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青空  作者: もり まも
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第10話 病院から運動会へ行く

第10話 病院から運動会へ行く

5月23日

朝の診察 大きい子。

「はい。ではまっすぐ見てください。左見てください」

やはり左。

 「右見てください」

右?

 「上見てください」

上?

 「下見てください」

下ですね。

「はい。終わりです。ありがとうございました。今日はまた8時半から回診です」

「わかりました」


朝の診察 渡辺先生

「ちょっと痛みがあったんです」

「変わりないですからね。痛みは心配しなくていいですよ。今日、また検査させてくださいね。」

「はい。わかりました」


8:30 教授総回診

 ベテラン患者なので8:29に診察室へ行き、1番に並んで、1番に回診してもらう。

「まだcellあるね。KPね。これがKP」

 さすが教授、わかるのですね。


9:30 蟻ケ崎大学病院の同じく眼科に以前から通っている深志病院の石坂さんが本日外来受診とのことで、診察時間に合わせて2階の眼科外来前へ行き、会いにいった。石坂さんも元気そうだった。

「あとどのくらい入院ですか」

「1週間くらいみたい」

「退院しても無理しないでくださいね」

と温かい言葉をもらう。

(どうもありがとう。)

そのとおり。これからは少しペースを落として歩んでいかないといけない。それをもう一度自分に言い聞かせた。


10:40 PCR検査

 また目に針を刺して、目の水分を採取しての生検だ。ウイルスがどのくらい残っているかを見る。

 (どうか渡辺先生が刺してください・・・。)

隣には大きい子!

 (渡辺先生~!!)


 私の願いが叶い、渡辺先生が刺してくれた。よかった。

 結果は1週間後に出る。

「では、明日から外泊ですね。書類書いておきましたから」

「ありがとうございます」

「ステロイド飲んでますから、感染には気を付けてください。あと、万が一網膜が剥がれたら、すぐに戻ってきてください」

「わかりました。」


11:00 独り言が多い、隣のおばさん、退院。

 「さあ、会計しなくちゃ。会計。」

 (早くした方がいいと思います。会計しないとだめです。払いましょう。入院費。。。)


6人部屋に3人となった午後。何もやる気がしない。。。仕事はもちろん、音楽聞く気にもなれない。。。。そんな私を救ってくれたのはバラエティ番組だった。ニュース以外はあまりテレビを見ないようにしていたけれど、この日はお笑いってすごい!と思った。私の沈んでいき場のない気持ちを、やわらかくしてくれた。


5月24日

今日から初めての外泊。うれしいけど、不安。

(私の網膜頑張れ!どうか剥がれませんように)

と祈った。

久しぶりに商店街を通り、萩屋敷の駅までの道のりを歩き、電車に乗った。スーパーで買い物をして、夕ご飯のハンバーグを作り、明日の運動会の弁当の下ごしらえをした。家中の掃除もした。パパと彩音、二人暮らしもたいへんなんだろう。掃除もちゃんとしていない。それにしてもやたら疲れる。でもうれしい。もうすぐ彩音も帰ってくる。


「ママ―」

「おかえり」

「明日の運動会、がんばる」

「楽しみだなー」


その夜は久しぶりに彩音とくっついて寝た。


5月25日

 今日は彩音の運動会。小学校は入院中の私のために来賓席を用意してくれた。マスクをして眼鏡をかけて、3kgやせた体で学校を歩いていたら、妙に心配された。学校の先生、遼君のママ、保育園時の先生。。。。

「大丈夫ですか?」

次々聞かれる。

“彩音ちゃんのママ、相当体の具合が悪そうだ”

と思ったに違いない。

途中から来賓席を抜け出して、徒競走のゴール近くのベストスポットへ移動した。

「次は2年生の徒競走です」

低学年は背の順で走る。彩音は最後から2番目の組。

「彩音、行けー!!!」

彩音はがんばって2位だった。涙が出た。

5月とは思えない暑い運動会だった。でも忘れられない運動会になった。


運動会終わって、病院へ戻る車の中。彩音が泣きながらくっついて離れない。

「ママ、行かないで」

(ごめんね。。。あともう少し。)


病院へ戻った。

「森林さーん、おかえりなさい!」

「おかえりなさーい。運動会、どうでしたか?」

看護師さんがみんな声をかけてくれる。ここの住人みたいになってきた。無事に戻ってこれたことは、とにかくよかった・・・。

自分のベッドには、担当看護師甲賀さんからのお手紙があった。

“おかえりなさい。運動会は盛り上がりましたか?”

優しさってありがたい。。。。。仕事に戻ったらこんな気遣いができる作業療法士になろうと誓った。


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