第一章 ②俺が後悔するそもそもの始まり
アイディオンーーーー。
かつて科学という技術がこの世界を支配していたが、およそ400年前に世界改変という世界規模の事変が起こったことで魔法という新しい技術が生まれた。
詳細は不明だが旧体制を維持する科学派と新体制を進める魔法派で大きな争いがあったと言われている。
結果、科学という技術は大きく廃れてしまい、取って代わって魔法が現在のアイディオンの主流となっている。
そのため魔法を存分に扱える者こそが上流階級。すなわち王族や貴族として社会で確固たる地位を得ることができ、逆に魔法をロクに扱えない者は肩身が狭い生活を送らざるを得ない。
場合によっては言葉に出すことも憚られる扱いを受けることもあるぐらいだ。
そんなロランの魔法の才能はというと、お世辞にも良いとは言えない。
というか、間違いなくヒューマン(人類)最低レベルだ。
そんなロランが、最高峰の一つとも呼ばれている王都アルゼラーンの魔法学校に通うことができているのは、自分の後見人である目の前の女性『サーシャ・アルディーラ』が融通を利かせている影響が大きい。
ちなみに外見は20代後半の見目麗しい美女だが、魔法で老化を抑制しているため年齢はゆうに100を超えているお婆ちゃんだ。
「まあそうぶすくれるな。
この私がいるからこそお前のジョブプレートや普段の生活費を用意できているし、“お前の訳あり事情”を考慮し後ろ盾として目を光らせている。
普段から出来の悪い息子の面倒を見てやっているんだから、たまには母親に親孝行してもいいだろう?」
「たまにはじゃなくてしょっちゅうだろ。
ちょくちょく面倒な頼みごとをしてこなければ俺も邪険にしたりはしない」
ロランの身の回りのバックアップをしてくれているのは非常にありがたいのだが、その代償としての仕事は便利屋である。
対価に見合わないことをさせられることが多いため、最初の言葉通り面倒くさいという気持ちは嘘偽りはなかった。
サーシャはため息を一つ吐くと、
「3か月前、王都アルゼラーンに異世界の戦士達がカリオストロ神より召喚されたという話は知っているだろう?」
知っているも何も、王都アルゼラーンどころか大陸中を一瞬で駆け巡った大事件だ。
「あぁ知っているよ。街中がしばらくその話で持ちきりだったからな。
たしか召喚された戦士は全部で35人。その誰もが異常な能力を持っていて、さらにその内の一人がカリオストロ神より神託を受けたとされている。
勇者となって未曾有の危機にあるヒューマン(人類)を救うってな」
そう。アイディオンは魔法という画期的な技術を生み出したが、同時に産み落とされた負の遺産によって現在は危機に晒されている。
400年前のかつての改変はヒューマン(人類)に魔法という技術を与えただけでなく、他の生物体系にも変化を生じさせた。
具体的にはヒューマン(人類)から枝分かれをして、デミヒューマン(亜人類)・セリアンスロウプ(獣人)・ジン(魔人)・その他(動物・魔物等)に大きく分けられた。
だが400年の歴史の中で、いつの間にかアイディオンの人々はヒューマン(人類)を特別視し、魔物ならいざ知らずそのほかの種族ですらも人ではないと蔑視するようになった。
これをヒューマン至上主義と言う。
その結果、大陸は様々な勢力に別たれてしまい、それぞれが睨みをきかせて統治するようになってしまった。
しかし近年、ヒューマンの勢力域にジンや魔物が度々侵攻するようになっており、勢力域が塗りつぶされていっている芳しくない状況だ。