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お手紙カフェ・ミコトバ  作者: 地野千塩


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目の中の丸太と鉛筆削り(4)

「どうぞ、ランチプレートです」

「あ、ありがとうございます……」


 美琴さんは、笑顔で頷くとカウンター席の方へ行ってしまった。ニコニコと少々だらしない笑顔を浮かべながら、カウンター席にいる三毛猫と戯れあっていた。


 ランチプレートは、大きな白身魚のカツとサラダ、唐揚げ、五穀米、それに味噌汁もついていた。揚げ物も多いプレートだが、味噌汁は野菜たっぷりだった。


「いただきます……」


 麗羅は一応手を合わせて食べ始めた。こういいマナーを気にするのも義務感のようなところがsる。普段、「論破」なんてやっているから、誰もいない時も見られているような感覚がする時もあった。確かにブーメランをあちこちに放っていた事も否定できない。


 自分より恵まれている子に嫉妬もしていたが、こうして異世界のような頼りない場所にいると、自分は十分恵まれていたのかもしれない。目だって健康に見える事は、当たり前だと思っていたが、そうでは無かった。


 サクサクとした白身魚のフライには、タルタルソースがかかっていた。具材もごろごろとしたタルタルソースで、味もクリーミーでサクサクな衣とマッチしていた。唐揚げも美味しい。いかにも手作りらしい醤油の濃い味付けで、五穀米もどんどん進んでしまった。味噌汁もキャベツやにんじん、じゃがいもなどの野菜がたっぷりで、素朴な味わいでもあった。


 普段はあまり食には興味は無いが、目が治ったことにはホッとし、あっという間に完食していた。一緒についてきた緑茶も飲んでいると、気持ちは落ち着いて来た。


 もう論破はやめた方が良いのかもしれない。確かに感染症対策をしっかりやったぐらいで「良い人」に見えるほど簡単ではないだろうし、別に真剣に世の中が良くなって欲しいと願っているわけでもなかった。自分が「良い人」に思われる為に論破しているだけだと、気づいてきた。


 目は治ったはずだったが、もっとよく見えてきた気もする。たぶん、お腹もいっぱいになり、頭も整理されて来たのかもしれない。ランチプレートが想像以上に美味しかったから、自分の中にある「良心」みたいなものを刺激されていたかもしれない。そう思うと、他人に嫉妬していた事も論破していた事も、ちょっと恥ずかしくなってきた。


「そうだ!」


 麗羅は立ち上がり、綺麗なラベンダーカラーのメモ帳を引き抜くと美琴さんにお礼を書いてみる事にした。クレームをつけようとしていやのに、いつの間にか心が変化していた。


 メモを書くと、プレートの端にさりげなく置いた。


「わー、お客様。ありがとうございます!」


 プレートを下げに来た美琴さんは、すぐにメモに気づき、ニコニコと笑顔を見せていた。その素朴な笑顔を見ていたら、やっぱり、今までの仕打ちは自分が放ったブーメランが返ってきただけのようだった。


「お客様、メモありがとう! お礼に面白い色鉛筆をお見せします」


 美琴さんは、何か片手に持って再び麗羅の側に戻ってきた。


「なんですかか? 色鉛筆?」

「これは、面白いんですよ。削ると、ほら」


 単なる色鉛筆に見えたが、美琴さんが鉛筆削りで削ると、驚いた。削りかすが、花びらのようだった。これだと削りかすと言えない。繊細な花びらと言った方が良いかもしれない。白いペーパーナフキンの上にあるせいか、雪の中に咲く花のようにも見えて綺麗だった。


「すごい、綺麗な花びらみたい」

「ふふ、ありがとうございます。日本の文房具って面白いよね。創意工夫されていて。視点を変えれば、ゴミも花びらに変わるのかもしれませんね」


 まるで美琴さんに自分の気持ちを見透かされているようだった。確かに自分は色々と失敗してきたと思ったが、だからこそ気づくところがあった。


「美琴さん。私、もう人に論破したり、嫉妬する事はやめようかと思った。なんか、このカフェにいたら、自分の中にある『良心』を刺激されたみたい」

「わあ、ありがとうございます。私は何もしていませんよ」

「うん。というか、あの掲示板にある聖書の言葉って何? どうして聖書なの?」


 麗羅は一般的な日本人であるので、宗教に良いイメージは無い。ただ、SNSの陰謀論者を論破する為にカルトが配布している聖書と、普通の出版社が出している聖書は別物だと調べた事があった。論破という酷い行いだったが、全てが無駄という訳では無い気がした。


「まあ、難しい事はゆっくり話しましょう。お茶のおかわりいる?」

「飲みたいです」


 ゆっくりお茶を飲みながら、窓の外の海を見る。心のざわめきもすっかり静かになっていた。目は何で突然良くなったか科学的に説明はできないが、ゆっくりとお茶を飲んでいると、そんな事もあって良い気がした。


 その後、美琴さんに貰った地図通りに帰ると、飽田市の駅にいつの間にか辿りついてしまった。


 目も相変わらず不調はなく、健康そのものだった。


 くSNSでお手紙カフェ・ミコトバについて調べてもろくな情報は出てこなかった。なぜか突然海辺の田舎町までいけたのかも、全く科学的に説明できない。


 目が治った事も科学では説明できないだろうが、麗羅の心はいつになく平安で、再びお手紙カフェ・ミコトバに行ってみたかった。

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