二十三怪 不可思議現象
遅れてしまってすみません
──あれから10分は経ったのだろうか
いよいよ周りの建物の明かりが次第に消えていく
篠崎さんが帰ってくる気配が一向にしなかった。
「篠崎さん遅いですね」
「確かに遅いっすね、まだ話しているんっすかね......」
大谷さんは不満げな顔を表しながら大きく溜め息をつく
私は流石に遅いと思い仕方なく硬い後部座席の椅子で寝ようとすると
大谷さんが私の方へと振り向く。
「まだ寝ちゃ駄目っすよ、もう直ぐ来るかも知れないっすから」
「すいません......少し眠たくなってきまして」
「何時間も警察署に居たっすからね、しょうがないかもしれないすね」
そうあれだけの事があれば自然に疲れが溜まり精神的に辛い
警官の怖がり、刑事の色気の話などされては私が保たなくなってしまう
大谷さんと室町さん、そして篠崎さんは一般常識人だと思うくらいだ。
「お、どうやら篠崎さんが来たみたいっすよ?」
「本当にですか? あっ......そうですね」
眠気で重くなった瞼を少し開きフロントガラスを見ると
警察署から篠崎さんが歩いて此方へ来る事が見えた。
どうやら話が終わって、やっと戻ってきた感じだろうか
疎らな街にコツコツと靴の鳴り響かせながら扉を開けて運転席に座る。
「すまない、少し遅れてしまった」
「遅いっすよ~......新島さんが寝そうになってましたっすよ?」
「あ、大丈夫です......少し眠くなりまして」
篠崎さんは呆れ顔を見せながら笑う。
眠くなるのはしょうがない、しかし零明山とは一体どういう場所なのだろうか
今は篠崎さんがエンジンを掛けて出発しようとしているが
無闇に探索すると何か災いが起きるのじゃないかと思ってしまう。
「よし、今から出発するぞ。」
「分かりましたっす、早く零明山へいくっす!」
「お願いします、でも気をつけて運転してくださいね」
「大丈夫だ、事故を起こすほど馬鹿な俺ではない。」
違う、私が心配しているのは零明山に災いが起きないかどうかだ
──そして窓の景色がコマ送りのように動く、どうやら運転を開始したようだ。
車の中から覗く道路は綺麗のようで汚いような感じだった
「し、篠崎さん......そう言えば零明山への道のりわかるんですか?」
「あぁ、さっき教えてもらったからな......」
「なるほど......」
何故か運転中だと会話が少なくなってしまう。
事故を起こさないようにしているのだろうか......
それにバックミラーを見ると大谷さんは目を瞑っている
刑事さんも仕事をしている訳だから疲れると思うよね......
「あの篠崎さ──」
私が名前を呼ぼうとすると、突然何かがドンっとぶつかる音が聞こえた。
それと同時に大谷さんが身を震わせながら起き上がる。
「篠崎さん、今の音は何すかっ!?」
「俺が知るわけない、鳥でも当たったんじゃないのか......」
次は窓をノックするような音が聞こえ始める
ノックの正体は私でも大谷さん、篠崎さんでもない。
明らかに部外者か何かがノックをしているのだろうか
それでも走行中のパトカーの窓をノックするのは不可能だろう
「おかしいっすよ!? 誰もやってないのに何でノック音がするんすか?!」
「くっ......一旦、あそこの道の駅で確認するぞ」
パトカーの中は混乱が起き始めている。
誰がしたのか分からない謎のノック、そして何かがぶつかる音。
ふと、私はバックミラーを確認すると私の顔は俯いていた
今までとは違い密室の中での不可思議な現象の原因で恐怖を覚えたのだろう。
──あれ、俯いている? それなのにバックミラーを見れるのはどうして?
「きゃあっ!?」
「どうした、新島君!!」
「ミラーの私が......おかしい」
再びバックミラーを見ると俯いてたはずの私の顔が狂ったように笑い始めている。
それは”私”ではなく”私のフリをした何か”だった。
「うおおっ!? 篠崎さんこのパトカー曰く付きっすよね??!」
「違うに決まってんだろ! 何かがこのパトカーに入り込んで心霊現象を起こしていやがるんだよ......」
私は怖くなり『いやっ』と小さな悲鳴を上げた。
密室の中での心霊現象では一歩間違えれば事故か、殺されてしまう。
そして窓を見るとさっきまで建っていた建物が消えて無くなっていた。
「篠崎さん、建物がないのですが道の駅まで行けるんですか......」
「建物はあるぞ、それにあと250mで道の駅に着くぞ」
「やばいっす、とうとう新島さんがおかしくなりました......」
嘘、どうして? 私から見ると建物なんて全然無いのに
篠崎さん達は見えているのに私だけが見えていないのはどうしてだろうか
「道の駅まで我慢しろ、新島君は目を瞑って何があっても開けるな」
「は、はい分かりました......」
「何でこんな時に心霊現象が! 怪異は一体何がしたいんすか......」
篠崎さんの言う通りに目を瞑る。
いつもより暗闇がいっぱい広がっており少しだけゾクッとなる
耳から聞こえるのは大谷さんが慌てている声が聞こえていた。
「篠崎さん、やばいっすよ......このまま道の駅まで行けるんすか!?」
「大丈夫だ、大谷は俺を信じていろ。必ず着いてやるよ」
篠崎さん達が会話をしている声が聞こえているが
その声とは別に普通では有り得ない何かの声が聞こえてくる
私の耳に囁く女性の怨言らしき言葉が入ってくる
『──お前達のせいで私は死んだ』
『そのまま死んでほしい、死ね』
「い、いや......止めて」
私は声の正体を分からない恐怖から言葉を呟いていく。
目を開けようとすると篠崎さんが大声で怒鳴ったような声で言う
「おい! 目を開けるんじゃない、閉じろっ! このままだと死ぬぞ」
その言葉を聞いて怖くなり咄嗟に閉じる。
このまま私は生きていけるのだろうか、この恐怖の渦が巻いてる密室のパトカーの中で正気のままでいられるのか?
『開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて開けて』
「──いや!」
次は女性とは別の中学生位の成長途中の男性の若い声が聞こえてくる。
開けて開けてと、何かを訴えるかのように必死にドンドンと殴る音。
その音で一気に増す恐怖の渦が脳内に描写される。
「おい、どうなちまってんだよ。道の駅にたどり着けねぇ」
「篠崎さん、たどり着けないってどういうことっすか!?」
「案内標識通りに進んでも同じ場所に戻っちまってるんだよ。」
「はっ、はぁ!? ま、まじっすか......」
私は頭の中で恐怖と困惑が混ざり合う
もう恐怖に我慢出来なくなり提案を出す事にした
「ど、何処か......何処でもいいので止めてください!」
「ああ、分かった......取り敢えずこの道沿いにある民家の横に止めるぞ」
私は少しばかり安心をしているが、未だに声が脳内に響いている。
早く外に出なければ自我が崩壊し狂ってしまう可能性が高い
今まで逢ってきた怪奇とは凄まじく強力な方であり、私の精神を蛆虫が食い破るかのように崩壊させていく。
「は、はやく......助けて」
「よし着いたぞ、降りろ!」
私は目を瞑りながらも急いでシートベルトを外し扉を開けて
転がり込むように出て行った。
目を閉じている為暗闇では真っ暗だけど涼しい空気と風が私の方へ流れ込む。
あの恐怖の密室から抜け出せたと思い目を開ける。
「大丈夫っすか、新島さん?」
「だ、大丈夫です。少し霊的なにかが私に関わってきたようです」
「危なかったようだな、このままいたら確実に死んでいたかもしれない」
篠崎さんと大谷さんはホッとした表情で私を見ていた。
そして外には田舎のような都会の雰囲気であり、後ろには民家が並んでおり
前の奥には森らしき物とその手前には墓地らしき物が視界に映る。
「そうですね......それにここって一体何処なんですか?」
「分からない、一体ここが何処なのか調べようにも標識がない」
「大丈夫っすよ、俺がスマホで調べてあげるっすから」
そう言うと大谷さんはコートのポケットから四角い物──恐らくこれはスマホと呼ばれる物だろうか──を取り出す。
そして指をスライドさせて何かを調べているようだ。
「駄目っす、圏外では無いのですがマップが表示されないっす」
「そうか......こっちは無線も繋がらないな」
大谷さんのスマホは地図を見ることが出来るが
電波の影響のせいか霊的なのか圏外でもないのに見れなくなってるらしい。
篠崎さんの場合はポケットから無線を取り出して連絡を取ろうとしたが繋がらなかったようだ。




