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「お前は魔女にでもなるつもりか」と蔑まれ国を追放された王女だけど、精霊たちに愛されて幸せです  作者: 四馬㋟


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魔術師再び 前編




「アキレス様が……行方不明?」


 信じられない思いで呟くと、メアリはよろよろと近くの椅子に座り込んだ。皇太子妃になってまだ日は浅いが、公務や業務に追われ、忙しい毎日を送っている。それは皇太子であるアキレスも同じで、二人きりで過ごす時間が少なくなってしまったと嘆いていた矢先、この知らせを受けて、メアリは動揺を隠せなかった。


 そんな女主人を支えるべく、侍女であるアルガがそばにやって来る。


「アルガ、それは本当なの?」

「ええ、旅の途中で盗賊に襲われたらしいわ」


「そんな……アキレス様に限って……」


 アキレスは強い。

 盗賊如きに彼が負けるはずがないと、メアリは信じていた。


「わたしもそう思うわ、メアリ。護衛騎士がたった三人しかいなかったとはいえ、ただの盗賊にノエや殿下が負けるはずがない。ましてや殿下はメアリが贈った魔法の剣をお持ちなのよ。普通の人間なら、殿下に指一本触れることはできないわ」


 アルガの言う通りだ。

 剣にはアキレスの身を守るよう、強い魔力が込められている。


「問題は盗賊たちの親玉よ」


『お察しの通り……』

『あの陰キャ野郎の差金だよ』


 いつの間にかアルガの両肩に乗っていた二人の精霊が口を挟んでくる。

 どうやら既に調査は済んでいるらしい。


『メアリに振られてからものすごく頑張ったみたいだね』

『荒地の一角に森を作ってる』

『植物を使った方法で結界を張ってるんだ』

『ぼくらの魔法、パクりやがって』

『ってか元祖は女王様じゃね?』

『女王様の魔法、パクりやがって』


「アレを植物と言える? わたしたちの魔法とは似て異なるものよ」


 断固とした口調でアルガが言うと、精霊たちは『確かに』とうなずく。


『見た目は完全な植物だけれども』

『中身は別物』

『土から養分もらってる感じじゃないしね』

『逆に吸い取られてる感じ?』


「それって、どういうこと?」


 不安に思い、アルガを見ると、


「現地に行った仲間たちの話じゃ……」


 途中で言葉を止めて、神妙な面持ちでアルガは言い直す。


「実際に行って、メアリ自身の目で確かめたほうがいいわ」

「……わかったわ。そこにアキレス様もいらっしゃるのよね?」


 不安を抱えながら精霊たちの力で現地へ――アキレスたちが行方不明になったという、荒地の森にたどり着いたのだが、


「あなたたち、どうしたの?」


 いざ森に入ろうとすると、いつもメアリにまとわりついている精霊たちがさーと離れていってしまった。不思議に思ってアルガを見ると、彼女のもまた、離れた場所に立って申し訳なさそうにしている。


「ごめんなさい、メアリ。ここからは一人で行ってちょうだい」


『付いて行きたくてもついて行けないんだ』

『この森には人間しか入れないから』


 近くにいる精霊たちに言われて、そういえば結界が張られているのだと思い出す。


『メアリは半分人間だから、ギリギリセーフみたいだけど』

『ってかメアリを誘い出すことが目的なわけだし?』


 そういうことならと、勇んで森に入っていく。


「メアリ、必ず二人を見つけてね」


 平静さを装ってはいるものの、アルガもノエのことが心配でたまらないのだろう。メアリは力強くうなずくと、森に足を踏み入れた。






 ***





 

 ――確かに見た目は普通の森にしか見えないけれど。


 森に入った直後、誰かに見られているような――それも無数の視線を感じて、メアリはぞくっと背筋を震わせた。鬱蒼と生い茂る木々のせいで辺りは暗く、不気味で、一見して魔の森に似た雰囲気がある。


 ――でも似ているようで、まるで似ていないわ。


 なぜならここには、樹木以外の植物が存在していないからだ。

 花もキノコも、苔むした岩ですら見当たらない。


 その上、植物の息吹が感じられず、妙な息苦しさを覚える。

 例えるなら、人ごみの中に放り込まれているような――。


 ――そういうことなのね。


 近くの樹木に手を触れたメアリは確信した。


 ――なんて残酷なことを……。


 この樹木の正体は人間だ。

 呪いで人間を樹木に変えて、結界を作るための道具にしているのだ。


 ――こんなに大勢の人たちを、一体どこから……。


 そういえば以前、ノエがぼやいていたのを思い出す。セイタールでは年間20万人もの人々が失踪、または行方不明になっている。たいていはすぐに発見されるのだが、ここ近く、所在が確認できない人々が急増していて、その対応に追われているのだと。


 ――あの人の仕業だったのね。


 だったら今頃、アキレスやノエたちも、呪いで樹木に変えられて、動けずに困っているはずだ。すぐに彼らを見つけて助けなければと思うのだが、


 ――どうやって捜し出せばいいの?


 森は広く、存在する樹木も数え切れないほど多い。精霊たちがいれば話は別だが、今は彼らに頼ることはできない。それでもメアリは必死に歩き回って、樹木を一つ一つ確かめていった。けれど張り切りすぎたせいか、アキレスたちを見つける前に疲れ果ててしまい、その場に座り込んでしまう。


 ――これだと、いくら時間があっても足りないわ。


 それにお腹まで空いてきた。慌てて城を出てきたので、当然、何も持ってきていない。己の軽率さを呪いつつ、空腹のあまり動けずにいると、一羽の梟が目に留まった。木の枝にとまって、じっとこちらを見下ろしている。


 この森に入って動物に出会ったのは初めてだ。


 一瞬だけ、アキレスたちを連れ去った魔術師ニキアスの手先かもしれないと警戒したものの、不思議とその梟からは危険な気配は感じなかった。瞳の色がアキレスと同じ、金色だったせいもあるのかもしれない。


 ――嘴に何か咥えている?


 キラッと光るそれは小さな鍵で、梟はそれをメアリの足元に落とすと、すぐさま飛び去ってしまった。反射的に鍵を拾って、ぼんやりと眺めていると、


 ――そういえばさっき、樹木のうろに大きな箱があったような……。


 鍵がかけられていて中を確かめられなかったが、これがその箱の鍵かもしれない。罠の可能性もあるが、ここで何もしないでいるよりはマシだと思い、いそいで箱を取りに行く。


 ――開いたわ。


 するとそこには瑞々しい果物と固めに焼かれたパンや焼き菓子がたくさん入っていて、メアリはごくりと生唾を飲み込んだ。


 ――食べても平気かしら。


 空腹に負けて焼き菓子に手をつけてしまうが、毒は入っていないようだ。とりあえずお腹が膨れると、箱を大切にしまって、アキレス捜しを再開する。


 ――ずいぶんと日が落ちてきたわね。


 辺りが完全に真っ暗になる前に今夜の寝床を確保したほうがいいかも知れない。一旦、捜索活動を中断して、少しでも夜風が凌げる場所を探していると、再び梟がこちらに向かって飛んでくるのが見えた。梟はメアリの頭上を一周すると、付いて来いと言わんばかりに飛んでいく。無意識のうちに梟の後を追っていくと、一際大きな樹木の前にたどり着いた。


「まあ、なんて大きなうろ」


 大樹の根元には大きな穴が空いていて、人1人くらいなら余裕で入れるくらいのスペースがあった。中には暖を取るための布類まで敷き詰められている。ここなら一晩でも二晩でも過ごせそうだ。もっとも樹木の正体が呪いをかけられた人間だと考えると複雑な心境だが。



「ありがとう、あなたがここまで案内してくれたのね」


 近くの木の枝にとまった梟にお礼を言うが、梟は何も言わずに飛び去ってしまった。心底疲れきっていたメアリは、穴の中に入って横になると、瞬く間に寝入ってしまった。


 



 …………

 …………




『――殿下……妃殿下っ』


 耳元で囁くような声がして、目を開けるが、誰もいない。


『どうかアキレス様をお助けください。あの方を助けられるのは、あなただけなのです』

「まさか……ノエ様?」

 

 暗闇の中、必死に目を凝らすが彼の姿を見つけることはできなかった。もしかして夢でも見ているのだろうかと、寝ぼけた頭で考える。


『今から私の言うことをよくお聞きください。ここから南に……一番太い枝が指す方へ進んでください。その先に一軒のツリーハウスがあります。あの魔術師はおそらくそこにいるでしょう。あの男に何を言われても、一切答えてはなりません。答えてしまったら最後、私たち同様、呪いをかけられて樹木の姿にされてしまうでしょう。ですから男のことは無視して、奥の部屋へ向かってください。栗色の扉を開けると、そこにアキレス様がいるはずです。不意をつかれて、眠らされてしまったのです。魔法の剣がある限り、魔術師はアキレス様に手が出せませんから』


 はっと目を覚ますと、既に夜は明けていて、外から眩しい朝日が差していた。


 

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