決まった血の濃さを持つ亜人族は、黒髪を持って生まれるという、呪いを」


 虚ろな目をして淡々と話を続けるルミリに、思わず息を呑む。

 この子は、こんな顔が出来たのか。


「亜人族といっても、血の濃さが絶妙に一致しないと呪いの影響は受けない。王族を殺した一派が獣人と人間の亜人、それもクォーターの亜人の集まりで構成されていた事が由来してるらしい。それまでは準亜人って呼ばれてたんだけど、亜人族って言葉自体が差別用語となって、クォーターの亜人以外その呼び方はしなくなった。…ざっくりだけど、これが亜人族が迫害される理由だよ」


 ルミリは最後に大きく息を吸い、いつもの声の調子に戻ってそう締めくくった。

 ルミリが語った亜人族の過去は、ハルトの思っていたよりも大きな罪の独白だった。

 なぜ、過去の亜人族は政権を乗っ取ろうとしたのか。『セラペスト』という宗教は何なのか。

呪いとは何なのか。

 色んな事が頭を巡るが、巡り巡って出た答えが一つ。


「…それって結局、ルミリは悪くないじゃん?」


「…え?」


 ハルトの価値観では、親や親族が犯罪を起こしても、当人が迫害を受ける必要はない。

 現代日本の道徳で習ってきたし、実際そう思っている。

 この世界では亜人族は皆大罪人で、疎まれて当然の存在なのかもしれない。だが、ハルトは自分の指針に従う。


「勝手やらかした先祖のせいでルミリが命狙われてるって事だろ!?そんなの理不尽だ!少なくともジーニスって貴族の心が狭ぇのは分かった!これで心置きなく打倒ジーニスの作戦を立てれるな!」


 不満をぶちまけるように早口で喋るハルトに呆気に取られるルミリ達。


 生まれてから今まで、自分は罪を背負っていて、差別されるのが当たり前で、それを受け入れて強く生きてきたつもりだったルミリ。

 だが、心のどこかでは誰かに認めて欲しかったのだ。迫害される亜人族ではなく、ただの『ルミリ』として。

 今の一言がルミリの心を僅かでも救った事など、ハルト本人は知る由もない。


 少しの間を空けた後、フッと笑ったルミリは、


「ほんと、ハルトって変だね」


 と、目尻に誰にも気付かれない涙を浮かべ、呟くのだった。



ーーーーーーーーーー。



「はい、じゃあ認識のすり合わせも済んだところで、本格的に作戦を考えよう。まず、ジーニスの情報を誰か教えてくれ」


「進行役が一番知識がないのはどうなのかなァ?」


「俺が聞き手でも質問攻めするだろうから変わらないと思うぞ」


「まァ、それもそっかァ」


 痛い所をついてくるヴランに、身も蓋もない反論をするハルト。

 実際の所、ジーニスの情報どころか一般常識すら危ういのだから、あと一年ほど経って、この世界に慣れてから発生してほしいイベントだった事は否めない。

 だが、起きてしまった事は仕方がない。

 この突発イベントを済ませた後、ゆっくり学んでいくとしよう。


「で、誰か情報を教えてくれ」


「多分私が一番詳しいだろうね。説明してあげよう」


「お、ありがとう、ティーゴ」


 やれやれと言わんばかりにゆるりと手を挙げ、ハルトに説明する役目を買って出たティーゴ。

 思えば、この世界の情報の7割程度はティーゴから教えて貰っている気がする。本当に神様ティーゴ様だ。


「名前はジーニス・ランドル。ランドル家の3代目だ。1代目は、商業都市ランドルの創設者で、自らが大きな商会を持つ事でランドルの経済を発展させていった立役者でもある。2代目に実権が渡るタイミングで爵位を授かり、今ではここら一帯で1番の大貴族だ。…ハルト君は知らないだろうから説明するけど、今のロイス王国では5つの大貴族が台頭していて、ランドル家はその一角だね」


「配慮が染みるぜ…」


「2代目は貴族と商会主の仕事を同時に進めて、ランドル家をさらに大きくしていった。ここまでは領民達からの評判も良かったね」


 微妙に棘のある言い方をするティーゴに、ジーニスの性格が垣間見える。わざわざ2代目まではというのだから、領民からの評判が悪くなるような執政を行なっているのだろう。


「ハルト君も察してると思うけど、3代目…ジーニス卿の評判は正直良くない。もちろん、国民の票がいるから市民には良い顔をしてるけど、ランドル家をさらに大きくして国の当主になるため、危険な線を越え始めてる。禁止されてる薬物の売買、反抗する貴族への武力行使、他貴族の領民からの支持を得る為の賄賂…まあ、いい噂は聞かないね」


「思ったより最悪の貴族だな!?そんなやつが五大貴族に入ってるとか嫌すぎるだろ!」


「実際、ジーニス卿の代になってからも力は伸び続けてるからね。今までのやり方だけじゃここまで大きくはなってなかったと思うよ」


「世知辛い…力がある家じゃなくて、より人格者が治める国がいいぜ、どうせなら」


「それはみんなの思うところだけど、そもそも今話したのは裏の顔だしね。世間一般では良い貴族で通ってるし、黒い噂なんて市政には届いてないよ」


「じゃあなんでティーゴはそんなこと知ってるんだ?」


「それは私の『天輪てんりん』のお陰だね。我ながら便利な物を授かったと思うよ」


「へぇー、天輪の…天輪ってなに?」


 ハルトが疑問を投げかけた瞬間、ティーゴの動きがピタリと止まり、動き出したかと思うと深くため息をつく。


「…ハルト君、君は何なら知ってるんだい?君の地元じゃ教会で天輪授与はないのかい?」


「国の名前とか魔法知らない時点でお察しだろ、もう。で、天輪ってなんだ?教会で貰えんの?」


「天輪っていうのは、1人1つ絶対に持ってる能力のことだよ。セラペストの教会で教えてもらえる。どこの地域でも6歳の時に教会に行く義務があるんだが…まあいいか。天輪の能力もピンからキリまであって、高い身体能力だったり剣の適性だったりの汎用天輪から、他の人は持ってない特異天輪もある」


「へぇー、それでティーゴの天輪って何なんだ?」


「…ハルト君に教えると知らない人に言いふらされそうで怖いね。言わないでおこうかな」


「俺の印象悪すぎだろ!?気になるじゃねぇか!」


「すまないね、そもそも特殊な天輪はあまり人に言いふらすもんじゃないんだよ。ジーニス卿の天輪も世間に知られてないしね」


「そんな力があるなら、ジーニスがどんな天輪かは知りたいところだったが…ティーゴの天輪で調べたり出来ないのか?」


「それが出来たらやってるよ。付け加えると、私が持ってるジーニス卿に関する情報はこれで打ち止めだ」


 ティーゴはそう言って、両手をひらひらと宙で振り、もう何も持っていないとジェスチャーで示す。

 ジーニスに関しては詳しくなったが、こちらが有利になる情報や、相手の弱点は出て来なかった。

 出来ればもう少し情報を手に入れてから作戦を立てたいところだが…


 そう思った時、今まで一言も喋らなかった彼女が、スッと手を挙げ口を開き、


「おや、でしたらここからは私がジーニス卿の弱点等々、仕入れた情報を共有させて頂きたいのですが、よろしいですか?」


 願ってもない申し出をしてくれたのだった。

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