第一章 ⑦俺が後悔するそもそもの始まり
「私達のクラスの転入生は以上で6名です。
短期入学ということで3ヶ月ほどにはなりますが、皆さんぜひ仲良くして下さいね。
それでは自己紹介も終わりましたし、皆さんの席をご案内致します」
アリスが指示を出してそれぞれの席に案内していく。
あえて異世界の戦士達が一固まりにしないようにしているのか、バラバラに座っていく。
「最後に小湊さんはロラン君の隣に座ってくださいね」
「分かりました」
『これはチャンスだ!アリス先生グッジョブ!』
まさか一番最初に探ろうとした相手が隣の席になるとは。
偶然とは恐ろしいものである。
リトルガールとも呼ぶべき小ささの女教師に内心で感謝しながら、ストンと隣の席に座った彼女の様子を横目で盗み見る。
最初の自己紹介の時と比べればやわらかくなったものの、表情が少し強ばっている。
緊張がまだ抜けていないのだろう。
であれば、こちらから気さくに話しかけて緊張感をほぐしてやる。それが近づく上では肝要だろう。
早くも他の異世界の戦士達は、興味を持った同クラスの生徒達に質問責めにされている。
モタモタしていると彼女と話す機会を失ってしまうだろう。
ロランはごほんっと咳払いをすると、隣の彼女に努めて明るく声をかけた。
「や、やあやあ! あなたは小湊さんって言うんですね!
今日はいつになくいい天気ですねぇ!」
「……えっと。今日曇りですけど」
警戒心たっぷりの声で返される。
おもむろに窓の外を見たら灰色の空が広がっていた。
「こ、小湊さん! 彼はロラン・アルディーラ君で学園長の親戚の方です。
少しヘンな所がありますが、筆記テストは学年で最優秀ですので、授業で分からないことがあったら彼に聞くと良いですよ!」
アリス先生が慌ててフォローに入る。
少しヘンとはどういうことだ。解せぬ。
「そ、そうなんですね。分かりました。授業で分からないことがあれば教えて下さいねロランさん」
大丈夫かなこの人?
そんな顔をしながら最初の邂逅を果たす。
ロラン・アルディーラ。学園では通称『ぼっち博士』とも揶揄されている。
彼自身は自覚がないが、魔法だけでなく対人関係の処理能力も残念だった。
※ ※ ※
「ねぇロランさん。これがよく分からないんだけど……」
「あぁそれはだな……」
最初の邂逅こそひどかったものの、桜の学習意欲が高かったことやちょうど最後部の列だったことが幸いして、2時間後には彼女と普通に会話することができるようになっていた。
『こんな仕事、俺にとっては朝飯前だ。3日で終わらせてやる』
本当は会話が続くように桜がうまく質問を織り交ぜているだけなのだが、そうとは気づかないロランは内心ほくそ笑む。
ちなみに現在の授業は、担任のアリスが教えている。
「いちおうここに来る前に少し教わったんだけど。ジェネリックと呼ばれるものが汎用魔法で誰でも使えるもの。
スペシフィックと呼ばれるものが専用魔法で職業適性がないと使えないもの。そういう認識で合ってる?」
「あぁ。その通りだ。ただジェネリックだからって何でも使えるわけじゃない。
正しく使うには練習やイメージ力による補強が必要だ。
それに、そもそも魔力が足りなければ発動すらしないしな」