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第25話 裏を取る

 私が見たところ、シャーロットの推理はこう。

 殺人は、標的を狙ったものではなく、結果的に誰でも良かった。


 殺人が行われた理由は、ローグ邸に悪評を立てて価値を下げるため。

 そのために、目撃される魔犬を犯人だと思わせ、真犯人への追及の手が回らないように画策した。


 即ち、事の裏側にいる者は、今現在競売に掛けられつつあるローグ邸を手に入れようとしている者である。


 これだけのことを、現場に来て導き出したわけだ。

 呆れるような洞察力と頭の回転だ。

 他人ならば考えすぎだと思ってしまうところだが、今まで何度も、シャーロットの推理を見ている。


 あり得る……なんて思ってしまうのだ。

 そんなわけで、私たちは憲兵所へ。


 ワトサップ辺境伯家の馬車が停まったので、入口前に立っていた憲兵が目を剥いた。


「ごきげんよう。デストレード憲兵隊長はご出勤?」


「は、はい!」


 馬車から降りて声を掛けると、憲兵は慌てて建物の中に駆け込んでいってしまった。

 すぐに、顔色の悪い彼女が走ってくる。


「まーたあなたがたですか。シャーロットのその得意げな顔……。まさかもう推理が……?」


「そうなの。シャーロットは早々に推理を終えて、犯人の目星をつけたみたい」


「事件発生から一日も経ってないんですがねえ……?」


 呆れるデストレード。

 私たちは彼女に連れられて、憲兵所の中に入っていった。


 憲兵たちがせわしなく動き回り、王都で起きる事件について話し合ったり、指示を飛ばしたりしている。

 世の中の平和を守っている場所だ。

 ご苦労さま。がんばって。


 憲兵隊長の部屋にやって来た。

 デスクの上に書類がうず高く積まれており、これを隊長補佐だろうか? スタッフがせっせと消化している。


「では推理をお聞かせ願いましょうかね」


 じろりとデストレードがシャーロットを見つめた。

 睨んだように見えるけど、憲兵隊長殿は目つきが悪いので、そう取られやすいのだ。


「ええ。これはつまり~」


 すらすらと推理を伝えるシャーロット。

 現場で披露した、状況分析を踏まえたものとは違い、さきほど私がまとめた内容に近い。


「なるほど……!」


 デストレードの目がちょっと大きく開かれた。


「確かに、ローグ伯爵邸は競売に掛けられようとしています。ある程度の格のある貴族か、あるいは準男爵位を買った商人が参加を許されていますが」


「買った?」


 爵位を買う、とはどういうことだろう。

 私の疑問に、デストレードが答えた。


「通常の税に、一定以上の額を上乗せして払うことで準男爵位が得られるんですよ。エルフェンバインの財政は潤沢ではないですからね。豪商は箔をつけるため、金を払って爵位を買うことになります。無論、この時に動く額は大きめの城が一つ買えるほどの値段ですが」


 準男爵は一代貴族。

 目覚ましい功績を上げたものに与えられる、名誉としての地位だ。


 準男爵を名乗るだけで、周囲の人々の目は変わる。

 尊敬されやすくなるだろうし、商人がそれを持っていたら、なるほど、取引などにとても有効だろう。


「実力が伴わないといけない辺境では考えられないことだわ」


「ああ、噂に聞く辺境でこれをやれば、被害が大きくなるでしょうねえ。つまり王都は平和だってことです。そうかそうか、なるほど……」


 デストレードはデスクに戻ると、書類の山をごそごそ漁る。

 そして折りたたまれた紙を取り出すと、広げて睨み始めた。


「どーれ」


 スッとシャーロットが動いて、紙をチラ見する。


「だめです! これは機密事項でしてね。部外者には見せられません」


「あら、わたくしとデストレードの仲じゃありませんの」


「今回は上も腰が引けてませんからね。私は仕事モードです」


「残念ですわ」


 シャーロットが肩をすくめた。

 だが、私は彼女が、デストレードの広げた紙を恐ろしい速さで一瞥して、記憶してしまったであろうことを確信していた。

 そう言うことをするんだ、シャーロットという人は。


 背が高いのはこういう時便利だなあ。


 あとはデストレードも、わざと見せたんじゃないか、これ?

 隊長室のスタッフからすると、デストレードは部外者に書類を見せなかった、というアリバイにもなる。


「では失礼しますわね。わたくしもこれから、色々動いてみますから」


「はあ、そうですか。憲兵所の不味い茶でも出そうかと思ったのですが」


「わたくし、お茶にはうるさいもので。では、ごきげんよう」


「ごきげんよう」


 私もシャーロットに続いて部屋を出た。

 歩幅の広い彼女に、ちょっと早足で追いつく。


 シャーロットとともに移動する時、私はヒールの低い靴を履くようにしているのだ。

 この方が小回りが利いて、色々な事に対応できる。

 その分、彼女との身長差がぐっと広がってしまうわけだけど、これはこれ。


「シャーロット。完全に記憶してしまったの?」


「ええ、その通りです。ゼニシュタイン準男爵……いえ、ゼニシュタイン商会がローグ邸競売で競り落とすであろう最有力ですわ。確かに、今のローグ邸の価値はかなり高いですものね。魔犬の話も、あくまで信憑性のない噂に過ぎませんし」


 ゼニシュタイン商会……。

 我が家もたまに利用しているな。

 茶葉から家具から馬具まで、幅広く取り揃える総合商会だ。


 品質はあくまで並だが、比較的安いのと、大体なんでもある、というのが最大の強みだろう。

 私の家のような貴族には、宅配サービスまである。


 巷では、あまりにもゼニシュタイン商会が強すぎて、市場が寡占状態になってしまうのではないかと心配する声も強い。


「わたくしだけでしたら、周りをそれとなく調べるとか、地道な調査になった上で憲兵所への通報でしたでしょうけど……今は最高の権力がありますもの」


「また私の家の力を使うつもりね……! まあいいけど。家の価値を落とすために人を殺すなんて、とんでもない話だもの。そんな価値の下がった屋敷を買ってどうしようって言うんだろう」


「再び、お金の力で悪い噂を消してしまうつもりでしょうね。さあ、行きますわよ」


 今日はまだまだ、忙しくなりそうなのだった。

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