002 「なぁ、さっきからちょくちょく…
「…なぁ、さっきからちょくちょく気になっていたんだけどよ。」
「む?なんだ?」
今川太郎が辺りを見回してちょっと怪訝な顔をする。
「なんか、動物が多くないか。」
「ふふふ。確かに多いですよね。」
跡野奉も同調し、周りをみる。
道行く住民たちの半数以上が手に紐をにぎり、主に犬を引き連れて歩いていた。他にはタヌキやキツネ、猫、猿、山羊、羊等々と種類豊富であった。中には馬に乗っている人や、方にカラスを乗せて歩いている人もいる。
「くっくっく。やべぇ。異常すぎるぜぇここ。」
今川太郎がニヤリと嗤う。
「きっと使い魔に違いないな!」
「ふふふ。どうでしょうかね。…おや?鬼がいますよ。」
跡野奉が車道を挟んだ反対の歩道を指差す。
「なんだと!?」
それに対し、ここに来て初めて今川太郎が激しめの声をあげる。
跡野奉の指先には、伝承どおりに頭部に牛の角を持ち、虎の毛皮を身につけた生物がいた。小学生ぐらいの子供と共に優雅に歩道を闊歩している。
「早速面白れぇ収穫が…ってああん?」
「なかなかユニークな鬼だな!」
「くそっ。牛に虎の毛皮を着せてるだけじゃねぇか。なにが鬼だ。」
「ふふふ。毛色も赤っぽいですし、赤鬼でしょうね。ふっふっふ。」
「…くだらねぇ。」
鬼(?)と少女は過ぎ去って行った。
それから、3人はしばらく歩き、適当な喫茶店に入り、ソファー席に座る。そして、注文を済ませた。
「ケーキ3つ頼むとか遠慮しねぇなぁお前。ま、俺の金じゃねぇからいいんだけどよ。」
今川太郎が自身の前に座る跡野奉を呆れたようにみる。
「ふふふ。その内の2つは私と社長の珈琲とのセットにしているので、セット価格になっているのですよ。」
「そうかいそうかい。」
「がはははは。別に構わん。旅先の費用は全て僕が持つ約束だ。今川ももっと頼んでもよかったのだぞ。」
「無駄食いはしねぇ主義なんだよ。」
「ふふふ。だからそんなに痩せこけているのですね。」
「それは僕も気になっていたな。もっと食べた方がいいのではないか?ほら、このメニューに大々的に載っている"お口で踊る肉厚ぷりぷりサンドウィッチ"とかどうだ?」
高橋充が2ページにまたがり掲載されている見本絵を2人に見せる。
「ああん?余計なお世話だっつーの。飯をあんまり食うと頭の動きが鈍るんだよ。ていうか飯食ったのに、そんなでけぇ物を食いきれるかよ。」
「ふふふ。私もそれ気になっていたのですよね。昼食を頂いてなければ、頼んでいましたね。」
「ああん?ケーキ3つも注文した奴が何をいってんだよ。」
「ふふふ。別腹というものですよ。」
3人は本気狩町に来る前に昼食を済ませていた。
「がはははは!!この町で昼食を食べるべきだったな!夜は夜でホテルのレストランの予約をしているしな。う~ん、ぬかった。」
「俺はてっきりこの町で食べると思っていたんだがな。おめぇがホテル近くの店に勝手に突っ込むとはな。」
「がはははは!!あの店はあの店で気になってしまったのだ!」
「ふふふ。まぁこのサンドウィッチは今度挑戦してみましょう。挟んであるお肉がなんなのか気になりますし。」
メニューには何肉か記載がなかった。
「値段的に豚か鳥だろーよ。」
「ふふふ。妖怪のお肉かもしれませんよ。」
「はんっ。本当にそうだったら1人でこれを5つぐらい食いきってやるよ。」
今川太郎が鼻でわらう。
「がはははは。是非観てみたいものだな。」
「ふふふ。」
雑談しながらしばらくたち、注文したものが運ばれてくる。
「お待たせしました~。"ビリっとドキドキなサンダーケーキセット"のお客様。」
「僕です。」
高橋充の前に黄色いケーキと珈琲が置かれる。
「"ドドンコチョコケーキセット"のお客様。」
「私です。」
跡野奉の前に真っ黒のケーキと珈琲が置かれる。
「"ホワイトムーヴケーキ"のお客様。」
「それも私です。」
今度は白くてまるっこいケーキが置かれた。
「"ミニ・鐘なる本気狩クリーミーパフェ"のお客様。」
「僕です。」
高橋充の前に、クリームのてっぺんに鐘形のお菓子がついたパフェが置かれた。
「"ココロも舞うトロピカルヨーグルトスムージー"のお客様。」
「…俺だ。」
今川太郎の前に色鮮やかなスムージーが置かれた。
「以上でお揃いでしょうか?」
「ああ。ありがとう。」
「ごゆっくりどうぞ~。」
店員が去っていった。
「…普通に去って行ったな。」
「ふふふ。普通の喫茶店ですから。」
「がはははは!メニューは独創的だがな。」
「メニュー見たときから、メイドカフェとかそういう系かと思ってたぜ。かかっている店内曲もポップな奴だしよ。」
「ふふふ。踊りたくなるような曲ですね。」
「実際さっき帰っていった客。リズム取りながら珈琲飲んでいたしよ。」
「がはは!!そういえば、鬼をつれた少女に意識持っていかれていたが、道中で踊っている住民もちらほらいたな。」
「くくくっ。やはりこの町は面白そうだ。」
「そうだな。探索が楽しみだ。…ああそうだ跡野。ケーキを。」
高橋充が自身の前に置かれた黄色いケーキを跡野奉に渡す。
「ふふっ。どうも。」
跡野奉は渡されたケーキを早速頂く。
「ふむふむ。なるほどなるほど。だから"ビリっとドキドキ"なのですね。」
「…どうなんだよ?そのケーキ。」
「美味しいですよ。」
「そうじゃねぇよ。何がどう"ビリっとドキドキ"なんだよ。気になるだろうがよ。」
「そんなに気になるなら一口食べますか?」
「いやいい。」
「これは私のお金じゃないですから、対価はとりませんよ。」
跡野奉が不敵に嗤う。
「そうじゃねぇよ。食ってまでは知りたくはねぇってことだよ。」
「がはははは!!我が儘な奴だな。」
「うるせぇ。」
「そちらのスムージーはどうなんですか?」
「ああん?まだ飲んでねぇよ。どうせ普通のスムージーだろ。なんだ"ココロ舞う"って。」
そう言った後、今川太郎はストローに口をつけた。
「うっ…くく、うめぇ。」
思わぬ美味しさに笑ってしまう今川太郎。
「ふふふ。ココロが舞いました?」
「くそっ不覚にも。」
今川太郎が少し悔しそうに顔をひきつらせる。
「がはははは!!こちらのパフェも美味しいぞ。なんだか魔法が使えるような気分になってくるぞ!」
「うるせぇ。店内ででけぇ声だすなよ。あとそれはきっと気のせいだ諦めろ。」
「ふふふ。こちらのケーキはなるほどなるほど。」
3人はなんだかんだ言いながら間食を進めた。
「んで、こっから先どうすんだよ。」
食事の途中で今川太郎が高橋充に声をかける。
「今日はこのまま観光だな。本格的な調査は明日からだ。」
「ふふふそうですね。町の施設等がどこにあるか把握しときたいです。」
跡野奉が窓の外をみて言う。
「別に俺は今から調査でもいいんだけどよ。町に何があるかなんて、調べながらでもわかるだろ。」
「まぁ待て今川。何事も準備が大事だと言うだろう。気持ちは分かるが一度ホテルに戻らねば調査道具もないのではないか?」
「…ちっそうだった。ほぼ手ぶらだった。」
「ふふふ。一度ホテルに取りに帰えるとしたら、夕方になってしまうでしょうね。今夜はレストランの予約もありますから、遅くまでいられませんよ。」
「飯はどうでもいい。ったく、なんでこの町には宿泊施設がないんだよ。」
「ふふふ。町外の人々にはほとんど認知されていない所ですよ。宿泊するような観光客等なんていないでしょう。」
「それに町だしな。宿泊施設のない町なんていくらでもあるではないか。がはははは!!」
「町か。そういや町だったなここ…。ここに来る前、ネットのマップで確認したんだがよ。この町かなり広いぜ。小さな市ぐらいはあるんじゃねぇってくらいによ。」
今川太郎はそう言ってタブレットを取り出し地図を開いて2人に見せる。
「ふふふ。本当ですね。」
「がはははは!探索しがいがあるな!明日からの調査が楽しみだ!もちろん今からの観光も楽しみだが。」
「ったく呑気なやつだぜ…。そうそう改めて言っておくが、俺はここに来る前に言っていたとおり、明日からの調査は独自に動かせて貰うぜ。」
「ああ構わん。情報共有だけはしっかり頼むぞ。」
「では私は町役場や図書館などを巡り、資料探しをしましょうか。社長はフィールドワークの方がお好きでしょうし。」
「がはは!!わかった。では僕は町民に聞き込みや町の探索をしよう。」
「問題は起こすなよ高橋。」
「がはははは!!心配するな。」
「ふふふ。貴方の方が心配ですよ学者さん。」
「ちっうるせぇ。おめぇも目立つから変なことするんじゃねぇぞ。」
「よし、決まりだな。それじゃあ、レストランの予約時間まで観光だ!」
3人は席をたち、会計を済まして、お店を後にした。




