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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
トンが三人集まれば事件

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存在しない男

「ふむふむ、ジャネット様はお勉強にはまってらっしゃるのですね」


 茶葉を持って、我が家にやってきたシャーロット。

 うちのメイドにお茶を淹れてもらいつつ、ワトサップ家の焼き菓子目当てなのは明らかなのだ。


 サクッとレーズン入りの焼き菓子を食べて、


「ん~!! これですわぁ~」


 身悶えするシャーロットなのだった。


「あら、甘いものを食べないようにする期間は終わったの?」


「ふふふ、聞いて下さいませジャネット様。わたくし、ダイエットに成功しましたの!」


「ええっ!? 頭脳労働しているからと、バリツの練習以外はあまり体を動かさなかったシャーロットが!?」


「歩くようにしましたの。ここしばらく、無人馬車は休業中ですわ。シャドウストーカーは暇そうに我が家を掃除していますの」


 シャーロットの家で召使の代わりをやっている魔法生物だ。

 そうか、暇してるのかあ。


 遠慮なく、焼き菓子を食べるシャーロット。

 食べる食べる。


「そう言えば。ジャネット様はまだ、王都に気を許しておいでではないのですね」


「どういうこと?」


「ワトサップ家で、柔らかなケーキの類が出てきたことがありませんもの。全て、日持ちのする焼き菓子ですわ。ジャネット様はエルフェンバインの王都にあってなお、常在戦場なのですね」


「あー、言われてみれば! 確かに、ふわふわしたケーキは美味しいけど、日持ちもしないし不安になるのよね……。シャーロットに言われて気づいたかも」


「それでジャネット様。戦場の勘的なもので、先程のお話の中にある不自然な要素にお気づきになりました?」


「不自然な要素……? さっきの話って、サントン師のこと?」


 ふーむ、と私は考えた。

 ちょうどそこで、紅茶がやってくる。

 うーん、シャーロットの用意する茶葉は、やっぱり凄く香りがいい。

 うちの地元のお茶は、強めの匂いつけメインだからね。


「サントン師は現実離れした人だけど……。それでも、簡単に騙されるような人ではないと思うけれど。いや、でも賢者の館に住み着いているレベルの人だからなあ。外の世界の常識や悪意には弱いかも。悪意……? サントン師の他に、舞台役者のワントン……」


「ええ。まず、一つ申し上げますけれども……。ワントンという名の舞台役者は、王都には存在しませんわ」


「外国から入ってきたということは?」


「可能性はありますけれども。ですけれど、舞台役者は演劇をして生活の糧を得る存在ですの。何日も仕事をせず、無名のままでいるメリットはありませんわねえ」


 紅茶を飲むシャーロットなのだった。


「それは、偽役者ということ?」


「可能性の話ですけれども。ジャネット様にとって、王都の常識は非常識みたいなものに思えるかも知れませんが、案外、根本の常識は常識としてそう違わないのですわよ? つまり……」


「名前が同じなだけで、貴重なものをもらえるような上手い話は無いってわけね。なるほど、納得できたわ」


「それに、サントン師はエルフェンバインにおける博物学の権威。かの御仁の出不精と書籍収集癖は有名ですわよ? これを突いて良からぬことを考える人物がいても、おかしくはありませんわねえ」


「まあ!」


 私は思わず立ち上がっていた。

 こうしてはいられない。

 それってつまり、サントン師がピンチということではないか。


「まあまあジャネット様。まだ、サントン師は声を掛けられただけ。何かが起きたわけではございませんわ。そうだ! わたくし、これから日課の散歩に行きますの。ご一緒しませんこと?」


「ふうん……私も予定はないから、構わないけれど」


 ちらりと敷地内の練兵所を見ると、ナイツが兵士や騎士たちに稽古をつけているところだった。


「ナイツー! ちょっと行ってくるわ!」


「あ、お嬢! 俺はちょっと手が離せねえんで……バスカー!」


『わふ!』


「お嬢の護衛を頼まれてくれるか?」


『わふぅー』


 庭園で寝転んでいた、ガルムのバスカーが起き上がった。

 護衛と言うか、私に付き合ってのお散歩が嬉しいらしく、ぴょんぴょん飛び跳ねながらやって来る。


「歩きでバスカーのお散歩するのは初めてかも! よろしくね、バスカー」


『わふ!』


 もふもふした頭を抱きしめ撫でると、バスカーもむぎゅむぎゅと顔を押し付けてきた。

 おおー、今朝方メイドに洗われていたから、いい匂い。


「バスカーさんなら、護衛としても超一流ですわね! では参りましょ」


 シャーロットが歩き出す。


「一体どこへ?」


「サントン師が、そのワントンという方と会われた場所に行くのですわ。舞台役者を名乗るからには、容姿に優れた……あるいは特徴的な方だったのでしょうね。目撃者がおりますわよ?」


「そういうものなの?」


「舞台役者は派手な化粧をし、遠くからでも判別がつくような姿で舞台に出ますわ。ですけれど、そもそも舞台役者になろうという方なら、並外れた自己顕示欲を持っておいでなのです。大勢の人の前に己の姿を晒し、さらには演技する様を見せて楽しませられる、と自負する方なのですから」


「な、なるほどぉ! ちょっと私には理解できないタイプの人だわ」


「戦場では己の姿を晒し、戦士たちの士気を高めている方が何かおっしゃっているようですけれども」


「戦場と舞台は違うと思うんだけどなあ……。それで、どこに行くつもりなの?」


「ワントンなる人物は、サントン師の行動を把握していたと思われますわね。つまり、あらかじめ彼に狙いを定めていた……。というか、恐らく出不精のサントン師はパターン化された外出行動をなさっていたと思われるので……ここですわね」


 そこは、ゼニシュタイン商会の店。

 それも、賢者の館の目と鼻の先にある支店だった。


 なるほど、これならサントン師でも通えるってわけね……!

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