第一章 ⑥俺が後悔するそもそもの始まり
『おいおい。書いてあることが本当なら化け物みたいな才能だぞ』
紙片と自己紹介を見比べっこして思わず唸る。
「小林鈴鹿と申します。年齢は17歳。職業適性は魔術師と僧侶。二つ名は魔導師。今日から実践的な魔法を皆様と学んでジンとの戦いに貢献したいと思います。よろしくお願いしますわ」
小林鈴鹿。年齢17歳。
職業適性:魔術師と僧侶(二つ名魔導師)
性格は礼儀正しくおっとりしたタイプ。
マナ能力値524
ステータス値593
(力40 魔力270 敏捷60 耐久力63 精神力160)
その他、特殊なスペシフィック(専用魔法)を備えている可能性が高い。
「波岸虎太郎。年齢17歳。職業適性は弓使いと音楽家。二つ名はミンストレル。ジンを狩れるよう精一杯頑張ります。よろしく」
波岸虎太郎。年齢17歳
職業適性:弓使いと音楽家(二つ名ミンストレル)
性格は無気力だが興味があることにはとことんのめり込むタイプ。
マナ能力値420
ステータス値570
(力150 魔力100 敏捷150 耐久力100 精神力70)
その他、特殊なスペシフィック(専用魔法)を備えている可能性が高い。
隼人の自己紹介で緊張感が多少抜けたのか、
他の者達も次から次へと自己紹介を行っていく。
二つ名持ちは最初の三人だけだったが、その後の二人も半端ないステータス値が紙に書かれていた。
『ちっ。本当に能天気だなこいつら』
サーシャがどうやって数値まで調べたのかはさておき、ロランは何も分かっていない様子の彼らに段々と苛立ちを覚え始める。
魔法の才能がないロランにとって、欲しくても手に入れられないものを、労せずして簡単に手に入れてしまっているからだ。
おまけに彼らの様子からは、長期旅行やちょっとした遊びに来ているかのような雰囲気を感じ取ることができる。それがなんとなく嫌だった。
しかし、最後の異世界の戦士を見たとき、そんな苛立ちを覚えていたことなどあっさり忘れてしまった。
「小湊桜です。年齢は17歳。職業適性は剣士。まだ分からないことだらけなので、この世界のこと色々教えてもらえると嬉しいです。よろしくお願いします」
見た目の印象は地味な女性。
月夜を連想させる黒い艶やかな髪を三つ編みに縛り、小さな顔に不釣合いな黒い額縁メガネをかけている。
引き締まったスレンダー体型で、ぱっと見はかなり整っていそうな容姿だが、不釣り合いなメガネや髪型がそれらを台無しにしている。
だが、ロランがなにより気になったのは彼女の憂いを帯びたような目。
己の目的を果たすために決意はしたが、何かに戸惑い怖さも感じている。
そんなような目だ。
『……もしかしてこいつ、“どういう役目を自分達が与えられているのか”気づいているのか? それに……』
ロランは彼女の情報が書かれている紙に目を通す。
小湊桜。年齢17歳。職業適性は不明(剣士は自己申告)
性格は大人しくも他者への警戒心が強い。
マナ能力値不明(自己申告のため)
ステータス不明(自己申告しているが、他のメンバー並かそれ以上のステータスを保有している可能性がある)
勇者候補の一人。武術の心得があり、純粋な戦闘能力は異世界人の中でもトップクラスだと思われる。
自己申告が多く具体的な数値が分からないということはすなわち、これまで他者にはステータスプレートを見せていない可能性が高い。不明な点が多いというところがやたら気にかかる。
『さすがにあやし過ぎてシロの可能性が高いが、最初の取っかかりとしてはいいかもしれないな』
ロランはこの謎めいた異世界の少女を、最初のターゲットに見据えることにした。