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お手紙カフェ・ミコトバ  作者: 地野千塩


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名前と原稿用紙(6)

 数日後、金曜日の夜、自宅の郵便受けにお手紙カフェ・ミコトバから封筒が届いていた。


 かなり集く重みがある封筒だった。あのカフェの事はすっかり忘れ、仕事に追われていた。今日も残業で帰って来たのは、夜の8時過ぎだった。明日のが休みなのが救いな状況だった。


 さっそくメイクを落とし、部屋着に着替えてからお手紙カフェ・ミコトバから届いた封筒を開けてみた。


 予想通りクリーニング券は入っていたが、それ以外にものも入っていた。何も書かれていない原稿用紙の束と、手紙が入っていた。原稿用紙は、お手紙カフェ・ミコトバのオリジナルのもので、なぜか加奈の名前が入っていた。確か昔の文豪は、名前入りに原稿用紙を使っていたというが、こんなものは初めてみた。しかも、自分の名前入り。なんで?


 慌てて同封されていた手紙を開く。桜色の可愛らしい便箋に、綺麗な文字が綴られていた。


 鈴本加奈様へ


 先日は、コーヒーをこぼしてしまい申し訳ありません。クリーニング券とお詫びの品を送らせていただきます。


 名前入りの原稿用紙です。私は、加奈さんの名前は素敵だなって思います。そんな事を考えていたら、こんな原稿用紙を作ってしまいました。世界に一つしかない原稿用紙です。


 前にも言いましたが、名前をつける行為って、人間に与えられた最初の仕事なんですね。聖書の創世記には、神様が人間を創造された経緯が書かれています。はじめて神様から創造された人間・アダムは、動物達に名前をつけるシーンがあります。


「神である主は、あらゆる野の獣、あらゆる空の鳥を土で形づくり、人のところへ連れて来られた。人がそれぞれをどのように名付けるか見るためであった。人が生き物それぞれに名を付けると、それがすべて生き物の名となった。創世記/ 02章 19節より」。


 名前をつける事はって、愛を表す行為の一つなのかもしれませんね。不思議ちゃんだと思われそうですが、私はキッチンにある道具に一つ一つ名前をつけて可愛がっています。


 この原稿用紙も、文章や小説を書いたりすて楽しんでみてください。何か素敵な物語が生まれそうな予感もします。お手紙カフェ・ミコトバ店主・葉本美琴より


 なぜか原稿用紙かは、よくわからないが、手紙を読みながら、何となく元気になっていく感覚を覚えていた。


 確かに名前をつける行為は、愛情表現の一つかもしれない。神様が自分を名付けしたとは思えないが、親が考えてつけてくれたものである事は間違いない。普段、姓名判断などに興味がない親も、この時ばかりは、奔走していたと親戚から聞いた事があった。


 再び自分の名前いりの原稿用紙を見た。ここに何を書いてみよう。まだ、小説なのかエッセイなのか、読者感想文なのかもわからない。ただ、世界に一つしかない原稿用紙を見ながら、自分はもう透明人間ではないと感じていた。


 相変わらず上司には名前を間違われているが、この原稿用紙を見ていたらワクワクしてきた。


 きっと色鮮やかな未来がここに描ける気がした。

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