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雪の降る夜に…

作者: 深町透子

親子間、夫婦間の視点で呼び分けていますが、父親=夫、母親=妻です。

「わあ、雪が降ってる!見て!」


「ゆきだ!」


 幼い姉弟が窓の外を見てはしゃいでいる。母親は、少し心配そうな様子を見せながら、暖炉に薪を足した。


「父さん遅いね…。」


「おそいね。」


「大丈夫よ。雪が降るかもしれないって言ってたし、ちゃんと備えをして行ったわ。きっともうすぐ帰ってくるから、先に寝る準備をしておきましょう。」






 あとはベッドに入るだけとなった姉弟は、ゆりかごの中で眠る小さな弟のそばで繕い物をしている母親にせがんだ。


「ねえ母さん、お話して!」


「ぼく、りゅうとゆうしゃのおはなしすきー!」


「また?それ昨日お話ししてもらったじゃない。今日は私の番よ!」


「ふふっ、じゃあ今夜はお姫さまのお話にしようかしら?」




~~~~~~~~~~

 むかーしむかしあるところに、立派なお屋敷に住んでいるお姫さまがいました。お姫さまは、お屋敷のみんなにとてもかわいがられて育ち、お姫さまもみんなのことが大好きでした。


 お姫さまには、仲良しの男の子がいました。男の子は、その国の王子さまでした。お姫さまと王子さまはとても仲良しだったので、大きくなったら結婚する約束をしました。2人は大人になったら王さまと王妃さまになるので、小さいころから一緒にいろいろなお勉強をしていました。少し大きくなって学校に通い始めると、お勉強はだんだん難しくなってきます。お姫さまは王子さまのことが大好きだったので、王子さまのためにお勉強を一生懸命がんばっていました。でも、王子さまはあまりがんばらなかったのです。




「えー、ちゃんとお勉強しないとダメだよねえ?」


「だめだよねえ?」




~~~~~~~~~~

 お姫さまは、遊んでばかりの王子さまに一緒にお勉強しましょうと言いました。でも王子さまは、嫌いなお勉強に誘ってくるお姫さまのことがだんだんいやになってきました。王子さまはお勉強をしないで、お姫さまではない女の人と仲良くなってしまいました。そして、とうとうお城の舞踏会でお姫さまとの婚約を破棄したのです。




「コンニャクハキってなーに?」


「婚約破棄よ!結婚のお約束をやめるの。」


「まあ、よく知っているのね?」


「だって、お友達から聞いたんだもん!」




~~~~~~~~~~

 お姫さまは、とても悲しい気持ちになりました。だって、王子さまとは小さいころから仲良しで、結婚の約束もしていたのですから。それから、お姫さまはずっとお屋敷に閉じこもっていました。いつも明るく、みんなを笑顔にしてくれるお姫さまが悲しんでいると、お屋敷のみんなも悲しくなってしまいます。みんなお姫さまのことをとても心配していました


 そんなとき、お屋敷に1人の騎士さまがやってきました。騎士さまは王子さまの家来でしたけど、お姫さまに対する王子さまの態度に心を痛めていたのです。王子さまのそばにいた騎士さまは、お姫さまが王子さまのためにがんばっていたことをよく知っていました。悲しんでお屋敷に閉じこもったままのお姫さまを心配して、お見舞いに来てくれたのです。




「騎士さま、すてきね。」


「きしさま、やさしいね。」




~~~~~~~~~~

 お姫さまは、自分を心配して来てくれた騎士さまのことがだんだん好きになりました。そして、お姫さまは、騎士さまと一緒にお屋敷のお庭を散歩できるくらいまで元気になりました。そんなときに、あの王子さまがお姫さまに声をかけてきたのです。王子さまが好きになった女の人は、あまりお勉強が好きではありませんでした。だから、一生懸命がんばっていたお姫さまに、王子さまと女の人の分までお城でお勉強をさせようとしたのです。




「私、王子さまきらーい!」


「ぼくもきらーい!」




~~~~~~~~~~

 お姫さまと騎士さまは、困ってしまいました。お互いに好きなのに、このままでは一緒にいられなくなってしまいます。そこで2人は、お姫さまのお父さまに相談しました。すると、お姫さまのお父さまはお屋敷のみんなと協力して、王子さまにつかまらないように2人を逃がしてくれたのです。




「お姫さまと騎士さまはどうなるの?」


「どうなるの?」




~~~~~~~~~~

 それから2人は、旅に出ました。お隣の国へ、そのまたお隣の国へと、いくつもの国を越えて、とうとう大きな森ときれいな湖のある国にたどり着きました。そして、大きな森のすぐそばにある家で、2人はいつまでも仲良く幸せに暮らしたということです。おしまい。




「大きな森ときれいな湖って、こことよく似ているねえ。」


「あら、そうね。じゃあきっと、お姫さまと騎士さまも私たちみたいに幸せに暮らしているわよ。」


「ぼくも()()()()ー!」






 ガタガタッと音がして、扉が開いた。入ってきた人物を見て、姉弟はパッと顔を輝かせた。


「父さん、お帰りなさい!」


「おかえりー!」


 父親は、姉弟を抱っこしながらうれしそうに言った。


「待っていてくれたのか?遅くなって悪かった。ちゃんとお留守番ができたようだな。」


「「うん!!」」


 父親が着ていた厚手のマントを受け取りながら、母親は姉弟に言った。


「さあ、街でのお話を聞くのは明日にして、今日はもう寝ましょうね。」


「「はーい!」」






 姉弟が眠った部屋から出てきた父親は暖炉の前に座り、ゆりかごの中で眠っている小さな赤ん坊に優しい眼差しを向ける。雪の降る中を帰ってきた夫に、妻は熱いお茶を差し出した。


「今日の寝る前のお話は何だったんだ?あの子たちはずいぶん喜んでいたが。」


「…お姫さまと王子さまと騎士さまのお話よ。」


 気づかうような視線を向けた夫に、妻はにっこりと微笑んだ。


「あれから10年もたっているのよ?雪が降っているのを見て、ちょっと思い出しただけ。それに(わたくし)、今とても幸せなの。」


「ああ、俺も幸せだ。」






 かわいい盛りの子どもたちと一緒に平穏な毎日を過ごせる幸せをかみしめながら、妻は愛する夫の腕の中で眠りについた。


 王子さまは王族籍から抜けて名ばかりの爵位をもらい、女の人と一緒にひっそりと暮らしているかも…?お姫さまのお父さまは、お姫さまと騎士さまの平穏な生活を陰ながら見守っていると思われます。

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