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ちょっと短編小説書いてみるから見てみてよ

作者: 林 晄史

 はい。という訳で始まりまーす。

 10000字が目標。さぁ、いってみよー。


「ちょっと俺の悩み聞いてくれよ」


「はあっ?!」


「いや、まぁ、もっともな反応な訳だけど、傷つくわぁ」


「だから何っ?!」


「えぇ〜っと、このままだと話が進まないから続けさせてもらうと、だ」


「あんたねぇ、あたしにも事情ってもんがあるの」


「ええっ?!」


「いやいや、驚きすぎたから。あたしもさ、これでも部下を抱える上司ってやつなわけ」


「はい」


「そりゃ、悩みを聞いてくれなんて。あんたはフランクにきたけど、それなりに抱えた末の勇気ある行動だと承知はしている。あたしなりに」


「ほう」


「けどキャパオーバーってやつかな。あんたの悩みを抱えてあげれるほど、あたしの余裕がないんだ。残念ながら」


「ふむ」


「というわけで、他をあたって」


 ひらひらと手を振り長い髪をさらさらと翻して立ち去ろうした、その時だった。


「へぇ……こんなイケメンがいたとはね」


「?」


 男は俺しかいない。的外れなこととはいえ、ありがたい言葉をくれる人はどちら様かときょろきょろ。


「ここよ。照れ屋さんなのね」


 ウインクをいただく。はい、気づいてました。でもでも受け入れ難いというか、その、できればノーマルな方であってほしいという願望が。


「さあ、行きましょ。今日という日を二人で祝いましょう」


 そうして逞しい腕に攫われそうになる。


「や、優しくしておくれ」


 涙目ながら観念した。


「……あんたゲイなの?」


 神は見捨てていなかった。


「んなこたぁない」


「はあ〜っ、それ通じないって、今どき」


 俺は手を取られ、引っ張られていく。


「……なぁ、これって逆じゃね?」


「ん? あんたが逆でも同じことしたでしょ?」


 カシャン。自販機で適当に2本買って飲む。


「あーっ、そうだな。それはそうだけど。しかしそう思うのは男の子ということで」


「ごしゃごしゃしないの」


沈黙。少し冷たい秋の風がなでていった。


「で?」


片目をつむって問いかけてくる。


「何だっけ?」


あきれたと明確に示されるジト目が提示された。


「……自分から振っといて、ふざけて悪かった」


「真面目か!」


「意外とな」


「はよ、本題、本題!!」


ベンチに座って、足をバタバタさせて催促してくる。


「実は小説を書こうとしててな。どうもうまくいかねぇんだわ」


ちらりと反応をうかがう。


「ふ〜ん」


「この年で新しいこと始めるってのも、まぁ、無謀だろうとは理解している。でも熱がさ、ここんとこがぶわぁーって熱くなるんだよ」


頬が熱いのを自覚しつつ語る。


「あんたさ」


缶が音を立てる。


「今の職や環境には満足してるの?」


「ん? 悪くはないと思っているかな」


「そう。けれど書きたいって熱に従いたいんだ」


「そういうことだ」


「悩みって? 書けないって感じはしないね」


「うん。ある程度、話を進めても止まるんだ」


「止まる?」


「3本書いてみたんだがな」


「うん」


「最初のは何とか完結できた。続けて2本完結できなかったんだ」


「……」


「理由は分かってる。書く自信が無くなったからだ」


「自信」


「そう。今だとネットや書籍で技術とかノウハウを調べれるんだけどさ」


「便利になった」


「そうなんだけどさ。それで不自由になったというか、そうだな。自分の書き方が足りてない、書いてる内容が面白くない。そう思ったんだ」


「そっか」


「うん。それでな、短い話を書いてみたんだ」


スマホを差し出した。


「スッキリしてて読みやすい」


「ありがとう。それは良かった」


「あたしは詳しくは分かんないけど、完結できないって言ってたじゃん?」


「うん」


「それでもこうして書ける。それってあんたの運命なんじゃない?」


「運命?」


「縁っていうのかな。ほら偶然も必然だとか言うじゃない?」


「あぁ、そういう感じのか」


「そっそっ。言葉では、しっくりこないけどさ。感覚的にぴたーっとはまるのあるじゃん?」


「そうだな」


「気づいてればやってる、とか。これがないとダメ、とか。あんたにとって書くことって、そういう感じがするんだよなぁ〜」


のどをぬるくなった飲み物が経過していった。


「うまいこというな」


「だろ〜! あたしも書けるかもしれんな、小説!!」


ドヤ顔である。美人が台無しなほど、思いっきり。


「書いたら見せてくれよ」


「書いたらなぁ〜。あたしはマンガ派だからないと思うけどさ」


「俺はアニメ派」


「確かによく見てるけどさ、この流れでおかしくない?」


「ははは、そうだな」


胸のつっかえが除けた気がして、えいっと背伸びをした。


「あてっ」


「ぱきって聞こえたぞ。じじい」


何もいえねぇ!!







あくる日の、いつもの道で。


「あのさぁ、あのゲイいて良かったかな」


「ん? あぁ、あれかぁ」


思い出すだけで身震いする。あの手の方には初めてお会いした。まぁ、素敵な世界だと俺は思う。友達にもなれる。けど俺は女が好きだ、ごめん!!


「本当、顔にすぐ出るよなぁ。あの時もそうだっけ?」


「あの時?」


「ほらスタバのテラスでコーヒー飲んでてさ」


「あぁ、あのぶちまけ事件な」


「あぁ、あのぶちまけ事件な……じゃねぇし。あの後の予定、全キャンセルだからね」


「仕事帰りだったよな? 予定、本当にあった??」


「あ〜っ、そう言うこと言うんだ。花もはじらう、このあたしに向かって」


「ははは、いつまで少女でいるつもりだよ」


「女は永遠に乙女なの!」


「学年上がってない?」


「はぁっ?!」


「少女っつったら、四年生ぐらいまでじゃね?」


「まぁ、そうね、分かってはいるわよ。あたしもいい加減な年な訳だし」


「俺は好きだけどな」


「へっ……」


「さっきの話に戻るけどさ。スタバのテラスでコーヒーぶちまけたじゃん?」


「うん」


「当然、俺はブチギレられると覚悟した。クリーニング代ってだけじゃすまないレベルだったし」


「髪もべちゃべちゃで大変だった!!」


「そうだよな。けどさ、一つも文句、言わなかったよな?」


「まぁ、あの時のあんたのツラ見たら誰でも言えないと思う」


髪をくるくるしながら、目を逸らす。乙女だか、少女だか、どうでもいいが可愛いな。


「ちょうどいいから服買いに行ってヘッドスパするから付き合ってもらう、そう言ったんだよなー」


「言った、言った。気分転換が必要だったでしょ、あんたには」


「そうだけどさ、なかなか言えねぇって。初めましてだったろ?」


「確かに。う〜ん、あたしにも何でか分かんないんだ」


「言ってたな。今も不明か」


「運命」


「ん?」


「ほら、これこそ縁的な運命みたいなやつなんじゃない?」


「ははは、そうかもな」


何となく見上げた空は星空。いつもより多く見えてキレイだった。


「で、どうなのよ?」


「ゲイいて良かったか?」


「うん」


「最悪だよ」


背けた顔に長い髪がたれる。


「けど何度でも選ぶ」


「ゲイと会う道を?」


「お前とこうして話せるからな」


「ふ〜ん」


しばらくジト目で見られる。


「あたしも何度でも選んであげる」


「スタバでコーヒーぶっかけを?」


「あんたと話せるから……ね」


そう言って背を伸ばしたら、ぱきっと音が鳴りました。






数日後。いつもの道で。


「で、どれぐらいの長さの書くの?」


「とりあえず目標は10000字」


「10000っ! え〜っと、原稿用紙400字だよね? となると25枚!! ひぇ〜っ!!!!」


「まぁ、そうなるか。読書感想文とかも苦手だった?」


「あれはね、簡単なのよ。読まなくてもいいんだから」


「何だとっ?」


「知ってる話を書けば良いのよ。適当にね」


「本は苦手だったよな……まさかとは思うが、その話って」


「ご明察。絵本や童謡よ」


「ご明察。じゃねぇよ、それ通ったのか?」


「えぇ、もちろん。真剣に読んだのと一点張りで」


「その力を読書にできねぇのが、すごさなんだろうな」


「それ褒めてんの?」


「俺にはできない所業だ」


「もう! それがあたしの取り柄ってことよね」


「全面的に肯定するよ、その考え」


沈黙。何だかむず痒い感じが互いにした。


「あのさ」


「何?」


「あんたって、そういうとこあるよね」


「小っ恥ずかしいセリフだったとは自覚している」


「小っ恥ずかしくない」


「えっ?」


「あたしは嬉しかった。そういうセリフは小っ恥ずかしくない」


「おう」


「……どんぐらい書いてるの?」


「目標10000字のやつ?」


「うん。書いてみたりしてるんでしょ、あんたのことだから」


「ははは、お見通しか。3703文字を超えたところだ」


「もう三分の一過ぎてるじゃん!」


「もう過ぎてる……。うん、そうだな」


「あたしと話す必要あったかな」


「あったさ。そうじゃなきゃ」


「?」


無言で首をかしげて、こちらを見上げる姿。ちょうどよく途切れた雲間から月の光が届いて、柔らかく照らしていた。


「……」


「……」


「……」


「……何か言え!」


「そうじゃなきゃ、書けねぇからな」







いつもの道で。


「前から思ってたんだけど」


「何?」


「いつも同じの選ぶの理由あるの?」


はたと困って考え込んだ。


「……」


良い匂いが近づいてきた。


「ねぇ、無策?」


斜め45度に傾いて見上げられることなんて、本当にあるんだなぁ。


「おい、何か言え!」


だってなぁ。


「……」


ジト目。


「……悪い。見惚れてた」


真っ赤。


「……そういうとこだぞ、あんたのそういうとこ、ほういうとこ」


肩パンを強めにいただいた。


「元・空手部?」


「はあっ?!」


はい、もっかい来ました。


「いいのをお持ちで」


「ふふん、さすがあたしっ!」


「おっしゃる通りで!!」


沈黙。また月がキレイな夜で、隣を歩く姿が、やたらと神々しい。


「?」


首をかしげている。


「なんでもないよ」


もう肩パンはくらわないぜ。


「それで進捗どう?」


「はっ、今ひとつ」


「ダメじゃん」


「それな」


眉間をもむ。まぁ、ちと気張ってはいるのだが。


「でも好き」


「えっ?」


「顔見れば分かるから」


「そうかなぁ」


「格闘してる感じがしてるし、それが楽しいって感じも伝わってくる」


ほほをかく。


「お見通しだなー」


「何で、棒読み?!」


「ははは、ありがとう」


「どういたしまして」


にかっと笑う姿が、本当に好きだなぁ。


「こんなこと言うとやる気なくすかもしれないけどさ」


「10000字に拘んなくてもいいんじゃない?」


「決めたことはやりたい」


「そうだよね。で、ね。ちょっと戻ってみようか?」


「戻る?」


「そっそっ、書きたいのが第一ですよ」


「あぁ」


「何文字書くのって、どうでも良いんじゃない?」


「何が書きたくて、何を書きたいのか、ということか」


「う〜ん、そうだけど違う気がするな〜」


「うーん、違う気がするかー」


お互いに眉を下げて悩んでいる。


「ぷっ」


「ははは」


「面白い顔してるね〜」


「最高になー」


「だから何で棒!」


「読みまで言わないと伝わらないぞ」


「あんたに届けばいいの!」


「それだ!!」


「何っ?!」


「悪い、悪い」


「気付いたことを言いなさい、早く」


「近い、近い」


「いいから早く〜」


「えいっ」


沈黙。互いの匂いに包まれる。


「こら、こら。いったい何の真似かな〜??」


「いやだった?」


「いや、いやよ、いやに決まってるじゃない。すっご〜くいや」


「はは、これはくるもんがある」


名残惜しいが、よいしょっと距離をとる。


「勝手」


つかまった。


「?」


「勝手にくっついて、勝手に離れる。そんな勝手は許さない」


なるほど。


「あまりにも無遠慮にくるとな」


「うん」


「こうしてしまうのが男ってやつだ」


「はい」


「気をつけような、互いに」


「気をつけます」


何だろな。不思議と沈黙が心地良かったりもする。好き勝手にしゃべってんのにな。


「なんでここいつも誰もいないんだろ?」


「そうだな。古びたベンチが一つ」


「この辺りだけ街灯も少ないでしょ?」


「自販機もボロ」


「あ〜っ!」


「ん?」


「答えもらってない」


「答え? あぁ、いつも同じの買う理由だったか」


「そっそっ、それ、それ」


「たいした理由じゃないからなー」


「男が焦らしてもいらいらするだけだぞ〜」


「分かる、分かる」


「だからはよ、言え!」


ふーっと息を吐いて、呼吸を整える。本当にたいした理由でないし、また怒られるだろうが、まぁ、それもいいか。


「2本とも俺の好きな味。それを押し付けたかっただけだ」


うまいから飲め、なんて幼稚だよな。本心なのだから仕方ない。


「まずかったか?」


「うんうん、気に入った。そういうのあたしは好き」


目をキラキラさせて、またにかっときた。


「気に入ったなら良かった」


「良いぞ〜、良いぞ〜」


「どっかのSLGに出てきそうなじじいくさい感じ」


「あたしは乙女だぞ〜。あんまりな言い方」


「まぁ、そういうとこも俺は好きだ」


「……そんならいいかな」


「なぁ」


「なぁに?」


「今度はさ、2本選んでくれ」


「ちゃんと飲み干してね」


「ちゃんと好きなものを選んでくれたらな」


「どうしようかな〜。ちよっと試してみたい気もする」


「ははは、まぁ、どんとこい」


「頼もしいね、今日は」


「そりゃ、な」


「どういった心境の変化で?」


「何でもねぇよ」


「おや、ほほが赤いですねぇ〜」


こんな日が、たまらなく愛おしいんだな。そんな風に思った。

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