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あるフードライターの独り言

 あるところに、手紙が書けるカフェがあるらしい。色とりどりの文房具もあり、食事を注文すると、メモ帳や便箋も使い放題らしい。


 カフェの名前は、お手紙カフェ・ミコトバというらしい。店主の名前が葉村美琴というらしいので、そんな店名らしい。おそらく、美琴の場所という意味だと推測する。


 場所はどこにあるのかわからない。なぜかネットや地図のアプリにも掲載されてなく、SNSもなかった。


 カフェには色々な噂があり、行くと悩みがすっきりと解消するらしい。店主の美琴さんは、不思議な魅力があり、お客さんは癒されて帰っていく。


 美琴さん自体は、一見普通のアラサー女性で、特徴的なところはない。むしろ、無口の方で客商売らしい愛想の良さはない。


 彼女はかなり達筆で、客から寄せられたお悩み相談に答え、店内の掲示板に貼り付けているらしい。その答えがユーモアがあり、楽しく、カフェの客達からは評判が良かった。噂通り、行くと悩みが解消するカフェなのかもしれない。


 フードライターである私は、ぜひお手紙カフェ・ミコトバに行ってみたい。手紙が書けるカフェは別に珍しくは無いが、美琴さんのキャラが気になる。


 SNSではお手紙カフェ・ミコトバの噂が出ているが、どうも住所がわからない。公式ホームページなどもなく、住所を探すのに苦戦した。


 客商売、しかもカフェでこんな事ってある?


 私の頭の中は、疑問符でいっぱいになった。SNSをあさり、カフェに行った事のある人に接触をとった。一応名の知れたフードライターでもあるので、ペンネームを言うと、相手も気を許してペラペラと語ってくれた。


「で、お手紙カフェ・ミコトバって一体どこにあるの?」


 テレビ通話で会話していたが、相手は黙ってしまった。大学生ぐらいの若い女性だった。


「それがわからないんです」

「わ、わからない?」


 彼女も何度もカフェに行こうとしたが、なぜか行けなくなったらしい。


「夢だったとか?」

「そんな事はないですよ」


 画面越しに便箋やシールを見せてくれた。便箋にはレトロな書体で「お手紙カフェ・ミコトバ」というロゴも印刷されていた。こんな便箋は見た事ないし、彼女が嘘をついているようには見えなかった。


「どういう事?」

「わからない。でも、このカフェに行った時はすごく悩んでたんです。それこそ、死にたいぐらいに。もしかしたら、悩んでいる人しか行けないカフェなんじゃでしょうか?」

「そんな事って……」


 あるか?


 まるでファンタジーみたいではないか。彼女から詳しくカフェの様子などを聞くと、「まるで天国にいるみたいに気分が良かった」とうっとりと目を細めていた。美琴さんによると、カフェは二号店のようで、どこかに本店があるとも言っていたらしい。


 その後、私はお手紙カフェ・ミコトバについて調べ続けていたが、全く手掛かりがつかめない。あまりにも気になり、フリマアプリで、あの便箋を買った。出品者は、すっかりカフェのことは忘れていたにで、手がかりは掴めなかったが。


 再びSNSを漁ったが、カフェ店内の様子の画像は全くない。カフェについて噂をしている人にコンタクトをとると、なぜか店内ではスマートフォンが使えなかったらしい。


 やっぱり夢か幻?


 便箋があるという事は、夢や幻とは言い切れない。でもカフェの行き方は、さっぱりわからない。


 ファンタジー設定?


 そう思えば、辻褄は合ってしまうが、私はお手紙カフェ・ミコトバに行ってみたかった。行く方法がわからないのが、かえって好奇心をくすぐられた。もしかしたら、かくりよ也異世界にあるカフェなのかもしれない。あるいは天国にあるカフェだったりして?


 とりあえず、今は目の前の仕事を優先しよう。もしかしたら、深い悩み事があったらお手紙カフェ・ミコトバに行けるかも知れない。今のところ、深い悩み事などは全く無いわけだが。


「お手紙カフェか。そこに手紙でも書いたら行けたりして?」


 私は、あの便箋にカフェに行きたいと書いてみた。送る場所も知らないので、それは出来ないが、文字を書いていると少々落ち着いてきた。確かにこんな風に手紙を書いていると、気分は静まってきた。


 パソコンやスマートフォンも便利だが、たまには手紙を書いても良いのかも知れない。

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