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16話 異世界流ダイエット術教えます(2)

「ユニオも学校に行く!」


 ある朝、唐突にユニオがそんなこと言い出した。


「だから連れていけないって言ったでしょー?」


 両腕を使って片足にしがみつかれたミハルはデレデレと頬を緩ませながらも、やんわりと断ろうとした。


「良い子にできる!」

「そういう問題じゃなくて……」

「10までなら数えられるから平気!」

「どう平気なのさ……」


 押し問答をしているところに、ファム・アル・フートがエプロンで手を拭きながら歩いてきた。


「ユニオ。貴方、もう家事のお手伝いに飽きたんですか?」

「ちがう!」

「中途半端は一番いけないことだと教えたでしょう。掃除をさせても片づけをさせても、途中で新しい遊びを発明して夢中になってしまうではないですか」


 腰に手を当てて呆れた声を上げる女騎士に対して、幼児はムキになって打ち消そうとした。


「赤ちゃんのためなの!」

「はぁ?」

「ユニオはお姉さんになるから、今のうちに色んなこと勉強して物知りになっておく」

「その心がけは感心ですが、ミハルの勉学の邪魔をするのは認められません」

「俺の意志を無視して子供を作るのを前提にしないでくれる?」


 腕組みをして譲らないファム・アル・フートに、ユニオは頬をふくらませた。


「ミハルと一緒に学校に行く!」

「あはは……。別に学校で楽しいことなんかないよ?」

「それでお昼ごはん一緒に食べる!」

「ああ、そっちが目当てか……」


 気が抜けて語尾が弱くなったミハルに何か感じ取ったのか、ファム・アル・フートがいぶかしそうに眉を潜めた。


「じゃあユニオちゃん、じいちゃんとお店行くか」


 ひょっこりと茶の間の入り口から廊下の方へ、祖父が半身を傾けるようにして顔を出した。


「お店?」

「そうそう。じいちゃんの喫茶店。ユニオちゃんお手伝いしてくるか」


 笑いかけた祖父の言葉に、ユニオは目を見開いた。


「おじいちゃん。良いの?」

「大丈夫だろ。うちのお客なら常連ばっかだし」

「そうする!」


 一気にテンションを上げてぴょんぴょんと跳ね飛び始めたユニオを見て、ファム・アル・フートはおずおずと声をかけた。


「あなたが客商売で、お客様相手に何ができるって言うんです?」

「何でもできるよ?」

「知らない人が近づいただけで泣き出すくせに、どうしてそう自信満々なんですか……?」


 女騎士の危惧をよそに、ユニオは弾む足取りで祖父のところへ向かっていく。


「いつから行く!?」

「そうだな……今日はお昼からお店開けようか」

「ユニオ、カウンターでお酒入れたグラス滑らせるやつやりたい」

「あー……。ユニオちゃんには別の仕事をお願いしようかな」


(不安だ……)


 ミハルは後ろ髪を引かれるような思いを感じたものの、登校時間が迫っていたので慌てて部屋に鞄を取りに行った。

 


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 その日の夜。

茶の間にノートと参考書を持ち込んで、ミハルがはかどらない復習をしていると。


「……ただいまー!」


 ユニオの明るい声が玄関から聞こえてきた。

そわそわと待っていたミハルはその声に安堵を覚えた。

ユニオが知らない大人に囲まれて耐えきれず、泣いて帰ってくるのではないかと気を揉んでいたのだ。


「おかえりー、ユニオちゃん」


 茶の間から出て声をかけると、靴を脱ぐのももどかしそうにしてユニオが廊下へあがって来た。


「ミハル、ユニオちゃんとできた!」

「本当?」

「本当だよ! 泣かなかった!」

「いや、最初泣いたよ?」


 玄関のかまちに腰かけた祖父が口を挟んでも、ユニオは気にも留めなかった。


「でもその様子だとうまく行ったの?」

「すごい楽しかった! あとおいしかった! 明日も行く!」

「良かったねぇ。明日は俺もシフトだから一緒にお店に出よっか」

「ミハルと一緒にお仕事する!」


 顔を輝かせて喜ぶユニオを見ると、釣り込まれてミハルも笑顔になってしまう。


「ファムさまにも話してくる!」

「うん、行っておいで」


 言うが早いか台所へ向けて駆けて行った幼児の後ろ姿を、少年は上機嫌にニコニコしながら見送った。

……が、ふいに聞こえたある一言がどうも頭に引っかかった。


「……美味しかった?」

 



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 夕食が始まった。


「……だから、いい加減にしろよ!」

「あなたこそ聞き分けてください!」


 少年が口調を鋭くすると、女騎士も声を荒げて応じた。

食事中とは思えない剣呑な会話が始まって、祖父はちらりと顔を上げたが黙っていた。

ユニオはぽかんと両者の顔を見比べていた。


「俺はたまにはご飯が食べたいんだ! 炊いてくれって言ってるだろ!?」


 もう大分長い間役目を与えられていない自分の茶碗を手に抱えて、ミハルは耐えきれず叫んだ。


「嫌です! ご飯なら美味しくて栄養もある粥がもうあるでしょう!?」


 ファム・アル・フートは手に持った芋粥の入った鍋を突き出した。


「違う! コメが食いたいんだよ! どうしてブタの生姜焼きと温かいお米を一緒に食べられねえんだ!?」

「ジンジャーポークチョップです! あんな草の実の粒を食べて力が湧くわけがありません! ……あと何をいきなりそんなに怒ってるんです!?」

「……ユニオちゃん先に食べよっか」

「うん」


 遺伝子に刻み込まれた衝動に突き動かされるまま米びつに手をかけようとする少年と、そうはさせじとする女騎士を無視して、祖父とユニオは温野菜と豚肉をかじりはじめた。


 が、咀嚼と嚥下の音はすぐに止んだ。


「……ごちそうさま。もう食べらんない」

「え」


 豚肉をほとんど残したままフォークを置いたユニオを見て、計量カップを手にもみ合っていた少年と女騎士は同時に争いを停止した。


「ごちそうさまって、ユニオ。あなた全然食べていないではないですか。いつもはお皿に残った脂まで舐めようとするのに」

「ど、どうしたのユニオちゃん? お腹痛いの?」

「ううん」


 心配する目つきをした二人に対して、ユニオは平然と首を振った。 

 

「たくさん食べた。もう入らない」

「「えぇ……?」」


 いつも食欲旺盛な幼児の食べっぷりを見ているミハルとファム・アル・フートは、いさかいも忘れて顔を見合わせた。


「どこで食べたと言うんです?」

「お店で」

「お店? まさかユニオちゃん、勝手に売りもの食べちゃったんじゃ……!?」

「違う!」


 青ざめたミハルに対して、ユニオは顔を真っ赤にして否定した。


「ユニオはそんな悪いことしない!」

「じゃあどうしたんです?」

「お菓子も料理もちゃんともらった。おいしかった」

「もらう……?」


 幼児が言っている言葉の意味が分からず、ミハルは自力で解決するのを諦めて祖父の方へ視線を送った。

祖父は何か知っている風にちらりと目を合わせたが、すぐに食事の方へ集中し始めた。


 後ろめたい時の祖父の癖だ。ミハルは詰め寄った。


「おじいちゃん。何か知ってるでしょ」

「……いや、悪いことはしてないぞ? うん」

「何か引っかかる言い方だな……」

「まあ、明日お店に出れば分かるよ。多分……」


 祖父はそれ以上話そうとせず淡々と箸を動かし始めたので、ミハルは首を捻ったもののそれ以上方策が見つからず引き下がるしかなかった。


次回は25日夜に追加します。

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