二十九怪 道の駅の怪 0.5
──前方には影が見えていて、横にはさっきまで存在していなかったはずのうっすらと黒い靄が見える。
何処かで聞いた話では『黒い靄』は悪霊という事を聞いていた。
まさか、本当に悪霊なのだろうか、安易に近づかないように遠くから
様子を伺う──何かされては元も子もない──事にする
黒い靄もずっと留まっており、その場から一歩も動かない。
じっとその黒い靄を凝視していると私の存在に気付いたのか動き出す
いきなり動いたから驚いてしまい、そして私はビクッとなってしまった。
「あっ......」
あまりにも恐怖で不意に言葉を漏らしてしまう
黒い靄は此方をずっと見ているように見える、素顔自体は靄な為どういう顔なのか服装をしているのかハッキリと分からない。
ただ断言はできる『悪霊』......決して人間なんて有り得ない。
今まで怪奇などといった生者じゃない者と数人以上遭遇して来たから分かる。
けど、あの黒い靄から逃げるにはどうすれば...... 同じ道を永遠と繰り返されてしまうと追い付かれてしまうのじゃないのかな。
──その瞬間、黒い靄は実体が無いまま、禍々しい霊気らしき黒い煙の物を漂わせながらうねうねと私の方へ向かってきた。
「ひっ......!? 早く逃げなきゃ、ここで死んでしまう......!」
小さな弱々しく押さえたような悲鳴を上げる。
私は『道』のこと等考えるのを諦めて、ただ走って黒い靄から出来る限り遠ざけたい。と考えしか頭痛を患ってる頭には無かった。
地面を蹴り飛ばし、僅かな可能性を頼りにしながら道の駅まで走り出す。
さっきまでと同じ道を走り、同じ景色を見る。そして、同じ頭痛を繰り返し『同じ』ことが再び起きてさっきの外灯に戻されてしまった。
黒い靄がいないかどうかを、周りを見渡すとあの黒い靄は居なくなっていた。
「良かった、何とか逃げ切ったのかな...... 頭痛があることなんて忘れるほど不気味で怖かった」
私は息切れを起こした身体を休ませるように、地面に横たわった。
地面の感触は、もちろん固いし冷たい感覚が身体で感じる。これで、ひとまず安心できて良かったと思う。
──何分経過したのか、長い間横たわっていた気がする。
当たり前だけど、不安定だった。息切れと心拍数が大分治まって元通りに安定していた。だけど、疲れは一切取れていなかった。
私は横たわっている身体を起こして立ち上がり、服に付着していた石や汚れを払って、ふと目を外灯に向けた。
「あの影......が消えている?」
さっきまで存在していた影も外灯から居なくなっていた。
あの靄と一緒に何処かへ消えたのだろうか?
不意にある事を頭の中で考えてしまった、それは『幻覚』だったんだ。と、恐らく私は恐怖のあまり幻覚を見てしまったんだ。と勝手に解釈をする。
よく目を凝らして景色を見てみると、来た事のない場所だった。
古く長い間廃れていたかのような病院や、その横には薬局、更にその横にも使われなくなった公園が存在していた。
「病院に、薬局、公園......どれも廃墟と化している。なんだか不気味」
これらの建物には大きなシミなどの汚れや、ところどころに亀裂などといった破損している部分が遠く──中距離くらいの──からでも見えるほど目立っていた。
初めてこの場所へ来た人が、この不気味さが漂っていて如何にも出そうな雰囲気を醸し出してる建物を見たら怖がるはずかもしれないよね。
「この中に人がいるかな...? もしかしたら篠崎さんがいるかもしれない。先ずは公園から行こうかな」
私は敢えて、建物の中じゃない公園を選んだ。
何故なら建物の中だと、瓦礫があり障害物があっていざ霊や怪異、若しくは怪奇に襲われたら逃げ場が無くなり一発でアウトになるから。
今度こそ襲われたら、一体どうなるのかが分からない。爪で肉をゆっくりと抉るような感じで血管ごと削り取られる事を考えたら、寒気がしてしまう。
それに篠崎さんがいると思う根拠は1つも無かった。
ただのその場凌ぎで言ってしまった......はず
そして私は、足を動かして公園へと一歩ずつ歩み出す。
だんだん近付くと公園の中には、倒れてボロボロに折れ曲がっている錆の付いた鉄棒、ところどころに鋏で空けられたかのような無数の穴がある滑り台が目視できる程まで来ていた。
「長い間使われなくなったから、ボロボロになっているんだね......」
私はいつもの独り言を呟きながら、もう一歩歩み出す。
さっきまで気付かなかったけど、夜の色と合わさってる黒曜石らしき物で出来た中位──人が両手を広げた時の大きさ──の大きさで文字が刻まれた石がそこにはあった。石には『並木児童公園』と文字が刻まれていた。
「並木児童公園......? 聞いたことのない公園だ。あ、それは当たり前だよね......」
当たり前の事を呟いてしまう、そうでもしないと纏わりついた恐怖が緩やかにならないまま極度の不安状態に陥る可能性があるかもしれないから。
それに空気の変化にも注意をしなければいけない。
「取り敢えず、公園にお邪魔させていただきまーす......」
私は聞こえるか、聞こえないか位の小声で呟きながら公園の入口へと入る。公園の中に入ると、公園の外とは違う寂しいような風の音がひゅうひゅうと唸る
公園にある銀杏樹が同時に、まるで『踊っている』かのようにユラユラと揺らいでいた。
何故か制服を着ているはずなのに、なんだか肌寒く感じている。
それは、もう冬の季節にいよいよ入ろうとしている証拠なのかもしれない。私は今頃寒くてイチゴのように頬が赤くなっているのかな? 手鏡なんて物を持っていないから見る事も出来ない。それによく考えたら見ても意味ないじゃん。
私は公園の周りを見渡してみると、公衆トイレの方に目が行ってしまう。この公衆トイレは、他のよくあるトイレとは違い6cmほどの亀裂がたくさんあり、謎にレモンの色のような黄色いシミが付着しているのも見えていた。そして、近づいて詳しく調べようとし止めていた足を動かす。
「うっ...... 異臭が酷い......」
徐々に近づいて行くと、臭いが尿と排泄物が合わさっており、腐った魚、カビの生えた卵、3ヶ月放ったらかしにしたお茶のような激臭が鼻につく。息を止めても耐えられるような臭いじゃないか。と思った私はその場から逃げるように公衆トイレから離れて行った。
「ぷはぁっ......!! やっぱりこの空気がいいよ。あの公衆トイレえげつない臭いを発してたから死にそうになったし......」
私は息を止めたことにより、無くなった酸素を取り入れるように空を仰いで息を吸ったり、吐いたりを繰り返して深呼吸を始める。
少ししたら、臭いも落ち着いたから再び探索を始めようとする。もう二度とあんな公衆トイレを調べないと心の中で硬く誓った。
「公衆トイレは行かないとして、次はどの場所へ調べたらいいのかな?」
少しの間、5秒間あたりまで考えていると調べる場所を決めた。気になっていたのは公園のベンチだ。先ずはそこから調べようと思い、ベンチへと向かう。
着いたのは良いものの、このベンチに『何か』ヌメヌメとした生物がそこにはいた。これはナメクジだ。ウジャウジャと湧いて出て来ており鳥肌が立つほどグロテスクな光景だ、それにヌチヌチという不快な音もしている。
ベンチは木で出来ていて、虫食いのような跡がありボロボロになって腐敗をしていた。恐らく虫食いの原因はナメクジなのかな。
私は中腰になりながらベンチをじっくりと見るけど、特に何も無かった。
「何だ...... なにもないじゃん。それにしてもナメクジなんて気持ち悪いなぁ」
私は恐らくいやな表情をしているのかもしれない、ナメクジは確かに気持ち悪い。けど、可愛い部分もあるのはある。でも殆どは、ヌメヌメとしている姿をしているから気持ち悪いように感じるはず。
「ごめんね、ナメクジさん。人間からしたら気持ち悪いんだ」
私は手を合わせて、ナメクジに謝罪の意を示す。
ナメクジからしたら人間を見て『何をしてるんだ』と見えるかもしれないけど、一応人間では当たり前なことである。
一応、謝罪を終わったところで次に行こうとすると、後ろから誰かに見られているような視線を感じていた。『まさか、怪異!?』と思い即座に後ろを振り返るけど、公園の外から見える古い建物しかなく誰も居なかった
「気のせいなのかな、疲れすぎて何か感じるようになったのかな」
──私はベンチがある方に前へ見ると、さっきまで追いかけて来た禍々しい霊気を放つ黒い靄が目の前に立っていた。
「──っ!? な、なんで...... さっきまでいなかったよね......?」
私は足を動かし、後退ろうとすると、またあの忌々しく不快な阿鼻叫喚のような声が耳に入って来る
『ああ......寂しい、誰かオレと一緒に行こう......苦しい』
「い、いやっ......! 嫌です! 貴方と一緒に行きませんよ!」
どうやら黒い靄の正体は男性だ。一人称が『オレ』だから簡単に分かる。
私を地獄という名の深い苦しみに連れて行こうとしているのかな......
そして、黒い靄はだんだん私の方へと近づき、私は逃げようとすると、縄にキツく縛られたかのように動けなかった。これは所謂金縛りだ。
いや、待って。冷静になってる場合じゃない!! どうにかしてこの金縛りから解放されないと、次こそ本当に殺されるかもしれないのに......
「あ......っ、こ......な......で」
私は金縛りの中、声を振り絞って抵抗をするが掠れた声しか出なかった。
何度も、何度も、抵抗しているけど動けない。まさか、このまま私はこの黒い靄によって、呪い殺されるように死ぬか、取り憑かれて死ぬのかな。『目』だけは動かせるけど、左右にギリギリまでやっても視野が狭くて無理だった。ギリギリまでした所為か、頭痛に続いて今度は目が痛くなってきた。
「や......たすけ......て」
目も痛くなると瞼を閉じる他はないけど、ここで瞼を閉じてしまえば黒い靄に殺されてしまう。何とか助かる方法を考えないと......
──瞬時に脳内を回転させ助かる術が無いか考えるが、それも儚く、いつの間にか目の前に来てた黒い靄が私にまとわりつく。
「──っ!? ......あぁあっ」
どうやら取り憑かれてしまったようだった、身体を操られて自分の意志とは反対に勝手に動き始める。いやだ、止まって。止まってください。まだ、死にたくないです......
「いや......だ。まだ死にたくない......篠崎さん、助けてっ...!!」
私は最後の力を振り絞り篠崎さんに助けを呼ぶように喚き叫ぶ──




