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第3-6話 レイルとフィルの海底サバイバル(前編)

 

「えへへ、お姉さま……ありがとう」


「礼には及びませんわ……ふたりでお嬢様の道を極めましょう」


「はいっ!」


 微笑ましい二人の様子を眺めながら、フィルの私物である戸棚を持ち上げるオレ。


 他にもいろいろプライベートな物が入っているだろうから、フィルに渡しておくか……オレがフィルの方に歩いていこうとすると、ぱさりと一冊のノートが少しだけ開いていた引き出しから床に落ちる。


 落ちた拍子にノートが開き、とあるページがあらわになる。


「ん……これは絵日記、か?」


 彼女のプライベートだ……みだりに読むのもかわいそう……そう思いながらも、オレの目線は絵日記の内容を追って……。



 ■7の月21日

 わたくし、気付いてしまいました。

 お嬢様道とは内面でだけでなく外見も重要……そこで!

 可憐な深窓の令嬢と、勇壮な戦乙女……両方の要素を兼ね備えた究極の勝負服!

 ああ、わたくしの才能が恐ろしいですわ……数年後にはこの衣装が世界中のお嬢様を石鹸しているでしょうっ!



 やけにテンションの高い、右肩上がりの文字と共に……なんというか、良く言えば抽象的、悪く言えば美術の授業を受けなおした方がいいと思われるヘタヘタなイラストが描かれている。

 しかも誤字してるし……。


 うわぁ……思わず引いているオレの様子に、自分の恥ずかしい過去が暴露されていることに気づいたのだろう。

 顔を真っ赤にしたフィルが凄い勢いで絵日記のノートを回収する。


「のおおおおおおおっ!?」

「み、見ましたの? わたくしの究極お嬢様ノートを?」


「え、いや……ちらりと見えただけだから、才能あふれるフィルのイラストが……」


 顔を真っ赤にして、目尻に涙まで浮かべたフィルの様子に、思わず手遅れ気味の言い訳をするオレ。


「違うんです! 違うんですわっ! これは恥ずかしくも懐かしい求道者フィアナルティーゼの記録……若気の至りという事で、大目に見て頂けませんか?」


 恥ずかしそうにしながらも、ノートを大事そうに抱きしめるフィル。

 若気の至りと言いつつ、書かれていた日付が半年前だったことはツッコまない方がよさそうだ。


「お姉さまそれは……お嬢様道の究極バイブル……あとで見せて頂けませんか?」


「仕方ないですわね……同じ道を志すエレンにでしたら」


「レイル、目的は達しましたし、そろそろ街へ戻りましょう」


 求道者同士、なにか通じ合うものがあったのか、固い握手を交わすフィルとエレン。

 そろそろお嬢様ゾーンに胸焼けしそうなので、街に戻るというフィルの申し出には賛成だ。


「よし、攻略済みだとはいえ、モンスターも出る迷宮だ……帰りも慎重に行くぞ」


 オレたちは念のため、周囲にモンスターがいないことを確認し、街への帰路に就くのだった。



 ***  ***


「お姉さま! 先ほどの絵日記 (バイブル)に描かれていたお衣装……私、大変感銘を受けました!」

「レンディル家にはお抱えの仕立て屋もいますので、お屋敷に戻ったら早速仕立てましょう!」


「ふふ、いいですわね! わたくしたちがお嬢様界のファッションリーダーとなるのです!」


 これからのお嬢様道について、ふたりがきゃいきゃいと盛り上がっている。


 先ほどのリザードマンが迷宮のボスだったのか、帰り道ではほとんどモンスターと遭遇しなかった。

 もうすぐ出口だし、無事に探索が終えられそうだ……小さく安堵の息を吐く。


 みしっ……


 その時、僅かに石がきしむ音がした……何事かと顔を上げた瞬間、天井から水が噴き出す。



 ざああああああっ……どばっ!



 一瞬の出来事だった。

 目の前の天井が抜け、大量の海水が落ちてくる。


 水の流れは濁流となり、なすすべもなくフィルとエレンが流される。


「きゃっ!?」

「くっ……」


 オレは手を伸ばし、なんとか二人を抱きとめるが、水の勢いが強すぎて流されそうになる……なんとか、コイツでっ!


 しゅんっ!


 オレは、左手でふたりを支えると、右手に持ったロッドを振りかぶる。

 一直線に飛んだルアーは岩の出っ張りに引っ掛かり……。


 グランミスリルのラインなら、オレたち3人の体重を支えられるはず……!


 だが、どんどん増える海水はそんなオレの努力をあざ笑うようにかさを増していき、オレの左手が二人を離しそうになる。


「フィルっ! 転移術をっ!」


「お任せを……「緊急転移」……あっ?」


 フィルのスキルの中には、迷宮脱出用の銀スキルもあったはず……オレの指示にフィルはスキルを発動させるのだが……。


 オレがルアーをひっかけていた岩からも海水が噴き出し、ルアーが外れてしまう。

 体勢を崩したオレたちは、転移術の発動範囲から離れそうになる。


「くっ、なんとかエレンだけでも……」


 どんっ!


「おねえさまっ!?」


 ぱあああああっ


 流されそうになった瞬間、フィルがエレンを突き飛ばす。

 その瞬間に転移魔術が発動し、エレンは無事に迷宮の外に出られたはずだ。


「フィルっ!」


 オレは流されていくフィルの腕をつかむと、彼女の頭を胸の中に抱きしめる。


「レイルっ!?」


 フィルの声が聞こえた瞬間、オレの後頭部に衝撃が走り……薄れゆく意識と共に、オレたちは迷宮の奥へと流されていった。


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