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「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです  作者: 四馬㋟


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精霊と魔術師③






「まさかあなたが精霊の姫君だとは知らず、とんだ失礼を致しました」


 メアリが女王の孫だと知った途端、手のひらを返したような態度――になることもなく、ニキアスは相変わらず生気のない顔をしていた。その割に童顔なせいか、とても年上だとは思えない。背丈は自分と同じくらいか。


「さあ、どうぞこちらへ」


 あのままじっとしていても仕方がないので、メアリは彼を客人として、我が家へと招待することにした。掃除を先に済ませておいて良かったと思いつつ、物珍しそうに辺りを見回す彼に椅子を勧める。

 

「今お茶を淹れますね」

「あ、お気遣いなく」

「紅茶とハーブティー、どちらがお好きですか?」

「できればハーブティーを……最近、胃の調子が良くなくて」


『なんていうか……』

『気の抜けるやりとりだね』

『なんかメアリに文句でもあるの?』

『いえいえ、侍女様』

『ありませんとも、侍女様』

『あんたたち、馬鹿にしてるでしょ?』


 喧嘩をしている精霊たちをよそに、メアリは手早くお茶を淹れると、青空市場で買っておいたお気に入りのティーカップをテーブルの上に並べた。それから砂糖漬けの果物もそっと添える。残りは、近くにいる精霊たちがつまみ食いしてもいいように、別の皿に取り分けて置いた。


「良い香りですね」

「レモングラスティーです。飲むとすっきりしますよ」

「本当だ。結構いける」


 ふうと一息ついて、だらりと椅子に腰掛けるニキアス。

 くつろいでもらえて何よりだとメアリはにこにこする。


「ずいぶんとお疲れのようですね」

「理想郷を求めてあちこち彷徨ってましたから」

「その若さで、本当に隠居なさるおつもり?」


 つい好奇心から訊ねてしまうが、ニキアスは嫌からずに答えてくれた。


「誰にも邪魔されず、魔術の研究に没頭したいので……」

「ずいぶんと研究熱心なんですね」

「その分、人と関わるのが苦手だから、プラマイゼロかな」


 あははと笑い声を上げているものの、顔は相変わらず無表情だ。

 ちょっと怖い。


「ご存知の通り、僕は宮廷魔術師の職をクビになり、親に勘当された身ですから」

「あなたをクビにしたユワン殿下のほうにも問題があったのでは?」

「……殿下が廃嫡され、処刑されたことは知っています」


 ニキアスは憂鬱そうに続けた。


「当時、皇后陛下殺害に加担するよう、僕も脅されていましたから」

「でしたら……」

「今さら復職したいとは思いません。身内の殺し合いに巻き込まれるのはごめんなので」


 心底疲れきったような声を出されて、メアリはそれ以上、何も言えなかった。

 王侯貴族に暗殺や謀殺はつきもの――これまでの経験から嫌というほど身に染みている。


 現にメアリは異母妹のアメリアに殺されかけたのだから。国を追放されて、どこにも行くあてのない自分に、精霊たちが手を差し伸べ、居場所を与えてくれた。でなければとっくに野垂れ死んでいたことだろう。


「できればあなたのように小さな畑を作って、自給自足の生活を送ることが理想的なんですが」


 心底羨ましそうに言われて、「まあ」と笑う。


「狩りはなさいますの?」

「いいえ、菜食主義なもので」


 だから魚も食べないのだと言われて驚く。


「ナッツ類や果物が自生しているところがあれば教えていただきたいです」

「かまいませんわ」


『ちょっとメアリっ』

『その前にやることがあるでしょっ』

『まさかそいつをこの家に泊めるつもりじゃないでしょうね』

『浮気だ浮気』

『アキレスが怒るぞ~』

『相変わらず危機感がないんだから』


 そういえばそうだったとぽんと手を叩く。


「僕は野宿でも一向に構いませんが」


 そういうわけにはいかないと、彼を連れて外へ出た。少し歩いて、以前、精霊たちが遊び半分で作ったツリーハウスに案内する。ニキアスが感嘆の声を上げた。


「家が木の上にあるなんて……初めて見た」


 中に入ると、彼は童心に返ったように瞳を輝かせた。建物は、二本の大木を土台として作られており、小さなベランダも付いている。居間と台所が一体となった大部屋と寝室用の小部屋に分かれていて、椅子やテーブルなどの備え付けの家具もあった。


「どうですかか? あちこち汚れてますけど、掃除をすれば問題はないので」

「はい、気に入りました」

「良かった。でしたらあとはご自由に。何か困ったことがあったら遠慮なく声をかけてくださいね」


 掃除道具を置いて、そのまま立ち去ろうとすると、「本当にいいんですか?」と呼び止められる。


「僕がこの森に住んでも……」

「それは精霊たちが決めることですから」

「どうすれば彼らに受け入れてもらえるでしょうか」


 思わず考え込んでしまったメアリに、「すみません」とニキアスは謝罪する。


「安易に答えを求めてはいけませんね。自分で考えます」

「とりあえず、普段通りの生活をなさればよろしいかと……」

「演技してもどうせバレますしね」

「ここは彼らの住処ですから」


 ゆえにこの森で暮らすということは、四六時中、精霊たちに見張られるということになるのだが、


「人間に監視されるより、全然マシですよ」


 ニキアスは全く気にしていないようだった。


「というわけで、これからよろしくお願いします」


 ぺこりと頭を下げられて、初めてご近所さんができた喜びに、メアリは微笑んだ。










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