第一章 ⑤俺が後悔するそもそもの始まり
「ああ。報酬については弾むから期待しておけ。
早速、今日の朝イチの授業からお前のクラスには6名が転入してくる。
手段は任せるから、まずはその6名を調べ上げてくれ。
6名のプロフィールについては簡単にまとめているから、必ずその紙は後で見ておけよ」
ぽんっと何枚かにまとめられた紙を渡される。
「了解。助かるぜ」
「それと分かっているとは思うが念のため。おまえ自身がボロを出さないようにしろよ。
こちらで対策はしているが、なにぶん異世界の戦士達は自分の力の扱い方やこちらの世界の事情をロクに知らない。逆に言えば私達も彼らのことを知らない。
人間、思わぬところで蹴躓くことがあるんだから用心しろよ」
「分かっているって。用心しろと言われるのは学校に入学してからこれで101回目だ。いい加減ウンザリだ。話はこれで終わりなら早速行ってくる」
ロランは淡白に伝えると踵を返して理事長室から出て行く。
独りになった広い部屋の中、サーシャはポツリと呟いた。
「今回の頼みごとはどうしても他人と関わらざるを得ない。
そこら辺本当に分かっているのかねぇあいつは。
頼んでおきながら少し不安になってきたよ」
学園内で彼がなんと呼ばれているか知っている彼女は、
自信満々で出て行った彼の後ろ姿を思い出して頭を抱えた。
※ ※ ※
「はい!それでは今日から皆さんと一緒に、短い間ですが魔法を学ぶことになりました6名の方々を紹介させて頂きます!それでは壇上に上がってください」
リスのようにどこもかしこも小さな女教師アリスの一言で、大きな黒板の前に6名の少年少女達が横一列に並ぶ。
『これが噂の異世界から来た戦士たちか』
当たり前だが彼らを見たのはこれが初めてだった。
クラスの最後列に席を陣取ったロランは、緊張感を顕にしている年若い戦士達をまじまじと眺める。
『たしかに立ち居振る舞いだけ見ても戦闘経験が乏しいことは簡単に分かる。何も知らされずに出会っていたらジンと戦える見込みがあることを疑ってしまうな。ただサーシャからもらった紙を見ると……』
サーシャから渡された紙と見比べる。その内容が事実であるとするならば誰も彼もがすさまじい才能を秘めていそうだった。
「白崎学園2年3組武井隼人です!年齢は17歳の獅子座!好きな食べ物はハンバーガー!職業適性は武闘家と魔物使い!ビーストマスターって名前もついているな!ジョブプレートに書いてあったマナ能力値とステータス値はそれぞれ」
「わあ! ストップです武井さん! 職業適性はともかくマナ能力値とステータス値は簡単に人に明かしてはダメです!」
「えっそうなの?」
「1日目に教わっただろう。まったく相変わらず隼人はバカだなぁ」
クスクスと笑い合う異世界の戦士達。
それに対して隼人の何気ない一言に「おいさっそく二つ名持ちだぜコイツ……」「さすが神の使徒ですわ……」などと、クラス中が動揺を隠せない。
『なんでこいつらほぼ全員二つ名持っていやがるんだ! アホか! ステータス値も異様に高いしよ!』
サーシャに渡された紙には端的だがこう書いてある。
武井隼人。年齢17歳。
職業適性:武闘家と魔物使い(二つ名ビーストマスター)
どちらかというと武闘家についての親和性が強い。
性格は直情的なムードメーカー的存在。
マナ能力値281
ステータス値580
(力200 魔力80 敏捷120 耐久力100 精神力80)
その他、特殊なスペシフィック(専用魔法)を保有している可能性が高い。
マナ能力値は単純なマナの総量。ステータス値はそれぞれの最大能力を数値化したものである。
もちろんこの数値が高い=強いとは限らないのだが、高ければ高いほど強くなれる才能も秘めているということである。
もちろん訓練や努力次第で上記のステータスは上がる可能性がある。
そのためステータスの値はある程度その人の実力を示した指標になるため、他人に簡単に教えてはならないというのが暗黙の了解である。
ちなみに総合ステータス値・マナ能力値共に100を超えれば、一人前の騎士として戦線に立つことが認められる。
仮に隼人と同じくらいのステータスを得ようとするならば、普通は気の遠くなるような修行を何年も経て初めて得ることができるものだ。