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お手紙カフェ・ミコトバ  作者: 地野千塩


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生きる言葉のラベル(1)

 花澤環は、自己肯定感を持てない事に悩んでいた。口癖は「どうせ私なんか」。気づくと、自分の悪いところをグルグルと考えてしまう。


 仕事は、とあるイベント解釈の経理部で契約社員として働いていたが、つい先日クビになった。疫病の影響をうけ、人員整理しなければならなくなったようだった。元々契約更新するつもりはなく、転職活動をしようと考えていたところだったが、色々とダメージは受けていた。まず、転職活動が一向にうまくいかなかった。失業保険があるが、数々の不採用通知を見ていると「どうせ私なんか」という言葉が頭をかけめぐった。もう三十社近く応募しているが、面接すら数社しか進めていなかった。


 不況の影響もあるだろうが、ライバルは人というより機械ような気もしてきた。昔は環のようなスキルの女でもそこそこ働き口があったらしいが、今はそうでもない。たぶん自分はAIのスキルより劣っていると思うと、環はさらに憂鬱になってきた。仕事は選ばずにあるというが、会社の方はコスパの良い人材というか社畜を選んでいるので、なかなかマッチしない。


 そんな折、書店に行った環は飽田市という関東の中核市に住んでいた。駅前はごちゃごちゃとして治安もあまり良くなかったが、新しいマンションや商業施設なども続々と建てられていた。都心まで通いやすい立地条件もあり、少しずつ人口は増えているようだった。


 あまりにも転載活動がうまくいかない環は、飽田市の駅ビルにある書店に向かった。


 ワンフロア丸ごと使っている大きな本屋だった。さっそく資格やビジネス系などの本を探そうとしたが、見ているだけで憂鬱になってきた。ただ本を見ているだけなのに「どうせ私なんか」という言葉が、ぐるぐると駆け巡る。転職活動のため、真っ黒なスーツを着ているが、心まで黒く濁ってきそうだった。


 思えば、このスーツも工場で大量生産されたものだ。着ていると自分も工場の部品になったような感覚も覚えた。昔はもっと道行く人の服装も色鮮やかだった記憶があるが、今はみんなマスクをしているし、人というより部品のように見えてしまった。このまま転職先が決まらなければ、自分は欠陥品という事になるだろう。昔の社会はもっと欠陥品にも大らかだった気持ちするが、今はそうでもなく、発達障害や精神障害のラベルを貼られているようだ。


 実際、書店の目立つところに発達障害や繊細な人に向けた本がたくさん置いてあった。それだけ悩んでいる人も多いのだろう。


 環はそんなコーナーの方に向かった。環のようなアラサー女性をターゲットにしているのか、可愛いイラストが表紙のものも多かった。全体的にパステルカラーで目を引く。発達障害や繊細さんに向けた本のそばには「自己肯定感を持ったら全部うまくいく!」というタイトルの本があった。


 自己肯定感。


「どうせ自分なんて」なんて思っている環にとっては、一番欠けているものにも思え、手に取って見た。心理カウンセラーが書いている本で、占いやスピリチュアルの本と比べて怪しくは無い。表紙も薄いピンク色で猫のイラストが描かれていて可愛い。パラっと捲ると文字も大きくて読みやすそうだった。値段も1500円ぐらいで転職活動中の環は、躊躇してしまうが、気になってしまった。自己肯定感を持てば、自信を持って面接で受け答えも出来るかもしれない?


 少し迷ったが、その本をレジに持っていった。この本を読んだら、何か変わるのかもしれない。「どうせ自分なんて」なんて思う自分は嫌だった。そこから抜け出したかった。

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