ホッチキスvsステープラ(3)
女は、飲食店の店員のような雰囲気だった。長い黒髪は一つにまるめ、白いシャツ、ジーンズという格好は、清潔感はある。紺色のエプロンも少々知的にみてはいたが、頬はそばかすが浮き、素朴そうだった。肌の雰囲気からアラサーぐらいの女性と思われるが、そばかすのお陰で田舎臭い。ここは何処かわからないが、都会では無さそうだった。エプロンの胸元にはネームプレートがあり「店長・葉本美琴」と書いてある。やはり、何処かの飲食店の関係者らしい。書店員にも見えなくはないが、塩風に混じってケーキやパン、生クリームのような物が混ざった香りもした。さすがにコーヒーの匂いはしないようだったが。
「あの」
開放感を持っていた清花だが、突然この美琴さんという女性が現れ、戸惑いしかない。しかし、美琴さんはマスクもしてなく、雰囲気も否田舎らしいユルさがあったので、この件については文句を言われそうではなかった。
「もしかして、道に迷った?」
「そ、そうなんです。あの、ここは何処なんですか?」
清花の開放感はしぼみはじめ、辺りをキョロキョロと見回す。
「大丈夫。この地図通りに道を歩けば帰れるから!」
なぜか美琴さんは、ここが何処であるかは答えなかった。その代わり、ハガキサイズの地図を清花に手渡す。手書きの地図を印刷したもので、本当に帰れるか不安だったが、今は信じる他無いようだった。
地図の裏を見ると、カフェのメニューもあった。手紙も書けるカフェらしいが、ケーキやランチという言葉を見ていたら、お腹がへってきた。同時にお腹から情け無い音も漏れる。
「お腹へった? だったら、ウチでご飯食べてく?」
「ウチ?」
「うん。私、カフェ店長なのよ。もう閉店後だから、普段のメニューじゃなくて賄いっぽいけどいい?」
どちらかといえば真面目で遠慮しがちな清花だったが、お腹の減りぐらいには負けず、断れなかった。それにマスクを外せて開放的な気分になっている事も否定できなかった。ここが異世界かもしれないと思うと「もうどうにでもなれ!」という諦めの境地もあった。
「嬉しい。行きます!」
「じゃあ、一緒に行きましょう!」
という事で二人で砂原から海辺の道を歩き、カフェに向かった。数分でカフェについた。
カフェは、お手紙カフェ・ミコトバという看板が出ていた。規模はさほど大きくはないが、ブルーの屋根は夕日に照らされ、色が変わっているようにも見えた。もう閉店後なのか他に看板らしきものもなく、ドアには「クローズ」というプレートもかかっていた。
そういえば、あの地図の裏にある情報によると手紙が書けるカフェらしいが、ポストもあるのが見えた。カフェの前にあり、一般的な赤いポストだったが、違うところもあった。なぜかポストの入り口に「天国行き」と書いてあった。
「て、店長さん! 天国行きってどういう事ですか?」
意味がわからなかった。ここは異世界でもかくりよでも無いのだろうか。もしかして異世界転移ではなく、異世界転生というのをしてしまったのだろうか。確か異世界転生ぼライトノベルでは、死んだ主人公は一旦天国のような場所につくと、神様らしき者からチート能力を貰い、異世界に生まれ変わっていた。
自分は生きているのか不安になってきた。この変なポストは、ここが現世では無い証拠にも思えた。
「え? このポスト?」
美琴さんは清花の質問にびっくりし、瞬きを繰り返していた。
「あ、これは飾りみたいなもんだから、気にしないで」
「飾り?」
「よくあるじゃない、博物館とか温泉街とかみあるようかポスト」
そうは言われても清花はピンとこない。美琴さんの口調は焦っているようにも感じ、何か隠しいるようだった。
「だからって何で天国なんですか?」
そう言い終えたのと同時に、足元に野良猫がやってきた。目が鋭く、可愛らしい雰囲気がまったない三毛猫だった。野良生活が長いせいなのか、毛並みもボソボソだった。まるで餌をねだるように小さな声で鳴いていた。この子もお腹が空いているのかもしれない。
「あんたもご飯食べる?」
美琴さんはしゃがみ、野良猫を拾いあげていた。
「猫も一緒に大丈夫? アレルギーとかない?」
「ないですけど」
「オッケー。じゃあ、入りましょう。ちょっとまってね!」
こうして二人と一匹でカフェに入店した。結局、あのポストの事は聞けなかったが、何となく美琴さんは答えてくれない気がした。




