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お手紙カフェ・ミコトバ  作者: 地野千塩


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一番えらい小さなシール(3)

 三毛猫を追いかけながら、走っていく。三毛猫も疲れてきたのか、あるカフェの前までつくと、ゴロンと道に寝そべり始めた。


 てっきり人がいない世界かと思っていたので、カフェがあるとは驚きだった。蒼い屋根にアイボリーカラーの壁という外観のカフェは、背景の海の色ともマッチしていた。


 店の看板は「お手紙カフェ・ミコトバ」とあった。レトロな書体の看板で、今流行ってる昭和風のカフェかも知れない。店の前にあるのぼりには「店内に文房具で自由に手紙が書けます」とある。ランチセットかケーキセットを頼むと、店内の文房具が使い放題らしい。道理で、お手紙カフェと銘打っているわけか。店の前にある黒板式の看板にはメニューが出ていた。ランチセットもケーキセットも割高だったが、文房具が使い放題なら、妥当な金額かもしれない。文房具テーマのカフェは、そう珍しくもなく、新鮮味は薄かった。


 看板やメニューには日本語が書いてある。剣や魔法の中世ヨーロッパ風の異世界では無いようで、その点はホッとした。


 三毛猫は、店の近くにあるポストの側まで歩くと、再びゴロゴロとリラックスし始めた。手紙が書けるカフェのようなので、ポストがあるのは不自然ではないが、それはよく見ると、一般的なものではなかった。


 確かには見かけは一般的な普通の赤いポストだったが、なぜか「天国行き」と行き先が書いてあった。意味がわからない。


 もしかして異世界転移ではなく、異世界転生してしまったのではないだろうか。知花は娘が見ていた異世界もののアニメを一生懸命思い出していた。確か冴えない主人公がトラック事故に巻き込まれ、気づきと天国のような場所にいた。神様らしき人物に会った主人公は、チート能力を貰い、異世界に生まれ変わるという流れだった。このポストは自分が異世界転生してしまった可能性も示唆していて、知花の顔は青ざめていた。もちろん、アニメの設定が現実にあるかはわかりませんが、この状況は嫌な予感しかしない。


 一応頬をつねってみたが、痛みはある。確かに死んではいないよいだが、足元が崩れていくような感覚も覚えていた。


「おばさん、カフェの前で何やってるの?」


 そこに女子高生らしい子に声をかけれた。セーラー服の制服を着ていた。飽田市にある公立高校の制服で、おかげで一気に異世界感が減る。気は少し強そうな目元が印象的な女子高生だった。


「私、松戸麗羅っていうんだけど、もしかして道に迷った?」

「え、ええ。飽田市で野良猫を置いかけていたら、突然ワープしちゃったみたいで」

「ワープ? ウケるね」


 何がおかしいのか、麗羅は笑っていた。


「大丈夫。帰れるから。というか、一緒に帰ろう」

「うん、帰れるよ。このカフェ、常連なんだよ。料理も美味しいし、文房具も使い放題だし、入ろう、入ろう!」


 麗羅の勢いに負け、知花は一緒にカフェに入店していた。麗羅は店長と顔みしろなのか、すっかり打ち解けていた。


「この方、迷ったみたいなの」

「あら、お客様! 大丈夫ですよ。この地図通りに辿れば、必ず帰れますから」


 麗羅が事情を説明してくれると、店長はハガキサイズの地図をくれた。手書きのイラスト風地図を印刷したもので、思わず疑ってしまったが、麗羅や店長の勢いに押され、ここで飲食する事になってしまった。


 店長に店の中央にある大きなテーブルに案内された。とりあえず座った。


 店長、美琴さんは、アラサーぐらいの女性だった。胸元のネームプレートには「店長・葉本美琴」とあり、特に自己紹介などされなくても名前がわかった。どことなく垢抜けない雰囲気の女性だった。日本にいたら決してキラキラ女子とはいえないタイプで、思わず共感は持ってしまった。こんな異世界風(?)の場所にいて不安しかないが、麗羅もいるし、美琴さんの雰囲気に、いつのまにか恐怖心は消えていた。


 麗羅はカウンター席の方へ行き、何か美琴さんと話していた。


「今日は部活だったんだよねー。ちょっここで勉強してもいい?」

「いいよー。はい、お水ね」


 その後、美琴さんは知花の方にもやってきて、水とメニューを渡してくれた。


「ランチセットってメニューが何かわからないの?」


 メニューを軽く見ると、ランチセットもケーキセットも日替わりで、店長おすすめのメニューが出てくるらしかった。


「もしかして、何かアレルギーとかありましたらか?」

「いえ、特に無いんですけど、エビとかカニが苦手で」

「大丈夫です。今日はオーガニック野菜の炒めものです。豚肉は大丈夫でしたか?」

「大丈夫です。ランチセットお願いします」

「かしこまりました。店内の文房具は自由に使っていいです。ペンとか店内のラベルがついているものは、貸し出しですので、よろしくお願いします」


 美琴さんはそういうと、厨房に方に行ってしまった。他の客は麗羅一人で、静かな波音が響いているだけだった。図書館というほどでもないが、静かで落ち着いたカフェだった。大きな窓からは静かな海が見えるので、余計に落ち着いた気分になってきた。


 麗羅はカウンター席で勉強をやっているようだった。文房具コーナーにあるマーカー、ボールペン、暗記カード、スタディプランナーもフル活用しているようだった。高校生には割高に見えるカフェが、勉強スペースとして活用すれば。そこそこコスパも良いかもしれない。そういえばメニューには、時間制限も無いと書いてあった。


 知花もランチセットが出来上がるまで暇になり、文房具コーナーをも見てみた。ここだけカフェというより、文房具屋の一角のような雰囲気だった。色とりどりの便箋、シール、マスキングテープなどもあり、見ているだけでも気分は華やかになる。鉛筆、ボールペン、鋏などは貸し出し制のようだが、他のものは使い放題とはコスパは悪くなさそうだ。シールは手帳などに貼って持ちかえっても良いらしいが、マナーに悪い客もいないようで、不自然に減っていたりもしていなかった。ここは、どこか不明だが、客層は悪くはないらしく、知花はホットする。近所のコンビニでは、セルフサービスのコーヒーの砂糖や紙ナフキンは、「一杯につき一個までです」という注意書きが出ていたのを思い出した。


 文房具コーナーの隣には、掲示板コーナーがあった。掲示板に貼り付けられている便箋をよく見ると、お悩み相談が書かれていた。その解答を店長の美琴さんが書いているようだった。どちらもペンギンだったり、クマだったり可愛い便箋で書かれていた。美琴さんの文字は達筆でかなり綺麗だった。達筆といっても崩してはいないので、読みやすくはある。何故か聖書の言葉を引用しながら相談に答えていたが、美琴さんはクリスチャンなのかもしれない。さりげなく引用しているので、宗教っぽさは感じなかった。


 自分も娘の事やママ友について相談すべきか。中にはヘビィな相談もあり、躊躇してしまう。子供に手をあげてしまうお母さんの相談があった。その相談には、美琴さんも困っているようだが、聖書では子供は一番尊い存在とし書いてある事を引用しながら、まず自分の心の傷を癒していく事をすすめていた。可愛い文房具があるカフェだが、竜宮城ではないようだ。ここじゃどこかわからないが、二度と帰れない夢世界では無いようで、逆に知花はホッとしてきた。猫を助けのに、別世界に迷い込んで帰って来れないなんて事は無いと確信してきた。


 そうこうしているうちに、美琴さんがランチプレートを持ってきた。味噌汁の良い香りもし、自分が日本人である事を改めて気付かされた。


「どうぞ、ごゆっくり」


 美琴さんは、そう言うとカウンター席の方へ行ってしまった。

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