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いつかの少年へ

作者: Atarime

 なんと書こうか。

少年はパソコンを前に考える。

なんとなく書きたい内容は決まっているけれど、経験がないから書き出し方が分からない。

こういうときに性格が出て、何か立派なことや、エモいことを書かないといけないのではと考えてしまう。

まあ、いっか。別に、誰かに見てもらうために書くものじゃない。

内容も、今の、今日あったことと気持ちを書こう。元からそう決めていたんだから。

いつか読み返したとき、呆れないでよ?きっとこの後、めちゃめちゃな文章になってると思うから。当時の気分に戻って読んでね。

じゃあ、そろそろ本文書こうかな。ただでさえ長い文章は苦手なんだ。

午前4時。少年はカップラーメンの時間を待ちながら、パソコンに綴る。


 午後11時。少年は課題に追われていた。科目は数学。内容は、「三角関数の微分」。やったことないのにテストに出そうとしている先生の気が知れない。明日までのものではないから、今やらなくてもいいけれど、やらなきゃいけないことを溜めるのは気分が悪い。そういう性格なんだ。少年は大学一年生。世間は新型コロナウイルスが流行していた。大学もオンライン授業で、家から出ることもほとんどない。

少年には彼女がいた。高校1年の時から付き合っている彼女だ。彼女は俗に言うバイセクシャルらしい。しかも、どちらかというと女子の方が恋愛対象だと本人は言っていた。

そんな彼女から「家ついたよ」と、短いLINEが来た。少年は合わせるように「おかえり」と短く返す。スマホをしまいかけて思い出したように付け加えて「終わったら教えて」とLINEする。

彼女とは夜に電話するルールになっている。ルールというと固く聞こえるかも知れないが、気づいたら自然とそうなっていた。流れみたいなものだ。彼女は前まで毎日電話すると言い、少し面倒臭く感じていたが、今は少年が彼女の声を聞きたかった。

その日、彼女は大学の男友達と2人でお昼を食べに行き、その後、もう一人の男友達の家に一人で遊びに行った。1人目の相手は、大学の男友達で初めて会うらしい。隠しているわけではないので浮気をすると思っているわけではないが、事実彼女は浮気をしたことがあり、一般的に見るとスキンシップが多い。ボディタッチも平気でする。昨日、彼女と2人で大学の男友達の家に遊びに行ったときは、彼女は途中で眠くなったらしく、気がつくと友人に後ろから抱きつく形で寝ていた。因みにその日彼女が遊びに行った2人目はこの男友達だ。

正直すごく不安だった。彼女にはその気がないと信じているが、相手がそうとは限らない。しかも、二人目ですらネットで知り合って2ヶ月たたないくらい。実際にあってからは、3週間もたっていないだろう。考えるだけで怖くて、早く彼女の明るい声が聞きたかった。

 午後12時。課題も飽きていた頃、彼女から「おわった」とLINEが来た。急いで準備をして電話をかけると、ほんの数秒で彼女が出た。

「お帰り。お疲れ様。」

「うん。」

「楽しかった?」

「楽しかったよ。」

「そっか。」

彼女の声は、元気とも疲れているとも違うような声だった。もしかしたら、何かしている最中なのかも知れない。いつもどおりと言えばそうなのかも知れないが。

「今何してるの?」

「別に何も。」

「そう。明日は何時なの?」

明日彼女は大学の男の先輩と会う約束をしている。例によって例のごとく、2人で。

「10時には起きるかな。」

「そっか。大変だね。」

「うん。」

話が途切れてしまった。モヤモヤした気持ちはあるが、伝え方も分からないし、伝えていいものなのかも分からない。

「何もないなら切るよ?」

驚いた。ショックだった。彼女の方から切ると言われたのにも驚いたが、それ以上に冷たく感じた。めちゃめちゃ心配していたのは彼女も知っていたはずだ。何か、彼女の言葉が聞きたかった。

話すことも、何もないわけじゃない。泣きたいくらい話したいことがある。でも何を言ったらいいのか分からない。

少年は辛さからか少し苛つき、5秒くらい開いてから短く言った。

「おやすみなさい。またね。」

少年はそのまま自室のベッドに倒れ込んだ。

大の字のまま、明るい天井を見上げる。

あーあ。分かんないや。

待ちに待った電話は、時間にして5分もなかった。


午前2時30分。少年はベッドの上で気を紛らわせようとYouTubeを見ていたが、どうしても気が晴れない。課題もする気になれなかった。寝ようにも、睡魔はやってきそうにない。

少年は気分を変えるため近所の公園にでも行ってみようと体を起こす。手早く着替えを済ませ、スマホと財布を持ったとき、この時間なら誰もいないだろうと思い、軟式テニスのラケットとボールも一緒に持つ。普段はラケットを振れないが、今なら誰かに迷惑をかけることもない。何よりこのままだと自分が辛い。玄関へ行くと兄がいた。

「外出てくるから、鍵開けといて。」

「ん」

深く聞かないでくれるところは本当にありがたい。

少年はそのまま外へ出て、公園へと向かった。

今年の夏は暑いが、さすがのこの時間は少し肌寒く感じた。


午前3時。家から徒歩10分の公園に着くと、少年はラケットとボールを取り出し、公園のフェンスに向かってサーブを打つ。思いっきり打つと気持ちいい。何も考えずに済む。この公園は真上が道路になっていて、四方を道路に囲まれている。壁はなく、道路との間には高めのフェンスがあるだけだ。広さはコンビニが1店舗入るかどうかの広さで、一人で使うには広く感じるが、ラケットを振っているとちょうど良い広さだ。

打ち始めて10分たった頃、暗かったせいもあり、打ったボールがフェンスを越えてしまった。眼で追うと、近くのアパートの中に入ってしまった。近くまで行って見てみたが、とても入れる高さじゃない。なんと入れても、帰ってこられなくなる。

諦めて帰るか…

少年は帰路についた。

帰り道、少年の気持ちは晴れないままだった。

恋や愛と独占欲は何が違うのだろうか。そんなことを考えてしまう。

彼女がしていることは実は当然で、普通で、もしかしたら自分が彼女に対して独占欲を抱いているだけではないのか。自分が彼女を締め付けているのではないか。

考えてみると、彼女のどこが好きなのか分からない。気遣いは下手だし、勉強や運動は苦手。部屋も汚い。男ともすぐ遊ぶ。彼氏が心配していることは知っているのに。

でも、彼女の笑顔は好きだ。甘えてくる声や、仕草が好きだ。それだけでどこか安心する。

人のいない道が長く感じる。

街灯はそこら中にあるが、心なしか寂しい光を放っているような気がしてしまう。

少年は思った。夜だ。夜の街だ。

そうだ、家に帰ったら作文でも書いてみよう。今日思ったことを書いてみよう。いつか将来、この気持ちを思い出せるように。

少年は家に入ると、カップラーメンの準備をする。書きながらでも食べよう。

荷物をおき、手を洗う。

あーあ。

少年は今日何度目か分からないため息を吐きながら、パソコンを開いた。


あーあ。気づくとまたため息を吐いている。

もう5時45分。もうすぐ6時だよ。

こんなに長く書くつもりはなかったんだけどな。

明日はどんなことがあるかな。でもきっと起きたらお昼だな。

とりあえず、課題はやらないとね。


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