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お手紙カフェ・ミコトバ  作者: 地野千塩


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求める為の恋文(2)

 和葉は、バイトの帰り、すっかりと疲れながら、最寄りの駅についた。まだ昼間だったが、和葉の顔は疲れていた。


「理想の彼氏の作りかた」によると24時間、良いイメージングをしていると、良い現実が引き寄せられるという事も書いてあり、ずっと康二が彼氏になるイメージをしていた。最初は楽しかったが、ずっと続けていると逆にしんどかった。逆に「こんな彼氏できるわけがない」、「喪女が何言ってるの?」という声が聞こえそうで、良いイメージを保つのは、想像以上難しかった。


 他にノートに書いたり、さまざまなメゾットも試していたが、簡単なように見えて、メンタルはゴリゴリと削られていった。隣町のファミレスでバイトをしているが、ミスを連発し、先輩に怒られた。具合が悪い事にし、昼間に帰ってきたが、本当に具合が悪くなりそうだった。


 本当に「理想の彼氏の作りかた」という本が効果があるのかわからなかった。ネット書店のレビューや口コミを見ると、評判は良かった。こういったレビューを見ると、自分が悪いのではないかと責める気持ちも生まれて、さらに疲れてしまった。


 和葉はぐったりと肩を落としながら、駅の南口から家に帰る事にした。南口の方はパチンコ屋や風俗店があったりして雰囲気はよくない。昼間なので客引きや酔っ払いの姿が見えないが、その点は安心だったが、ゴミ捨て場が汚く、生ゴミが散乱していた。生ゴミ特有の変な匂いが鼻をつき、気分が悪くなってきた。


 本当はこんな道を使いたくなかったが、一刻も早く帰りたかった。この道を使う方が近道だった。


 こうして鼻をつまみながらも、康二が彼氏になったイメージングを試みる。こういった事は、恋愛ドラマや漫画しか知らず、やっぱり上手くイメージできない。そのイメージ自体があやふやなので、よりイメージングが大変だった。そして、逆に悪いイメージや言葉が頭に浮かび、もっと気分が悪くなってきた。やればやるほど、迷路の中に入り込んでいるようだった。それでも「理想の彼氏の作りかた」の言っている事は正しいだろうし、和葉は自分が間違っているように感じた。自分を責めていた。一応義務的につけているマスクが息苦しい。


 ふと、目の前に野良猫が横切った時だった。三毛猫がさっと視界から消えたと思ったら、突然風景が変わっていた。


「は?」


 そんな声しか出なかった。生ゴミが散乱する汚い街の風景から、海辺が広がっていた。和葉は砂浜にいて、目の前に広がる大きな海をぼーっと見つめていた。


 まるで異世界転移のようなシチュエーションだった。康二は異世界もののアニメが好きだったので、少しチェックしていた。冴えない主人公が、ふと気づくと剣と魔法のファンタジー世界に転移し、魔物と戦い勇者になっていた。


 和葉はおそるおそる海に近づき、手に海水を浸した。確かに水の感触がし、自分は死んではいないようだった。異世界転生の可能性も考えたが、それはなさそうだった。そっと手を引き、カバンからハンカチを取り出して手を拭いた。



 海の雰囲気や空の色を見る限り、ファンタジー世界ではなさそうだった。むしろ日本の田舎の海辺といった雰囲気だった。和葉の実家近くの風景とよく似ていた。ただ、どこを見ても街や工場なども見当たらず、他に人もいない。静かなな波音だけが響いていた。


 和葉はとりあえず砂浜から、海辺の道に方へ向かった。マスクも外すと、呼吸がしやすかった。潮風の良い香りがし、それだけでも気分が良くなってきた


 ここはどこだろう。本当に異世界転移をしたのだろうか。疲れているので、夢か幻を見ている可能性もあったが、さっきの海水の感触はリアルだった。


 空を見上げる。水色の空にソフトクリームみたいなのがフワフワした雲が広がっていた。元いた世界の空や雲はもっと重いというか暗い雰囲気だった。やっぱりここは異世界?


 カバンの中からスマートフォンを取り出すが、電源が落ちていた。再起動をしようとしたが、全く動かない。モバイルバッテリーにも繋いでみたが、ウンともスンとも言わない。壊れてしまったようで、誰かに助けを求められない。こんな緊急自体なので、良いイメージをする事などすっかり忘れていた。


「誰か、誰かいませんか?」


 和葉は、そう大声で言いながら歩いた。波音や風の音に負けそうになるが、声を出し続けていた。異世界転移というよりは、神隠しにでもあっているような気分だった。あるいは山で遭難したような恐怖もある。


 本当に帰れるのだろうか。不安と恐怖で体が支配され、良いイメージングなど何の意味も無い気がしてきた。もしかしたら「理想の彼氏の作りかた」が言っている事は、自分には合っていないのかもしれない。もっと別の方法を試した方が良いのかもしれない。


「大丈夫ですか!」


 十分ぐらい大声を出しながら歩いていると、少し遠くの方に食堂かカフェのような建物が見えたと思ったら、そこから人が出てきた。


 ようやく人に会えたので、それだけで和葉の身体は安堵で、気が抜けそうだった。


「大丈夫、大丈夫! 絶対帰れるから!」


 その人の声は、温かく、より気が抜けそうだった。大声で叫んでいたので、喉が枯れてもいたが、ようやく暗闇から光が見えた気がした。

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