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推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
フットボーラー失踪事件

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165/239

第165話 マカブル男爵家の事情

「わたくしも聞いたことがありますわね、ダンサズさんのご活躍」


 やっぱりシャーロットは知っていた。

 ということで、話は早い。

 失踪したという、トップフットボーラー、ダンサズ氏を捜索すべく動き出す私たちなのだった。


 まずは会場に向かってみる。

 その日も、貴族チームと平民チームが試合をしていたのだが……。


「あれはダンサズ氏が参加してたチームだよね。前回と比べて、精彩に欠けるなあ。攻め手が無いみたい。ワントップの戦陣はちょっとしたことで崩れやすいから、やらない方がいいのに」


「ジャネット様の戦略眼が唸りますわね」


「ええ。みんな体はできているのだから、もっと戦略的に配置をして動くべきだわ。でも人によって向き不向きがあるから、まずは兵士たちのタイプを知らないと……」


「選手ですわよ? ともあれ、彼らはダンサズさんの突破力に任せたスタイルから変更できず、やられるままのようですわね」


 今回の試合は、平民チームが一方的に攻めていた。

 これは試合運びとしてもよろしくない。

 何より、一方的な勝負は見ていて面白くないのだ。


 私たちは試合場へ続くゲートをくぐり、貴族チームの控えにやって来た。


「な、なんだ君たちは!」


 驚く壮年の男性は、貴族チームの軍師か将軍だろうか。


「こちら監督ですわ。ああ、監督。こちらはワトサップ辺境伯家名代のジャネット様。わたくしはラムズ侯爵家のシャーロットと申しますわ」


「えっ!? 噂の二人がここに!?」


 監督の目がきらきらと輝いた。

 いつものだ。

 こうなると、話がしやすくなる。


「監督、彼らの試合は見ていられないわ。どうしてあんな無様な戦況に? え? ダンサズが抜けたのが昨日のことで、戦術を立て直す暇が無かった? そんなことでは辺境では生き残れないわねえ……。では私からアドバイスをします。敵は攻めの陣形を取っているのですから、こちらはあえて迎え入れて挟撃する陣形を。これなら凡人でも強力な蛮族の兵と戦えますよ」


 私はさらさらと陣形を書いて見せた。

 鋏角の陣。


 敵を誘い込み殲滅する、蟻地獄の型だ。

 監督はウンウンと頷き、「タイム!」と叫んだ。


 わーっと選手たちが戻ってくる。

 監督が鋏角の陣を説明し、選手たちが頷く。

 簡単な陣形だから、すぐにやれるだろう。


 ただし、全員が陣形のパーツとして、自分を殺して機能せねばならない。

 そうしなくては、蛮族に腹を食い破られる。


「ゴー!!」


 監督が指示を出すと、貴族チームが走り出した。

 試合運びは、今までと打って変わったスタイルに。


 ひたすら待ち受け、敵の攻撃を包囲して押しつぶした後、そこからのカウンターだ。

 鋏角の両尖端を担当していた二人が、守りから攻めに転じる。


 うんうん、守りは悪くない。

 攻めはこれからね……。

 試合を見ていると、忘れていたはずの戦いの血が騒ぎ出すようだわ。


「ジャネット様、ジャネット様。試合の監督をしに来たのではないでしょう」


「あ、そうだった!」


 シャーロットに言われて我に返る。

 いけないいけない。

 ついつい、本気になってしまうところだった。


 試合は結局、平民チームの勝利に終わる。

 後半盛り返した貴族チームには、観客席から温かい拍手があった。

 ただ、やはりダンサズがいないことを訝しがる声は多かったようだ。


「で、ダンサズのことなんだけど。教えてもらっていいかしら」


「もちろんです」


 試合後、会場を片付けている間に、監督から手早く聞き込みをする。

 選手たちとのミーティングをしなくてはいけないので、あまり時間を取っていられないのだ。


「彼が失踪しそうな心当たり、あります?」


 シャーロットの問いに、監督は少しだけ考えたようだった。

 そして頷く。


「ダンサズは家との折り合いがあまり良くありませんでな」


「なるほど」


 マカブル男爵家の長男であるはずのダンサズ。

 しかし、家と仲が悪いというのは重要な情報だ。


「後はあれだよな。前は試合を見に来てた彼女が来なくなったよな」


「なんですって」


 選手たちの話に、シャーロットが反応した。


「それは重要ですわねえ……。というか二重、三重の意味で重要ですわ! これはマカブル家に行かねばなりませんわね!」


 ということで。

 やって来ました、マカブル男爵家。


 私たちは立場も立場なので、ノーアポだけど話を聞いてもらえるのだ。

 ご迷惑をお掛けしますね。


「息子が失踪した件ですか」


 マカブル男爵が、警戒心をあらわにしている。

 気持ちは分かる。

 いきなり、世間で噂の二人組が訪ねてきて、しかも用件は消えたばかりの子息の話なのだから。


「ええ、それもありますけれど。ダンサズさんはご結婚なされていませんでしたわよね」


「縁談は幾つも用意した。だがあれがどれも蹴ったのだ。あのバカ息子が」


 ははーん。

 こういうのに鈍い私もピンと来た。


 どんな縁談も蹴ってしまうダンサズ。

 だが、彼は試合会場に彼女を連れてきていたという。


 恐らく男爵も、その彼女の存在は認識しているんだろう。

 だけど、それを口にしないということは……。


「身分違いの恋、ですわねえ……」


 シャーロットがニヤリと笑うのだった。

 


 

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