第130話 バスカーのお友達
オーシレイがピーターを連れてきたので、バスカーはカーバンクルの彼を頭に乗せて散歩に出かけることになった。
私とオーシレイは馬車の中で、横をバスカーが歩いていく。
頭上のピーターはご機嫌で、『ちゅっちゅっちゅー』と鳴いている。
途中、とある家の前でバスカーが立ち止まる。
「どうしたんだ?」
オーシレイが不思議そうに、窓に身を寄せてきた。
つまり私が座っている方だ。
近いなー。
「最近、バスカーと散歩をする時はいつもこのルートを通るんです。というのも、バスカーに新しい友達ができたので」
「ほう! ジャネットの飼っているガルムは本当に社交的だな……。俺が知るガルムの常識を大きく逸脱している」
オーシレイ曰く、ガルムは少数でのグループを作り、そのチームで狩りをして暮らしているモンスターらしい。
排他的で、チーム外の存在が近寄ることを許さない。
だが、バスカーは大変社交的で、色々な友達を作っている。
下町遊撃隊の子どもたちも、バスカーにとっては友達なのだ。
そんな社交的ガルムが見つけた新しい友達は……。
『わふ!』
『ちゅっちゅ?』
『わふわふ、わふ!』
ピーターの疑問にバスカーが答えてるのかな?
そして、呼びかけに応えて屋敷の中から姿を表すのは……。
窓際に、小さな人影。
とても小さい。
多分、両手のひらに乗ってしまうくらい。
寸詰まりな人間の形をしていて、両手には旗を持っていた。
服装は、道化師のような派手なもので、顔にもメイクがされている。
人形だ。
それも、自ら動く人形。
ゴーレムの一種だとは思う。
ゴーレムは、旗をパタパタ振りながら、くるくる回って踊る。
「小型のゴーレムか。確かに珍しいだろうが、あれは自由意志を持っているわけではないのではないか?」
「それが、持ってるんです」
バスカーが呼びかけると、ゴーレムはそれに合わせてくるくる回る。
そしてしゃがみ込み、眼下のバスカーをじーっと見つめるのだ。
「本当だ……。発声はできないようだが、あれは意思疎通ができるのだな」
「ええ。この家の人、昔はそれなりに有名な魔術師だったらしくて。遺跡から発掘した技術で人形を作ったんだそうです」
「作ったのか!? 新しく作り上げるなんて、エルド教の上級司祭でもなければ出来ないと思っていたが……」
「実は私、バスカーと一緒に一度この家にお呼ばれしてて」
「なにっ。それは俺も話をつけに行かねばならん」
「一国の王子が庶民の家に上がり込むのはどうかと思うんですけど」
「……それもそうか」
何を冷静さを失っているのか、この人は。
「お嬢、何やら様子がおかしいようですぜ」
「?」
ナイツの呼びかけがあって、私は改めて外に意識を向けた。
こちらを上から覗き込んでいる人形が、両手の旗をパタパタ動かしている。
何かを私たちに伝えたいみたいだ。
「ちょっと降りますね。バスカー! 行くよ!」
『わふん!』
『ちゅー!』
「ああ、待つんだ! いきなり飛び出すのは危険だ!」
オーシレイも慌ててついてくる。
私たちは敷地の中へと飛び込むと、家の扉をノックした。
返事はない。
鍵は……掛かっている。
だけど……。
『ちゅちゅーい!』
飛び跳ねたピーターの、額にある宝石が輝いた。
すると、びゅうっと風が吹いて横合いの植木が大きく揺らされた。
その足元にキラリと光るものがある。
「あ、鍵……? そこに予備の鍵を隠してあったのかな?」
偶然にも鍵を発見した私は、それを使って扉を開けた。
「やはり、カーバンクルが幸運を呼び込む力は強大だ。悪用されないようにせねばならんな」
『ちゅっちゅ』
「なに、悪用されないようにするから、おやつにチーズが欲しい? 食べ過ぎは太るぞ」
『ちゅー』
何をピーターと仲良くお喋りしているのか。
いやまあ、聞いててほっこりするけれど。
だけど今は、そんなことよりお屋敷のこと。
この家の主人は、元魔術師のクビド氏。
もう老齢だったし、彼に何かあったのでは、と心配だ。
バスカーが真っ先に、屋敷の中に飛び込んだ。
そして迷うこと無く家の中の、応接間を目指す。
私とバスカーがお茶をご馳走になった場所で、家の中でも最も広い部屋だ。
そこで、クビド氏が倒れていた。
『わふー!』
バスカーが大きく吠える。
すると、窓際にいた人形が既にやって来ていて、クビド氏をピコピコ叩いていた。
「そっか、これを伝えたかったのね。分かった。すぐにお医者を連れてくるから」
私の言葉に、人形が顔をあげ、かくんと首を傾げた。
「本当に意思があるのか。驚いたな……」
オーシレイが呻いた。
「意思のある小型ゴーレムを作り出せるほどの魔術師が、無名のまま城下町で暮らしていたなんて……。これは国家にとっての損失だぞ」
「そういうのはいいですから! 行くよバスカー!」
『わふー!』
外に飛び出した私は、ナイツにお医者様を連れてくるように指示する。
彼は猛スピードで馬を走らせ、すぐに医者を連れてきた。
幸い、クビド氏は気絶していただけで、命に別状はなし。
ただ、目を覚ました彼はひどく怯えていた。
「やつが……やつが来る……!」
そんな事を言うのだった。
「クビドさん。詳しい話を聞かせてくれる? 大抵のことは解決できる心強い友人が私にはいるから」
これは、シャーロット案件だ。




