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青空  作者: もり まも
8/10

第8話 大きい子と私の目

5月18日

 ピヨピヨ。ピヨピヨ。

 夜は少し目が痛かったけど、朝、起きると毎日見え方を確認している雑誌の小さな文字が少し見えるようになっていた。自覚的には少し改善してきた感じだ。

 8:30 朝の診察。渡辺先生

 「昨日は長谷川先生に会えましたか?診てもらえました?とても心配していて・・・」

 「はい。会えました。もう一人の先生が診察しているときに、いらして」

 「もう一人?」

 「あの、お若めの・・・」

(研修医君のことだよ)

 「あー、大きい子ね。嫌なら、言ってくださいね」

 (いやー、言えませんよー。嫌だなんて。“大きい子”なのですね。私もそう呼ばせていただこう・・・研修医君。)

 「目の濁りは、下げ止まっているので、何とか運動会前に帰られるように、考えましょうか。火曜日にまた診察があるので、そこで治療方針決めますね」

 (おー、ついに出た、退院の言葉。。。)

 「ありがとうございました」


 やっと良い方向で話が進んだので、午前は、久しぶりに仕事をする気持ちになり、7月に依頼されている作業療法士学会のシンポジウムの準備をすることにした。パワポの資料作りを2時間もするとさすがに疲れた。部屋は先ほどまで入院していた暑がりのおばさんのせいなのか、エアコンががんがんに効いている。あまりに寒いので新館まで行き、タリーズでカフェオレを買った。もう常連だ。温まりながら昼ご飯まで仕事をした。入院中もじっとしていられない性格だ。


5月19日

 ピヨピヨ。ピヨピヨ。

左目の中心部分だけが少し澄んできた。。。

 朝の診察。初めてお会いする若い男性の先生。たぶんこの人も研修医。

 「当直だったので、今日は僕が診察させていただきます」

 (おや、渡辺先生は?)

 「もうちょっと診せてくださいね」

 「私も診せてくださいね」

 と別の女医。二人とも何も言わずに診察が終了した。

 「いいですよー」

(って、良くわからないんだろうなー)

と思いながらお礼を言った。

 「ありがとうございました。」


午後は彩音とパパが来た。

 「ママ、いつ帰ってくる?別れたくない・・・」

 「ここでごはん食べてく?」

首を横に振って、がんばって帰っていく彩音。

涙は流れるし、鼻はつまる。

病棟で心配してくれる看護師さんの声掛けに声が出せない・・。

鼻がつまってごはんも食べづらい。


5月20日

 朝の診察。渡辺先生

 「はい。まっすぐ見てください、上見てください、右上、右、右下、下、左下、左、左上。。。少し濁りもよくなってきました。順調だと思いますよ。午後、検査させていただきます。あと明日また上原先生の外来で診させてもらって、方針決めましょう」

 「そうですかー。ありがとうございます」

 一度部屋に戻って朝食を食べていると大きい子がやってきた。

朝の診察。大きい子。

 「森林さん。診察お願いします。あー、ご飯中ですね」

 「いいですよ。診察行きましょう。」

 私もなぜか上から目線。どうぞどうぞ診させてあげましょう。大きい子。。。

 「まっすぐ前見てください。左見てください」

 左?

 「右」

 右?

 「左」

 また左?

 「右」

 また右?

 「右上、右下・・・」

 おい、だいじょうぶか?

 

9時 点滴

今日の担当看護師さんは甲賀さん。

「森林さん。おはようございます。点滴しますね。少し良くなってきたと聞きましたよ。運動会、行けそうですね」

甲賀さんはいつも優しい。本当に頼れる。患者さんにやさしいというのは医療職にとって本当に大切なんだとつくづく分かった。


13:00 外来で検査

 眼圧、視力、眼底の写真、あとは何やらもう一つ写真を撮った。

 矯正視力は0.8まで回復とのこと。

(でもまだこんなに濁っているのですけど・・・。)

 左目で周りを見ると、目の前に黒ゴマをばらまいたように見えていた。

 眼底検査前に両目散瞳したので、ちかちかしすぎて、何もやることができない・・・・

 帰室後は目を閉じて過ごした。


16時 シャワーの時間。看護師さんがやってきた。

 「森林さーん、シャワー室のドアが壊れまして・・・・シャワー入られたことありますか?あのガラスが割れまして・・・。時間を変えていただきますか」

 おー、そんなことがあるのか

 「だいじょうぶですよー。」

 「19時?19時半とかどうですか」

 「では、19時で」

 シャワーの際は、看護師さんに点滴のルートをビニールで覆ってもらわないといけないのだが、夜勤の時間帯は、看護師さんの数が少なく、忙しそうなので気が引ける・・・・。それでも、数少ない病棟生活の楽しみなので、入らせてもらうことにした。シャワー室のドアは、養生テープで応急処置がされていて、外から見られることもなく、無事に入ることができた。


1時 点滴の時間

 いつものように目が覚める。明日の診察のことが気になって眠れない。

 (水曜日に急に退院かな・・・あと1週間点滴と言われるかもしれない。土曜日の運動会当日に退院?それはまずい。退院の手続きしている時間なんてないぞ。運動会に行かなくちゃ。外出なら・・・金曜日に一度外出してお弁当の下ごしらえをして戻ってきて、土曜日の朝7時にもう一度外出か?そんなことさせてくれるのか?)


5月21日

 ピヨピヨ。ピヨピヨ。

 8:30 朝の診察。大きい子。

  「森林さーん。おはようございます。診察お願いします。」

  「はい。わかりました」

 部屋を出て左に行き、右へ曲がって診察室へ行く。

 「はい。ではまっすぐ見てください。左見てください」

 やっぱり左?

 「右見てください」

右?

 「上見てください」

上?

 「下見てください」

おー、下ですね。

 (君は先輩の診察を見ていないのか?!)

 「いいですよー」

 (なにがいいんだ?)

 「あとでもう一度渡辺が診ます」

 (ぜひそうしていただきたいです。)

 「ありがとうございました」


大きい子。何とか患者さんに愛される医師になってもらいたい。がんばれ、大きい子。




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