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神様の定規(4)

 食べ終わると、文房具コーナーの行き、いくつか便箋や付箋、シール、ボールペンを選んでみた。


 便箋は、お手紙カフェ・ミコトバというロゴが印刷されているものもあった。レトロな書体がインパクトがあり、シンプルながらインパクトがある便箋だった。付箋やシールもたくさん種類があり、花柄や動物、スイーツがデザインされている可愛いものが多かった。マキは目をキラキラとさせながら、可愛い付箋やシールを選んだ。


 まず、店主の美琴さんにランチプレートの感想やお礼を付箋に書いてみた。便箋で書くのは大袈裟なので、付箋に書き、プレートのはじっこの貼り付けた。


 店長さん


 とっても美味しかったです。特に野菜たっぷりの味噌汁を飲んでいたら、元気になれるような気がしました。


 そんな文字を描いていると、少し気分が整っていくような感覚も覚えた。静か波音やコーヒーのおかげもあるだろうが、飽田市駅前で道に迷っている時のような焦りや不安は消えていた。


「お客様、ありがとう!」


 いつの間にか美琴さんがそばにやってきて、トレイを片付けてくれた。再びそばにコーヒーポットを持ってやってきた。


「コーヒーのおかわりはいかが?」

「いえ」

「可愛い付箋をくれたから、一杯サービスしますよ!」


 これには嬉しく、マキは笑顔でコーヒーのお代わりを頼んだ。


「ところで、ここはどこですか? 何かいつの間にか海辺のここに来てしまったような感じなんですけど」


 さっきまで笑顔だった美琴さんだが、ここで真顔になった。そばかすが浮いた素朴なルックスのお陰で怖くはなかったが。


「これが地図よ。この通りの道を通れば飽田市の駅前につくから」

「本当ですか!」


 美琴さんから地図を受け取り、かなり安心してしまった。地図は印刷されたもので、あらかじめ用意しているもののようだった。たぶん、道に迷ってここに辿り着く人が多いのだろう。ハガキサイズの地図だったが、これで帰れそうだった。


 地図をひっくり返すと、裏面に何か印刷してある。


 『お手紙カフェ・ミコトバにようこそ。こちらは2号店です。本店は天国にあり、店主の趣味で運営しているので、至らない所はご了承ください。店主・葉本美琴』


 え?


 天国? 本店?


 美琴さんにどういう事か聞こうとしたが、再びカウンターの内に行き、コーヒー豆をゴリゴリと挽いていた。仕事中に話しかけるのも気が引け、再び文房具コーナーを見てみた。


 文房具コーナーにある掲示板にある美琴さんのお悩み解決コーナーも見てみた。


 中には自殺や病気などにヘビィな悩みも扱っていたが、美琴さんは綺麗な文字で回答していた。何故か聖書の言葉を引用しながら、解答していたが、それが返って浮世離れた雰囲気を演出していた。可愛い便箋やメモ帳、付箋でお悩み相談や解答も書かれているので、見た目だけは華やかだった。


 もしかして、ここは天国?


 マキは再び頬をつねる。確かにヒリっと痛い二で、自分は死んではいないようだ。それにしても、さっき見た本店や天国ってどういう事だろう。疑問が頭の中で渦巻くが、深く突っ込んではいけない気がした。


 そんな事を考えていたら、自分も何かお悩み相談を書いても良い気がして、相談者は全員無記名かペンネームで相談しているので、マキのハードルは限りなく下がっていた。


 再び便箋を選び、書いて見る事にした。花と猫のイラストが書かれた派手な便箋を選んでみた。自分の容姿とは全く違う可愛いらしい便箋だった。


 書きやすそうなボールペンも借り、テーブルに戻る。コーヒーを啜りながら、ゆっくりとボールペンをは走らせていた。


 店長の美琴さんへ


 私は高校三年生です。妹は、とっても可愛い容姿で、親も自分より可愛がっています。学校でも容姿について悪口を言われちゃったりします。自分でも可愛いものが好きなので、可愛くなれないのが悔しい気持ちは強いです。平安時代だったら、私は美人かもしれませんが、今は令和です。今の価値観では、私は「ブス」だという事は、知っています。


 なので、整形しようと思っています。二重にするだけだったら、バイト代と貯金でも出来ますし、どう思いますか?整形をやった方が生きやすくなると思いますか?


 マキはそう書き、便箋を封筒に入れると、掲示板のそばにあった小さなポストに入れてみた。


 確かに書くだけで、少しは気分が落ち着いてきた。


 再び席に戻り、コーヒーを啜る。


 確かに自分は令和美人ではない自覚はある。妹や両親の事を思うと、泣きたい気持ちだ。でも、二重になったら、幸せになれるんだろうか。二重の顔が幸せを運んできてくれるんだろうか。


 マキは、それは違うような気もしてきた。


「お客様、書いてスッキリしましたか?」


 そこに美琴さんが話しかけてきた。水のお代わりを持ってきてくれたようだ。ここの水はほんのりとレモンの香りもして、気づくと飲み干してしまっていた。


「そうかもしれない」

「なら良かったです」


 美琴さんは、うかにも不器用そうな笑顔を見せていた。


 その後、他に客もやってきて、帰る事にした。可愛いシールや付箋も持ち帰っても良いみたいなので、手帳にちょっと貼り付けて帰った。元を取ろうという気はなく、このカフェがあまりにも浮世離れていたので、確かの自分がここにいた証拠が欲しかった。


 美琴さんに受け取った地図通りに帰ると、ちゃんと飽田市の駅前の戻ってこれた。


 美容整形の病院に行こいうとしていたが、今日は行く気分が失せていた。あのお悩み相談の手紙の返事を待ってからでも良いかもしれない。


 家に帰ると、マキの予想外の事が起きていた。妹が変質者に襲われ、病院に運ばれているという。幸い、命には別状はないが、精神的ショックが大きく、しばらく入院する事になるらしい。


 両親は病院につきっきりで、マキは家の留守番や妹の下着やパジャマなどを準備する事になった。


 妹は憔悴しきり、両親も参っているようだった。電話の声からは、両親の声も疲れきっていた。


 両親によると、妹はこういう被害によくあっていたらしい。子供の頃は、誘拐未遂にもあい、身体に傷も残っているらしい。マキはすっかり忘れていたが、子供の頃にも騒ぎがあった事を思い出す。だから両親はマキよりも妹の方を過剰に気にかけていたと告白もしていた。


「そんな……」


 マキは絶句し、これ以上言葉は出てこなかった。しかも妹は、毎日平和に過ごしているマキに嫉妬しているという事も知った。


 確かに女性は可愛い方が良い。自分も可愛いものが好きだ。しかし、全てが良い事なのかは分からなくなってきた。


 容姿の可愛さが、幸せを運んできてくれるのでは無いのかもしれない。そんな事を思ったりしていた。


 とりあえず、美容整形の病院に行くのは、やめておこうと決意した。

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