神様の定規(1)
旗野マキは、深く悩んでいた。自宅の自室においてある鏡台の前に座り、ため息をついていた。
華やかなインテリアが溢れる部屋だった。ベッドカバーやカーテンも花柄、カーペットも薄いピンク色で華やかだった。本棚には少女漫画や詩集、ぬいぐるみなども飾られ、ファンシーな雰囲気もある。マキは高校三年生になるが、ファンシーで可愛いものを集めるのが好きだった。学校に持っていく文房具などもキャラクターグッズで溢れているし、スクールバッグはクマのマスコットもついていたりする。
もうすぐ受験だが、成績も良いおかげで、親にはこういった趣味を文句を言われる事はなかった。成績や趣味では、何も言われない。言われるのは……。
「はあ。私は、どうしてこんな顔なんだろう」
マキは鏡を見つめながら、再び深いため息をつく。肌は白い方だが、重めの一重だ。糸のように細い。鼻にもホクロがあり、口も小さい。平安時代だったら美女かも知れないが、今は令和。マキは他人から一度も「可愛い」と言われた事がない。親に言われた事もなかった。
二つ歳下の妹は、マキとは全く違った。ぱっちりとした二重に、花の咲いたような笑顔をしている。口は大きめだが、華やかな顔によく似合っていた。髪の毛も栗色に染めているが、誰も何も言わない。一方、マキはアイプチで二重にしようとしたら、学校の先生や親に怒られた。
子供の頃からそうだった。妹が許されている事は、マキには許されない。親は妹の事ばかり可愛がり、残されている写真もマキのものより多い。心なしか誕生日のケーキなども妹の方が豪華だし、子役の仕事もした事もある。妹はSNSもやっているが、フォロワーも多く、学校でもチヤホヤされていた。
逆にマキは、妹と比べられ、色々と言われる事があった。ヒソヒソと何度も悪く言われていた。
気にしなければ良い話ではあったが、マキは可愛いものが好きだった。自分でも自分の顔が好きではない。メイクも頑張ってはいるが、十五分程度の労力で、もっとメイクで可愛くなっている妹を見ていると、脱力してきた。ネットや動画サイト、電車の広告も「二重にしろ」「痩せろ」「脱毛しろ」というメッセージのものばかりで、圧も感じる。それだけでなく、自己啓発本や英会話などコンプレックスを刺激される広告も多いような気がする。
そんな事を考えると憂鬱だ。もう整形しか無いのかも知れない。鏡を見るのをやめ、スマートフォンで、整形などについて検索してみた。整形もピンキリで数万円で終わるものもあれば、何千万円もかかるものもあった。整形依存症の女性のルポなどもうっかり読んでしまい、背筋が凍ってはくる。
でも二重にするぐらいだったら……。
有名な美容整形病院の広告を見ると、プチ整形があった。比較的安く二重にできるみたいで「高校生もぴったり!二重になってスクールライフを楽しもう!」というキャッチコピーもついていた。そこに映るモデルは、パッチリ二重で西洋人形にように美女だった。
金額み手頃で、去年の夏休みにバイトで得た貯金でもできそうだった。整形がバレるリスクもあるが、ナチュラルブスと言われるより、整形だとヒソヒアされる方がマシだと思った。
さっそくこの美容整形病院に予約を申し込んだ。飽田市という家からちょっと離れた街にあったが、行けない距離では無い。むしろ、家から離れているので、都合が良いと言える。
もう両親に比較されたり、陰でヒソヒソと言われたくなかった。
二重になったら、可愛くなれるかも? 誰に何も言われずに幸せになれるかも?
マキは胸に淡い希望を抱いていた。