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死後にまた

作者: 海月 くらげ

「いやはや……なかなかどうして……これまたなんで貴方みたいなまだまだ先のある若者が死んじゃったのか、私みたいなチンケな死神には分かるはずもありませんけれども」


 喪服のような全身黒色のスーツを身にまとい、妙につばの広いハットを右手で摘まみ、死神と名乗る男は深々と頭を下げて言った。


「そんなチンケな死神にも時間とやらが限られておりまして、早く選んでいただけると幸いですけれども」


 なぜ僕の目の前に死神が現れたのかは、重々承知であるが言っていることの要領が全くもって掴めない。


「何を選ぶんですか?」


 と、聞き返すことが出来ただけでも僕の中では及第点である。



「あぁ!失敬、何分(なにぶん)人とこうして面と向かって話すのも久方ぶりなものですから。いやなに、簡単なことですよ。貴方はたった今死んだわけですけれども、幽霊になってこの世をさまようか、それとも幽霊にならずに朽ちていくかを選んでいただきたいのですけれども」



 そうか、死ぬとこんな感じで選択肢を与えられるのか。初めて知った……というのも当たり前か、死ぬことなど人生で一回きりなのだから。


「う~ん、どうでしょう。この世に特に未練なんてものはないから、来世にでも期待することにしましょうか」


「来世?貴方は今、来世と仰いましたか!なんと嘆かわしい!私は残酷なことを貴方に伝えなければいけない!」


 どうもこのオーバーリアクションなところが癪に障る。


「残酷なこと……ですか?」


「ええ、それはとてもとても」

「というのは?」


「前置きを抜いて言わせて頂くと、貴方にもう来世などという(てい)のいい話はありません」


 え?


「ちょ、ちょっと待ってください。普通は来世だったりとか、生まれ変わりだったりとか天国だったり、もしくは地獄だったりあるんじゃないんですか?」


 だってそうだろう、現世ではそう伝わっている。


「何を仰っているのですか?」


 首をこれでもかというくらいに傾げて、死神は当然のごとく言い放った。



「人生は一度きりに決まっているじゃないですか」



 追い討ちのごとく死神は(まく)し立てる。


「当たり前のことですよ、そんなこと。今の小学生でも理解していることでしょう。生まれ変わり?来世?天国?地獄?ちゃんちゃらおかしな話ですね。『今』を精一杯生きてこなかった奴が来世だろうと、生まれ変わろうと、何しようと同じなんですよ。どうせ次があるから、また今度、今はやりたくない、だって?な~に生きてることにかまけて、生きようとしてないんだって話ですよ。片腹痛い」


 コホン、と咳払いをひとつ。


「失礼、少し取り乱して口調が荒くなりました」


 口を挟む余裕すらなく、反論しようにも、確かにその通りだと納得してしまった僕がいるのも事実だ。



「で?どうします?幽霊になるかどうか」



 どうだろうか?

 別に幽霊になりたい理由など、1つもない。

 後悔なんて腐るほどしたし、パワハラをしてきた上司に仕返しもしたい。


 けれど。


 そんなことをしたところで虚しくなるだけに決まっている。


 だが。


 幽霊にならないとするならば、その先には何もない。本当の『無』というやつだろう。




 ……でもまぁ、それでいいか。

 精一杯生きてこなかった僕が悪い。


 もうちょっと生きる努力をするべきだった。



 反省したところで意味などないのだが。



「なりません、今までありがとうございました」



 ありがとうは、死神に向けてではなく。

 僕の人生に向けて。



「英断ですね」



 あぁ、僕もそう思う



 そんな自分を褒め称えるように、僕の全てに別れを告げるように死神に挨拶をした。



「ではまた」




 ん?


 自分でも驚きだが、『また』と言ったか?これから『無』になる僕が?



「ええ、また来世で」



 晴れきった笑顔で死神は先程と寸分(たが)わぬ形でお辞儀をした。







 ……なるほど、死神に一杯食わされたようだ

死後はきっとこんな感じです

死んでも次があるなんて醜い考えは捨てましょう。

死ななくても次はありますから

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