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約束と折れない芯(4)

 ランチセットのメニューは、カレーだった。ご飯は、五穀米で一見赤飯のように見えた。カレーは野菜がゴロゴロと入り、ニンジンや豆の色も鮮やかだった。普通のカレーというよりキーマカレーのようで、ゆで卵もトッピングされていた。他にミニサラダやスープもついている。スープも野菜がいっぱい入り、おそらく手作りだろう。セットで注文したアイスティーも色が濃く、カラコロンと氷が浮いていた。


 ちょっと意識が高そうな薬膳カレーといった雰囲気だった。家では決して作りたくないが、外で食べるのは良いだろう。


 さっそく食べ始めたが、野菜や肉の甘みを感じられ、あまり辛くはない。「こういうカレーが食べたかった!」と脳内でつぶやいく。家やファストフードでは食べられないような美味しいカレーで、心美の表情は緩んでいた。カレーとアイスティーもよくあい、食がすすむ。モーニングでけっこうしっかり食べたわけだが、このカレーもぺとっと食べてしまった。


「美味しかったです」


 思わずカウンターテーブルに布巾をかけている美琴さんに声をかけた。


「嬉しいですぅー。どうぞ、文房具も自由に使ってくださいね。文字を書いていると、気持ちも整理されます」


 美琴さんのはにかむような笑顔につられ、さっそく文房具コーナーを見てみた。普段はこういった派手な文房具には、興味がないが、やはり目に鮮やかで、綺麗な便箋を何枚か選んでいた。筆記用具も選ぼうとしたが、ボールペンのインクが切れているものばかりだった。


「ごめんなさーい。最近お客様が立て続けに来てボールペンが切れてるんです。シャープぺンはありますから。このシャープぺンは、芯が折れないボールペンなので、書きやすいはずです」


 心美は、平謝りする美琴さんからシャープペンを受け取った。だいぶ不器用というか、おっちょこちょいなタイプな美琴さんのようだが、それも味なのかもしれない。確かに配膳ロボットより性能は劣りそうだが、カレーは美味しかったし、文句を言う気分にもなれない。それにお悩み相談をしても良い気がしていた。


 席につくと、心美は便箋を広げて、書き始めた。桜色で、可愛い小鳥のイラストが印刷された便箋だった。やけに書きやすいシャープぺンで書く。確かにシャープペンの芯は折れず、書いているうちにストレスはなかった。


 店長さんへ


 ランチセット美味しかったです。ところで、私も相談があります。無記名で相談しても良いですか?


 実は夫と仲が悪くレス状態です。もしかしたら、相手は浮気もしているかもしれません。


 夫はちゃんとした食事を要求してくるタイプで、正直プレッシャーです。仕事が忙しく、家事まで完璧になれないというのが本心です。だからといって、夫と別れたい気持ちもなく、情のようなものは残っています。どうしたら、良いんでしょうか。名無し子より。


 こうして便箋に悩み相談を書きながら、心美は、夫との結婚式を思い出すていた。チャペルで式をあげ、怪しい外国人風の牧師に「誓います」と言った。


 一体誰に誓ったんだろう?少なくとも怪しい外国人風の牧師ではない。夫に?


 それも違う気がした。


 病める時も、健やかなる時も愛を誓いますか?


 誰に?

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