高価で尊い付箋紙(2)
久々の休日、美波は自分が住む飽田市という場所に駅ビルの中にいた。
あまり治安は良くない土地ときく。特に南口の方は風俗街やパチンコ屋が多く、きな臭い雰囲気だ。一方北口は、普通の商業施設も多く、新しいマンションなどもできていた。飽田市は、電車を乗り継ぐと一時間弱で都心に行けるし、若い人の家族なども増えているらしい。もっとも美波の住む所は、静かな住宅街で老人の数も多かったが。
今日は、仕事も休みという事もあり、一人でランチを楽しみ、ストレス解消していた。今はあんまり旅行などをしたい時世でも無いので、近場でこうやってストレス解消していた。
駅ビルでランチを済ますと、駅ビルの中の文房具屋をのぞいてみた。仕事で必要な付箋やボールペン、クリップなどの予備を買っても良いと思った。文房具屋は簡素な事務用品も多く、ファンシーなものはあんまり売っていない。娘は派手な文房具が好きだったりするが、今はシンプルなものが1番だと思ったりもする。歳を食うと、生活はどんどんシンプルになっていくのかもしれない。
「うーん、ここの文房具地味〜」
「だよね〜。ミコトバの方が可愛いの多いよねー」
「ねー」
隣には制服を着た女子高生らしき二人組が、文句を言っていた。娘と同じぐらいの子供で、美波は思わず微笑んでしまう。
「あれ、おばさん。なんか悩んでる?」
女子高生の一人に声をかけられた。もしかして、自分が悩んでいる事を見透かされていた?
家族でもバレてはいなかったのに。突然話しかけられても、言い当てられたせいか、あまり悪い気分にはなれなかった。
「だったら、お手紙カフェ・ミコトバに行くといいよ」
「うん、スッキリするよ」
「あ、ミコトバは行きにくいので、これ地図ね」
「じゃあね!」
女子高生二人は、美波の地図を渡すと、手を振って去っていった。
一人残された美波は、地図を見つめる。ハガキサイズの地図で、この近所にカフェがあるようだった。名前はお手紙カフェ・ミコトバ。長年飽田市に住んでいる美波だが、全く聞いたことのないカフェだった。
地図は手書きにイラスト風でユルい雰囲気だtら。店主は葉本美琴という女性らしいが、この人が書いたものだろうか。文字はやたらと綺麗で、見ていると、背筋が伸びそうだった。ユルいイラスト風の絵とは相反しているのが気になる。
地図をひっくり返すと、何かスタンプが押されていた。メニューの一部情報がスタンプされているようだ。
ランチセットは二千円、ケーキセットは千三百円だった。ドリンクは選べるようだが、メニューは店主のおすすめで、日替わりらしい。食品アレルギーがある人は事前に伝えて欲しいとも書いてある。美波はアレルギーなどは無いが、細いところも気遣いがあるらしい。
カフェのメニューとしては、ぜいぶんと割高だと思ったが、店にある文房具が使い放題で、手紙やイラストが書けるらしい。だから、お手紙カフェというのか。
この地図の雰囲気からして、可愛い文房具が多そうだった。
ふと目の前にある地味な文房具の数々を見てもる。確かに良いシンプルなものが使いやすいが、たまには派手で可愛いものも良い気がしてきた。
美波は、元々カフェを巡ったりするのが好きだった。この飽田市に知らないカフェがあるのも気になってしまい、お手紙カフェ・ミコトバに行ってみることにした。
さっそく駅ビルを出て、地図通りに足を進める。
それにしても、さっきの女子高生は何で自分が悩んでいると気づいたんだろう。それになぜ悩んでいる人は、このカフェに行った方が良いとオススメされたんだろう。
わからないが、せっかくの休日でもある。いつもと違う事をしてもいいんじゃないか。
悩みを抱えてはいたが、休日という事もあり、心は少し軽くはなっていた。