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青空  作者: もり まも
4/10

第4話 入院こわい

5月6日 眼科診察室

「んー・・・・・・・。一応右もね。散瞳しましょう。やった方がいい。両目に罹患する確率は30%です。それから造影検査させてくださいね。点眼します。」

「じゃあ4時に戻ってきてね」

そう長谷川先生が言い、とりあえず診察が終わった。

 今さしてもらった散瞳の目薬なのか、涙なのか、自分でもわからないけど、次から次へと目から水が溢れてくる・・・。

 涙を押し戻してとりあえず、リハビリテーションセンターへ戻り、今日の患者さんの電子カルテを入力した。最後の患者さんのところへ行けていない・・・。申し訳ないけど、明日後輩に行ってもらうように申し送りをした。

 (もう4時だ。眼科へ戻らなくちゃ。)

 「疑わしきはやっつけておかないといけないからね。今日は点滴をします。」

 「それから明日、蟻ケ崎大学病院へ行ってね。原因を調べるのに目に細い針をさして生検するんだけど、それがここではできないから。紹介状書いておくから、明日早く行ってね。たくさん検査あると思うし。明日はちょうどぶどう膜専門外来もあるからね。たぶん入院です。入院の準備をして行ってね。ぶどう膜専門の先生に伝えておきます。」

 入院。

 (えっと、芦田さんに明日お休みいただくことと、そのまま入院になる可能性を説明して・・・

 それから家は・・・パパに入院になるかもと伝えて・・・。彩音に言ったら泣くから、まだ内緒。でもママは目の病院に行くって言っておけばいいかな。小学校は、とりあえず行かせて・・・・夕方は学童だから、学童の先生には・・・・ん-、パパに伝えてもらおう。

 入院。

(切迫流産の時以来だ・・・。えっと、パジャマと下着、歯ブラシ・・・あとは?一体何泊なんだ?スリッパ?本?)



5/7 

 「今日ママは、目のお医者さんに行ってくるからね。病院時間がかかるかもしれないから、お迎えが遅くても、学童で待っててね。」

 とても入院とは言えない・・・。今日はパパがお迎えになるだろう。

 わが子彩音。だいじょうぶなのか・・・?

 「ママ、深志病院お休みするの?」

 「そう。今日はお休み。」

 「ずるーい!」


彩音の登校班といっしょに家を出発した。目のお医者さんに行くにしては荷物が大きい。彩音の背中を見送り、浅川神社前のバス停から横浜市営バスに乗って鶴見駅へ向かった。京急電鉄の各停に乗って、萩屋敷で降りた。「萩屋敷」花やしきみたいな名前だなと思った。あれは遊園地か。萩屋敷。初めて降りる駅だった。改札を出ると正面にはベーカリー。今日は寄れない。駅前の案内看板には右へ行くとスポーツセンター、左へ行くと蟻ケ崎大学病院の表示。私は左へ行く。そこは昔ながらの商店街があった。八百屋さん。今日は寄れない。焼き鳥屋さん、カフェ、自然食品屋さん、ドラッグストア。全部寄れない。商店街の出口にはおいしそうなカレーパン屋さんがあった。

(よし!退院のときにはカレーパン買って帰ろう!)

商店街を出て、右へ曲がると蟻ケ崎大学病院が見える。2号館に入るとすぐに外来受付へ行った。深志病院の長谷川先生が書いてくれた紹介状を出すと、

「池田先生の診察ですね。今日はいらっしゃるので、受診できます」

と受付の方に眼科外来を案内された。

受付の前のエスカレーターを上り、1号棟の2階へ行く。長い渡り廊下の左側には、今通ってきた道が見えた。あの道を踏むのはいつだろう。渡り廊下の右側にはアパートが見えた。日常生活を営む初老の男性やこれから出勤をしていくだろう若い女性の姿が見えた。私は大学病院の渡り廊下を進む。そこには各科の外来ブースがたくさんある。眼科は産婦人科と神経内科の間にあった。窓口に診察券と受付票を出すとすぐに名前を呼ばれた。

 まずは視力検査室に入った。眼圧測定、視力測定、眼底検査して、なんだかわからない機械で検査をたくさんやった。そして検査をしてくれた視能訓練士さんの横に立っている若い男子に気づいた。・・・研修医か?髪はくるくる。背が高い。目は丸くて、泳いでいる。視能訓練士さんと検査を代わると、視能訓練士さんに注意された。彼の右手で私の目をグイと開けると、そのままいつまでたっても閉じさせてくれない。

(おい!)

私の目からはどんどん涙が・・・。思わず彼の右手から顔を放す・・・。

 次は造影剤検査。造影剤を入れるのは・・・またしても君・・研修医の君か・・・。手が震えているではないか!点滴の針刺しが異常に痛い・・・。


 おそろしい検査の時間が終わり、待合室で40分ほど待っているとようやく池田先生の診察に呼ばれた。

 「長谷川先生にはだいぶ怖いことを言われたと思うんですけどね。たしかにぶどう膜炎のようです。入院して点滴します。午後ぶどう膜の専門の先生が来るので、その先生に診てもらいましょう」

 午後13時にぶどう膜専門外来上原崇先生の診察の予定が入った。

 

「診察までに入院の手続きをして、昼ご飯買ってきてくださいね」

と外来の優しい看護師さんに言われた。今は11時半。入院手続きというのは時間がかかるものだろうから、意外と忙しくなりそうだった。

 入院手続きが終わると既に12時半を過ぎていた。

(昼ご飯?売店?)

売店は地下にある。薄暗く、昔ながらの病院の売店という感じだ。チキンサンドとやらを買い、大忙しで眼科外来近くへ戻り、待合室でほおばっていると名前を呼ばれた。

 「診察の前に、針を目にさして水分を採る検査をしますね」

(・・・・って、やるのは君・・・、研修医の君なのか?)

隣には指導医らしき女医さんがいた。女医さんにやってもらいたかったが、私の横で「検査は私がします!」という雰囲気で準備をしているのは明らかに研修医の彼だった。

 診察台に座り、左目が閉じないように、プラスチックの洗濯ばさみのような目明け装置を装着して、針を刺す・・・。意外にも痛くはなかったが、研修医の君・・・君が怖い・・・異常に怖い。。。

 無事にとは言いたくないが、検査が終わると

 「じゃあ、ごはんはここで食べてくださいね」

と診察室の隅にあるベッドを案内された。緑色の診察用ベッドの上で残りのチキンサンドを食べた。あの薄暗い売店で買ったチキンサンドは、おいしかった。とてもおいしかった。


 14:30 ようやく上原先生のぶどう膜外来に呼ばれた。

 「ぶどう膜を専門にさせてもらっていますのでね。ちょっと診察させていただきます」

 「まっすぐ前見てください。上見てください。右上、右、右下、下、左下、左、左上」

 (この先生誰かに似ている・・・・)

 「入院してもらって、点滴で治療していきます。2週間点滴させてくださいね」

 (あ、私が新人の頃にいた病院の先輩だ。)

 なんていうことを考えていると、上原先生の診察室を担当している看護師さんは、

 「入院の準備はしてきて・・・あ、してますね」

 と言い、私の大きな荷物をみて私が入院準備をしてきていることが分かった様子だった。

「はい。そのようになるだろうと聞いていました」

 でもやっぱり少し落ち込んだ。診察室を出ると大急ぎで、必要なところへ連絡をした。

 パパ、両親、職場・・・・まずは、これでいい。


 15:30 外来看護師さんと病棟へ移動することになった。

 「病棟にご案内しますね。森林さんはリハビリの仕事をされているんですか?」長谷川先生から情報が漏洩しているようだ。

 「はい。。。」

 「PTさん?OTさん?」

 「OTです」

 今はあまりアピールする気持ちにもならない。

でも優しく声をかけていただいたのは、うれしかった。

 「病室は7階西の2707号室になります」

 (おお!何か昔懐かしいたたずまいの6人部屋・・・。すごいです・・・。)

部屋は狭く、入り口のドアは木製だった。1人1人のベッドが置かれているカーテンの中は網棚つきの電車のような雰囲気だった。

 その日は6人部屋に私を入れて4人だ。窓側のお二人は妙に仲が良いようだった。

 「人工関節にしたの。だいぶいいのよ」

 (この患者さんリウマチ?)

 「〇×さん、今日リハビリは行ったの?」

 (リハビリ?リハビリとは、ここは何科なんだ?)

 そこへ病棟の看護師さんが入ってきた。

 「〇×さん!機械当てましょうか」

 (機械?CPMか。どうみても、整形の病棟ですよね・・・)

 まずは同室の患者さんたちにご挨拶をすることにした。

 「森林です。よろしくお願いします」

 「お姉さんはどこがわるいの?」

(ってもう40代も終わりますけど。)

 「眼科なんです。」

 「眼科?」

 (はい。眼科ですけど・・・。)

 こうして私の入院生活が始まった。


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