第一章 ⑧俺が後悔するそもそもの始まり
魔法を発動するには、己のマナを魔力というエネルギーに変換し、
言霊・文字・図形などを介して己の意識下に収め、コントロールすることが必要だ。
ゆえに魔法を発動するのに必要な魔力が足りなければ、魔法は発動しない。
さらに言霊・文字・図形を完璧に表現できていても、本人のイメージ力が足りなければ正しく機能しない。
単純な暗記だけでは立ち行かないのが魔法の難しいところであり、また奥深く楽しいところである。
「なるほどね。人に教えてもらってもすぐに使えなかったのはそういうことなのね。
でも何度も練習すれば色んなジェネリックが使えるようになるということかしら?」
「そういうことだ。ジェネリックは生活用魔法から戦闘用魔法まで1000以上のものが知られている。
使えるものが多ければ多いほど、自分の生活が楽になるぞ」
例えば、明かりを手に灯す魔法や遠くを見ることができる魔法など、ちょっとしたものを覚えているだけでも遥かに生活を便利にしてくれる。
そういった意味ではかつての科学という技術が取って変わられたというのもうなずける。
「続いてスペシフィック(専用魔法)についてです。既に異世界から来られた方も何個か使うことができるとお聞きしていますが、復習も兼ねてもう一度おさらいしますね」
アリス先生が壇上でそう言うと、クラスのほとんどの視線が自分へと集まった。
「アリスせんせぇ!ここはロランにスペシフィックのお手本を見せてもらいましょうよ!」
「魔法の扱い方を異世界の転入生に教えているくらい余裕なんですから!」
クラスメイトの何人かがニタニタと下卑た笑みを浮かべながら言う。
こういったやりとりはこの学園生活で数えるのも面倒なくらいよくあることだった。
『ちっまたか。面倒くせぇな』
せっかくターゲット(桜)と打ち解けていたというのに。
ロランは内心で舌打ちをした。
「せ、先生はロラン君ではなく、別の方にお手本を」
「でもせんせぇ! ロランはいつもみんなの前で魔法の実演をしないじゃないですか!」
「それってなんか不公平ですよね」
何名かの生徒が姦しく訴え始め、アリス先生はそれを宥める。
なんのことか分からず状況についていけない異世界の転入生達はポカンとしていた。
「…………」
いっぽう隣に座っている桜はというと、先ほどまでの明るい表情とは打って変わり、
ひどく青ざめた顔をしてそれらの喧騒を眺めていた。
まるでなにかに怯えているかのようである。
『意味がよく分からないが、まあいい。少し外野を黙らせるか』
ロランは声を張り上げた。
「うるさいぞお前ら!
俺はスペシフィックは使えない!
ジェネリックも両手で数えられるくらいしか使えない!
実演役として成立しない以上、先生が正しいだろうが!」