表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推理令嬢シャーロットの事件簿~謎解きは婚約破棄のあとで~  作者: あけちともあき
四つの精霊女王像事件

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

153/239

第153話 探せ、残り二つのフィギュア

「じゃあまず水麻窟に行こうか」


 私が提案すると、ハンスがぎょっとした。


「な、なんで物騒な方から行こうとするんですか」


「面倒そうなのは先に片付けておく主義なの。それとも、後回しにしたほうがいい? どちらにせよ、絶対に行くことになるんだけど」


「ううっ」


 ハンスが呻く。

 しばらく彼の中で葛藤があったらしいけど、あまりに長く停止してるので、私が額をペチッとしたらハッと覚醒した。


「行きましょう」


「そうね」


「ジャネット様、こういうやりづらい決断をさせるのが得意ですわよねえ」


「ふっふっふ、伊達に戦場帰りじゃないから」


 シャーロットの馬なし馬車に乗り込み、私たちは水麻窟へ。

 まさか二回も訪れることになるなんてねえ……。


「あら、纏った土の精霊力。先日来たお嬢さんね」


 水麻窟に続く桟橋から、マーメイドが顔を出した。

 彼女たちの見分けはあまりつかないんだけど、どうやら以前、私とシャーロットを案内してくれたマーメイドらしかった。


「精霊力で見分けるの?」


「ええ、そうなの。でも、大概はよく分からないかなあ。あなたは特に土の精霊力とのつながりが強いから分かったみたい。土地が土の精霊と関わりがあるんじゃない?」


 ワトサップ辺境伯領に、そんな謂れあったかなあ?

 だけど、見分けてもらえたなら話は早い。


「実は人を探しに来ていて、あなた方と人間を仲介する役割の人がいるでしょう。彼がフィギュアっていう、これくらいの小さな人間の姿の……正しくは精霊女王なんだけど、それを買ったって」


「あー。レイアの像を買ったって自慢されたわ! 素材もレイアの魔法によるものに近いし、最近はこんなものが出回ってるんだねーって感心したところ」


 マーメイドがうんうん、と頷いた。


「ジャネット様、よくマーメイドと親しげに話ができますね……!」


「あら、見た目は人間と違うけど、まあ中身の価値観も違うんだけど、普通の会話できるよ? 彼女たちの方が損得勘定で動くから、話がしやすいまであるかも」


「私たちはほら、人間よりも精霊に近いでしょ。この感情っていうのも、もうちょっと単純みたいだから」


 マーメイドから話される、彼女たちの意識についての驚くべきお話。

 だけどそれは本題じゃない。


 私は彼女に頼んで、仲介の人を呼んでもらった。

 彼はちょうどお弁当を食べてたらしく、口をもぐもぐさせながら水麻窟から上がってきた。


 普通の人間だ。

 痩せぎすで長身の男性。


「レイアのフィギュアですか? いやあ、お目が高い。あれはいいものですよ。あんな安いお値段で買えるなんて。いつも傍らに飾って見つめてます」


「ちょっと見せてくださる?」


 シャーロットの提案に、彼は不思議そうな顔をした。


「いいですけど……」


 かくして、私たちは水麻窟へ。

 その中にあるという仲介人の部屋に入ると、そこは海面に近い場所にあり、壁を通して海の光景が望める構造になっていた。


 これはちょっとした絶景かも知れない。

 目の前を、魚がすいすいと泳いでいく。


「これです。どうです、素晴らしいでしょう」


「確かに素晴らしい作りですわねえ。完璧なバランス……。ウェンディさんとは似てませんわね。彼女はもっと素朴な感じですものね」


「ええっ、ウェンディに似てますよ! ほら、この尻周りとか」


 ハンスがレイア像のお尻を突こうとしたので、仲介人氏は慌ててフィギュアを取り返した。


「俺のフィギュアに男が触らないでくれないか!」


「な、なんだとう!! だが気持ちは分かる……」


 再び仲介人氏からフィギュアを受け取ったシャーロットは、それを掲げたり透かしたりして見ていたが、最後は首をかしげるばかり。


「何も分かりませんわね。もう一つのフィギュアと比較してみましょうか。犯人はフィギュアを破壊して回り、恐らくこの中に隠した何かを探しているのですわ。胸ポケットに収まるほどのものですから、貴金属か何かでしょうね」


「貴金属が俺のレイアの中に!?」


 仲介人氏が目を丸くした。

 だが、次に断固とした決意を顔にみなぎらせる。


「だが壊させねえ。これは俺の命の次に大事なもんです」


「そこまで入れ込むのねー」


 私は感心した。

 ということで、フィギュアを持った仲介人氏も一行に加わり、水麻窟よりもちょっと遠いところで待機していたデストレードと合流したのだった。


「私は立場上、水麻窟に入るとガサ入れになってしまいかねませんからね」


「憲兵隊長だものね」


 だが、水麻窟の仲介人とこの憲兵隊長、「お久しぶりです」「久々です。最近は中毒者も少なめで助かりますよ」「提出書類に嘘はないと思いますが、そのうちまた監査に行かねばなりませんので」「じゃあ事前連絡を……」とかやり取りしている。

 王都の必要悪と憲兵隊は、それなりの関係性を持っているみたい。

 世の中複雑である。


 そう言うことで、ゼニシュタイン商会へやって来た。

 ここで発生した事件を何度か解決しているから、私もシャーロットも顔パスというやつ。


 巷で発生している、レイアのフィギュアを破壊する事件の話をしたら、すぐに分かってくれた。

 二件しかまだ発生してないし、この二、三日の話だからそこまで広まっていないとは思うんだけど。


「何を言ってるんですかジャネット嬢。あなた方が動いた時点で、王都の噂好きの面々が注目してますよ」


 デストレードが聞き捨てならないことを言った!


「ええっ!? それってつまり……」


「また事件が起こっていて、それが華麗に解決されることをみんな望んでいるわけですよ」


 なんてこと。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ