003 「ふふふ。いつの間にやら陽が…
「ふふふ。いつの間にやら陽が傾いて来ましたねぇ。」
日射しが横から強く射し、歩く3人に長い影をつくる。
「がはははは!!時間がたつのは早いな!」
「…ふふふがははじゃねぇ。おめぇら2人してあちらこちらに行きやがってよ!」
今川太郎が疲労感漂う顔で悪態をついた。
「がははっ!いいではないか!その土地の趣をみる。これぞ観光だ!」
「ほとんどが買い物じゃねぇか!」
「ふふふ。物珍しご当地物が手に入って良かったですよ。」
跡野奉が手に下げた買い物袋を持ち上げる。
「……ちっ。まぁ、現地で手に入るそういった品が不思議解明のヒントになったり、ならなかったりするからな。」
「がはははは!!そういうことだ!」
「だけど、おめぇらは買いすぎなんだよ!つーか、服はいらねぇだろ!!」
「ふふふ。その地域の住民と同じ衣装を着ることで、親近感が湧き、仲を深めることができるのですよ。」
「がはは!仲良くなれば面白い話も聞けるかもしれんからな!」
「わかってんだよそんなこと!!」
「ふふふ。わかっていらっしゃるのに、何が不満なのですか?」
「ここが日本だからに決まってんだろうが。海外ならそうかも知れねぇがよぉ。同じ日本人で文化にちげぇなんてねぇだろうが。現におめぇらが買った服は全部洋服じゃねぇか。」
「がはは!そういえばそうだったな!」
「ふふっ。でも購入したいくつかの服はこの町の方がデザインされた物ですよ。」
「おお!そうだったのか!店員にオススメされるがままに購入したから知らなかったな!それは今後のいい話の種になるな!」
「なら常に着とけよその服。」
「ふふふ。貴方の分の服もありますよ。」
跡野奉が1つの袋を開けて、1着の服を取り出す。
「…だせぇ。着たくねぇ。いらねぇ。」
「がーっはははは!!因みに3人で色ちがいだがお揃いなんだぞ!」
「うわっ。絶対着たくねぇ。」
「ふふふふふ。」
夕焼け空に愉快そうな笑い声と、嘆きの声が響いた。
「おや?あちらの方で何かやっているみたいですよ。」
跡野奉が道の先の広間を指差す。それを受け今川太郎が耳を澄ませた。
「誰かがスピーカーで話している声が聞こえるな。演説でもしてんのか?」
「がはははは!!行ってみようではないか!」
3人は人混みに近づいた。
「“私は!この町を!もっと豊かな町に!したいのです!”」
1人の男性が広間の壇上でマイク片手に演説を行っていた。
「町長の選挙か何かか?」
「ふふふ。そうではなく、あの人は常無さんという市議会員みたいですよ。」
跡野奉が近くに貼ってあったポスターを見て言う。
「“ですので!皆様!声をあげていきましょう!私に協力を!私と共に!町を良くしていきましょう!”」
「がはははは!!なかなか熱い男ではないか!」
高橋充が面白そうに笑う。
「何を訴えているのかわかんねぇけどよ、聴いている聴衆の人数の少なさからして大したことじゃねぇんだろーよ。」
「ふふふ。私はこの町に眼をつけたことだけで凄いと思いますがねぇ。」
跡野奉のその声に今川太郎がはたりと気が付く。
「…確かにな。この町は町外の人々からはほとんど認識されないはずなのにな。」
「がはははは!!あの市議会員はこの町出身とかじゃないのか?」
「それは知らんが、そうかもな。」
3人で壇上の常無を観察する。
「………………あの男。」
何かに気が付いたのか、跡野奉が小さく呟いた。
「どうした跡野?」
「…いえ。ふふふちょっと気になることがあって考え事をしていただけです。」
「ああん?なんだよそれは。」
「ふふふ。大したことじゃないので、おきになさらず。さぁ、演説も終わったみたいですし、行きましょう。」
「?」
「がはははは!!そうだな!」
3人は広場を離れて歩き始めた。
「大分陽が沈んできたな。」
「ふふふ。綺麗な夕焼けですね。」
3人が立ち止まり遠くの空を見上げた。
太陽が町の向こう側に沈みかけ、今日最後の輝きを放っていた。空は紫色に染まっており、もうまもなくしない間に辺りは宵闇に包まれるだろう。
「夕陽と一緒にあのでけぇ塔も見えるな。」
夕陽の光で黒く染まった鐘塔が視界の端に映る。
「ふふふ。あの長さですからね。きっとこの町のどこからでも目に映るでしょうね。」
「がはは!あの鐘塔を目印にすれば、迷子になることはないな!」
「どうだか。目印は見えていても、道が入り組でたどり着けないとかあるからな。」
「それはそれで良い冒険になるな!」
「楽観的すぎるだろ!…はぁ、それはそうとああいう感じの天辺に鐘がついている塔ってよぉ。西洋とかで見られる建物だよな?」
「ふふふ。そうですね。外国語だとカンパニーレやベルタワーとか言ったりしますね。確か教会などに隣接して建てられてることが多いですよ。」
「がはは!カンパニーレか。良い響きだな!今度からそれを使って行こう!」
高橋充がカンパニーレ、カンパニーレと連呼する。
「ガキかよ。…跡野、まぁ一応聞くがあれほど高い鐘塔は世界にあるのか?」
「私の知る限りないですね。」
それを聞き、今川太郎が顔をにやかす。
「くくく。ますます謎めいてきたぜぇ。明日からが楽しみだ。」
「がはははは!!ならここら辺を最後にして、今日は切り上げるとしよう!早く帰って明日の準備の時間にあてようではないか!」
「ふふふ。そうですね。お腹もいい感じに空いてきました。」
「買い食いとかしてたくせによぉ。よく減るもんだ。」
跡野奉が腹部を触り、今川太郎が呆れた顔をする。
「がはははは!!…おっ!向こう側から学生らが来るぞ!」
3人が歩き出そうとした時、高橋充が反対方向から歩いてくる女子学生の集団に気がついた。
しばらくしたのち、3人と学生らはすれ違った。
「ふふふ。平日ですからねぇ。」
跡野奉が笑って通り過ぎた学生らを眺めた。
「………………すれ違いざま、とてつもなく不審な眼を向けられたな。まぁ、跡野の服装が原因だろ。」
「ふふふふふ。私だけでなく、3人とも同じように向けらねてましたよ。」
服装のことを言われたせいか、少し険ある声音で跡野奉が言った。
「んだよ。気に障ったのかよ。」
「ふふっ。いえ別に。」
「がはは!ここは住宅街だし、見慣れない顔だと危ぶんだのだろう。」
高橋充が推測を述べる。
「ま、そんなところだろうな。」
「がはは!背丈からして中学生ぐらいだったな!」
「ふふふ。そう言えば先ほど買い物の際に中学校の名前を聞きましたね。確か‘市立本気狩中学校’でしたでしょうか。」
「くくっ。ただ町の名前がついただけなんだろうけどよ。なんかサバイバル知識とか学びそうな学校に聞こえるよな。」
「?そうか?魔法を習いそうな学校名じゃないか! 」
「いやいや、どこがだよ!」
「ふふふ。本気を‘まじ’と読んで狩を‘かる’で、‘マジカル’中学校というわけですね。」
「がはは!そういうことだ!」
「しょうもねぇ…。」
今川太郎がやれやれと肩を落とす。
それを見ながら跡野奉がポツリと言葉を洩らす。
「ふふふ。彼女達は学校で、はたまた日常で何を学んでいるのでしょうね。」




