第一章 ④俺が後悔するそもそもの始まり
ジョブプレートとは、職業の精霊デュナミスから与えられるこの世界で個々人の身分を証明するものである。
魔法を扱うためには、己の身に宿すマナを魔力と呼ばれるエネルギーへと変換することが必要である。
ただし、魔力に変換したからとはいえ、どんな魔法をも扱えるわけではない。
個々人のマナにはそれぞれが持つ職業適性があり、より専門的な魔法を扱うためにはその職業適性に合ったものでなければ行使することができない。
すなわちジョブプレートとは、その者のマナにまつわる職業適性を記したものだ。
そのため本人の承諾なしにジョブプレートを確認することはタブーとされている。
ちなみに職業適性は全部で13種類存在し、一人1種類の職業適性を持つのだが、
極々稀に2種類の職業適性を持つ、『二つ名持ち』という者が存在する。
当然『二つ名持ち』は存在自体が極めてレアである分、扱える力は強大極まりない。良くも悪くも歴史の節々で名を残すことがあるほどだ。
ちなみにサーシャも『魔術師』と『交渉士』の適性を持った『二つ名持ち』だ。自分の知る限りでは魔法の造詣において彼女の右に出るものはいない。
そんな彼女すらも凌駕する職業適性3つ持ち。
ロランが驚くのも無理はなかった。
神託の通り、もし異世界の戦士達の中にそんな者がいれば、その者は間違いなくヒューマンの危機を救うに足る存在になるだろう。文字通り『勇者』として。
しかし彼らが召喚されておよそ3か月。
神託を受けた勇者が未だ見つかっていないというのは明らかにおかしい。
「まだ勇者として目覚めていないのか? それともーーーー」
「誰かが意図的に存在を隠しているか……だ」
後者の場合、そんなことをして誰にどんなメリットがあるのかはさておき、もしそれが本当であるとするならば、なにかしらの陰謀がこの王都で渦巻いているのかもしれない。
そうなるとやっかいな事情を持つロランにとって面倒なことになるのは間違いない。
「もちろん私は勇者を見つけ出してソイツをどうこうしたいとは思っていない。
召喚に関しても私の知らない魔法や技術があるのかもしれない。
ただ、これらが全て意図的であるとするならば、自分達に降りかかろうとしている火の粉を未然に払おうとするのは当然の行動だろう。
そのためにまずは勇者について調べる必要がある。
場合によっては裏で糸を引いているヤツを釣ることができるかもしれないしな」
「お前の狙いは分かった。
正直俺は異世界の戦士だとか勇者なんかに興味はないし近づきたいとも思わないが、それ以上に生活費がかかっているからな。
その代わり報酬は弾めよ?」