START
コンコンとノックをしてから国技館の控え室に入って来たのは、大会運営委員側のスタッフだった。
「『ヴィクトリア』さん、間もなく試合始まります」
半開きの扉から顔を出すと一言そう告げて直ぐに出て行く。
「じゃぁ、行こうか」
「うん」
結弦が先に立ち上がるのに続いて、私も頷いて立ち上がった。
すると、同級生で今年チームに在籍したばかりの幸真が私を心配して来た。
「渚、あんまり無理するなよ?」
「元いじめっ子が何か言ってる」
茶化すと、「おい!」と言って咎めてくるのを私はふいっと無視する。
そんな私たちの様子に、後ろにいた悠斗が肩を組んで止めに入って来た。
「はいはい、行くぞー!」
控室を出て関係者通路を私達は歩く。
会場のステージに登壇すると、向かい側から対戦相手の『ユニー』の面々も上がって来た。
観客席を見渡すとかなりの人が集まっている。中には推しうちわを持ってきている人もいた。
非公式戦と言えど、人気ゲームだけあって注目度が高いし、推しのゲーマーに会いにわざわざ見に来る人もいる。
けれどまさか、毎年ここまで人を呼べる集客度に関心を覚えていた。
用意された椅子に座ると、対戦チームの一人を見た。
是近だ。用意された椅子に座ると会場を見渡してふんぞり返っている。
そんな偉そうな態度からは数分前に起こった先程の暴行に対する反省の色が見えない。
(やっぱり良いね。潰しがいがある)
生意気な態度に私はニッと笑った。
「それで? 試合ではどうするんだ?」
「私はあいつを嬲りに行くよ」
「はいはい。じゃぁ、三人でリスポーン水晶の破壊だね。
幸い相手のリーダーは俺と同じスナイパータイプだから戦略と実力で勝敗が決することになる。幸真、初めてだろうけど一緒に頑張ろうね」
「はい」
「うしっ、やるか! 練習で俺との連携は完璧だったからな。勝てるぞ!」
「結弦。私は手が空き次第、向こう侵入するから。他にも離れた奴がいたら仕留めるつもりだから言って」
「うん、頼むよ。じゃぁ、始めようか」
司会者が試合開始の台詞を言うと、会場はわっと盛り上がった。
「それでは始めさせていただきます!」
カウントダウンが始まり観客席からの声も重なった。
『スリー! ツー! ワンッ!』
目の前のPC画面がよくある青の壁画からビルの建つ街並みへと構築されて行った──。