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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
マーダラーの紐事件

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第19話 第二王子オーシレイ

「また馬車を出すんですかい? 俺はお嬢の右腕であって御者じゃないんだけどなあ」


 ぶつぶつ言うナイツをなだめすかして、馬車を走らせる。

 向かうのは王宮。

 賢者の館だ。


 先日も、ドッペルゲンに賢者が殺された。

 今回は全く違う内容らしいが……連続で賢者が殺害されるのはいかがなものだろう。

 王宮の警備をもっときちんとした方がいいのでは?


 車止めが設置されている所に馬車を置き、私とシャーロットで館に乗り込んだ。

 入り口には憲兵たちがいて、「何者だ」「ここは検分中だ! 入ることはできないぞ」なんて言ってくるのだが。


「あっ、シャーロット嬢とジャネット嬢」


「あっ」


 サッと彼らの人波が割れて、館の入り口があらわになった。

 なんだ人の顔見て「あっ」と言うの。


「有名になって来ましたわね!」


「望まない有名さなんだけど……!」


「いいじゃございませんの。こうして顔パスで通してくれるのですわよ? どんな事件にでも首を突っ込めますわ!」


「私は突っ込みたくない!」


 シャーロットとお喋りしながら事件の現場へ。

 私はどちらかというと、平穏を愛するタイプで、事件などとは関わりなく生きていきたいのだが。

 この話をシャーロットとナイツにしたら、爆笑された事を覚えている。ジョークではないんだが?


 現場には幾つかの人影があり、そのうちの一人が見知った顔だった。


「またあなたがたですか……」


「悪いわね、デストレード。シャーロットが止まらなくて」


「事件はどうですの?」


 真っ先に部屋の中に入っていくシャーロット。

 彼女は何よりも、謎に包まれた事件を愛しているところがある。

 だからこそ、冒険者の相談役などになり、彼らが持ってくる事件の解決に手を貸して暮らしているのだろう。


 私と仲良くなったことで、シャーロットの行動範囲が広がった。

 今後もあちこち連れ回される予感がしてならない。


 デストレードと並んで、困ったもんだ困ったもんだと話をしていたら、部屋に中にいた別の人物がこちらに気付いたようだった。


「おや? お前はワトサップ辺境伯令嬢のジャネットか!」


「あら、オーシレイ様」


 青みがかった黒髪に、青灰色の瞳をした長身の男性である。背と鼻が高く、体格は筋肉質ながら均整が取れており、足が長い。

 第二王子オーシレイ。

 私の元婚約者コイニキールの腹違いの弟であり、今や押しも押されぬ第一王位継承権の所有者。


「ジャネット。よくぞ兄を蹴落としてくれた。お陰で王宮の風通しがよくなって助かるぞ! そこでどうだジャネット。婚約も破棄されたところで、俺の妻にならんか? 俺ならばあの詩人とは違い、まどろっこしいことはせん。すぐさま式を挙げてお前の望むままの暮らしをさせてやる」


「まあ、気が早い」


 顔合わせた途端に何を言うんだこの男。

 ドン引きだよ。


「オーシレイ様、あなたが仰ることは国の一大事。すぐに決めてしまうことではありません。イニアナガ陛下のご判断もあるでしょう? 陛下のお腹をいたずらに痛くするものではありません」


「ほう……。俺の誘いを断るか。ふっ、面白い女だ」


 なんだなんだこいつは。

 恋に夢見る第一王子に、グイグイくる俺様系の第二王子。

 この国は大丈夫か。


「オーシレイ様、もしやこの方は、オーシレイ様がパトロンをなさっていた賢者ですの?」


 この空気の中、平然と割り込んでくるシャーロット。

 あまりに真っ向から来たので、オーシレイがぽかーんとした。


「あ、ああ。そうだが。どうしてそう思った」


「既に王宮アカデミーを卒業され、賢者からの薫陶を得て、自らも古代学の賢者となられているオーシレイ様が、わざわざ足を運んだ意味を推測したまでですわね。古代学と言えば、先日亡くなられたあの賢者の方が専門家だったと思うのですけれど」


「ああ。あの男はホーリエルがバックについていてな。俺がもう少し早く第一王位継承権を得ていれば先に抱え込めたのだろうが、贅沢を言っても始まらん」


「やはり、そうでしたのね。あの賢者の方の所有物であった発掘品が、ここにありますもの。死後にオークションが行われましたわね?」


「うむ。俺が買い取り、この男の研究室に預けた。本来ならば俺が雇った冒険者達とこの男が発掘できていれば良かったのだがな。ようやく手に入ったと思った矢先にこの始末だ」


 床には、チョークで人の形が描かれている。

 ここで部屋の主は倒れていたらしい。


 死因は絞殺。

 鍵は内側から掛けられており、窓も開かない状態だった。


 密室での死亡事件だ。

 周囲には、彼の首を絞められるようなものは何もない。

 だが、首の周りには確かに、幅広い帯のようなものを巻かれた跡があった。


「ふむ、ふむふむふむ」


 シャーロットは足元をぐるりと見回した後、壁を見て、天井を見た。


「ふむ! 謎そのものは簡単に解けてしまいそうですわね」


 そんな事を言い出す。

 オーシレイとデストレードがギョッとした。


「分かるのかラムズ侯爵令嬢!」


「シャーロット嬢、参考までに聞かせて下さい」


「まだ確証がございませんもの。推測を得意げに語るほど、わたくしは身の程知らずではありませんわ」


 おお、焦らしている。

 王子と憲兵隊長がなんとも言えぬ顔になった。


「ジャネット嬢。なんとかしてもらえませんか。何も教えてくれないんですけど」


「シャーロットが納得行くまで証拠が集まったら、勝手に推理し始めるから。変なことしないようにあなたが見張って、好きにさせてあげて」


「辺境伯令嬢の仰ることなら、まあ……。というか、なんて現場だ。侯爵令嬢に辺境伯の名代たる令嬢、それに次期国王までいる」


 言われてみれば。

 この狭い賢者の研究室に、変わった面々が集まっているものだ。


「あら、研究物の目録が無くなっていますわね。これは憲兵所で接収しましたの? してない? でしたら事件後、誰かが持ち出しましたわね、これは。まずは目録を探しますわよ!」


 シャーロットはマイペースに、謎解きに邁進するのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 軽やかでテンポよく面白く、流れも文章も安定していてすいすいここまで読んできました。 テシターノ男爵令嬢カゲリナ様、シタッパーノ子爵令嬢グチエル様(の名前)がすごく好みです。 ところでコ…
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