1 レオンのチート
唐突だが、前世の記憶というものを信じるだろうか?
体は子供なのに、大人の記憶があったりとか、まったく違う世界の知識があったりとか・・・まあ、大抵は夢物語的に思われるものだが俺はそれを信じてる。
え?なんでって?
だって、俺がそうだから。
俺、レオン・スクフェリーは現在3才なのだが・・・何故か別の世界の知識と大人として働いていた記憶がある。
生粋の日本人のはずが、今鏡に写るのは銀髪の美少年。
うん。しかも、名前も洋風な上に俺はどうやら貴族らしいです。伯爵・・・スクフェリー伯爵家の二男です。
貴族の階級は5つあって、国王の次に偉い位の公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、とあって、うちはそこそこ偉い伯爵家。
まあ、俺は二男だし、上に優秀な兄と姉が一人づついるから対して重要な立場にはいないけどね。
そう、家族がいるのだ。
当たり前のことかもしれないが・・・前世の家族がいなかった俺からしたら、かなりうれしいことだ。
前世の俺は、どうやら恋人に浮気されて、挙げ句にトラックに轢かれて死んだらしいが・・・そんなことがどうでもよくなる程に俺にとっては家族という存在は何より嬉しかった。
幸いなことに自我が芽生えると共に記憶を思い出したので・・・俺は幼少からかなり家族にベッタリと甘えてみることにした。
家族仲があまり良くなかったような感じだったので、かなりダメ元だったが・・・結果的には良かった。
両親は、政略結婚ながらも両思いですれ違っていたが俺が甘えることでお互いに気持ちを確認できたらしく・・・現在は4人目の子供を作っております。
うん。見ていて恥ずかしくなる位のラブラブっぷりで、微笑ましいと同時に甘い空気になったら退出するという、幼い子供の気の使い方ではない気を回したりもするが・・・とにかく良かった。
兄と姉もそんな両親の影響でグレかけていたが・・・これも、俺が甘えることで結果的には解決した。
両親が仲良くなって、二人に構うようになってから、俺が甘えることで相乗効果なのか・・・二人とも元の優しい性格になり、家族仲は円満になった。
まあ、言うほど簡単ではなかったが・・・それでも俺は仲良し家族というものに憧れていたのでかなり嬉しかった。
・・・まあ、ちょっと、やり過ぎて愛情が溺愛レベルに変わったのは誤算かもしれないが・・・うん、そこはスルーで。
伯爵家だけに、それなりに貴族の教育を施されはしているが・・・家を継ぐのは兄で決まっているので、俺は比較的フリーに過ごさせて貰えているのはありがたい。
兄であるロイン兄さんは8才とは思えない程に利発な子供で、父親譲りの金髪の王子様的なルックスを含めて、令嬢達の憧れ的な存在になっているが、俺にはかなり優しく接してくれていて・・・ぶっちゃけかなり溺愛されている。
姉であるマリア姉さんは10才にして、金髪碧眼の美少女っぷりを存分に発揮しており、社交界に出るようになってからは社交界の花として有名な存在となっている。
ちなみに公爵家の婚約者がいるが、関係は良好だそうです。
マリア姉さんも、最初は俺に意地悪をしたりしていたが・・・今ではかなり可愛がられており、こちらも若干溺愛傾向が強いです。
あ、ちなみに父親は金髪碧眼の美形な感じで、母親は銀髪と真紅の眼が特徴の美人さんです。
俺以外は父親の遺伝子が強いらしく、俺は母親に似ていて幼いながらもそこそこ美形・・・というか、若干女の子よりの顔だが、家族の証と思えばそれも悪くはなかった。
なんだかんだで両親より姉兄に溺愛されてはいるが・・・家族はいいものだと常々思う。
そんな風に比較的穏やかに過ごしていた俺だったが・・・そんな日常に一波瀾あったのが3才の秋のこと・・・
妹を身ごもっていた母親が病に伏せてしまったのだ。
「しっかりしろ!フェリス!」
床に伏せる母さんに必死に呼び掛ける父さん・・・あ、呼び方は基本はお父様、お母様だけど、心の中ではこう呼んでいる。
側にいるマリア姉さんとロイン兄さんも不安そうな表情で母さんの側についている。
そんな俺達に母さんは苦しそうに微笑んだ。
「・・・大丈夫よ。旦那様。私はどうなってもいいの・・・ただ、お腹の子・・・私たちの新しい命だけはどうにかして助けてあげて・・・」
「大丈夫だ!絶対に二人とも助ける!だからそんなこと言うな!」
「・・・そうね。ごめんなさい。ロイン、マリアそれに・・・レオン。あなた達もあんまり心配しないで。でももしもの時は・・・あなた達の新しい妹をよろしくね」
母さんは・・・多分わかっているのだ。助からないと。
当時の医療では、この世界の知識では癒せない病。
魔法なんてものもないし、科学も進歩してない今の状況では助からないと医者には言われた。
それでも俺は・・・
『使うの?』
頭に響く聞き覚えのある女性の声。
ああ、使う。
『そう・・・覚悟は出来ているの?』
家族を助けられるなら俺はなんでも捧げるさ。
『わかったわ・・・なら、あなたに加護をあげるわ』
「お父様、お母様」
神妙な表情の二人に俺は呼び掛ける。
「神託を・・・受けました」
その言葉に・・・二人は、いや、ロイン兄さんとマリア姉さんも驚愕の表情を浮かべた。
神託・・・所謂神さまからのお告げだが、この世界では魔法はないのに何故かそんな超状現象はおこるのだ。
それを受ければ富と名声は約束されるとまで言われる神託・・・それを僅か3才の息子が受けたと言われて皆は驚いたのだろう。
父さんが信じられないと言わんばかりの表情で聞いてきた。
「本当なのか?」
「はい・・・女神様からお母様と新しい妹を助ける方法を教えて貰いました」
「・・・どうするんだ?」
「僕の・・・命を二人に分けます」
その言葉に・・・唖然としていた母さんは大慌てで否定した。
「ダメよ!レオンが命を分けるなんて・・・」
「・・・本当にそれしかないのか?」
父さんは微妙な表情を浮かべているが・・・俺はコクりと首肯く。
「はい。女神様によれば僕のこれから先の命を・・・生命力を分けることでしか癒せないそうです」
「レオンそれは・・・」
「ダメよレオン!」
なにかを聞こうとしたロイン兄さんを遮りマリア姉さんが掴みかかる勢いで否定してきた。
「レオンが命を削らなくても他に方法はあるはずよ!」
「・・・落ち着きなよマリア姉さん」
「ロイン!あんたはなんとも思わないの?いくらお母様を助けるためとはいえ、レオンがこれから長生き出来なくなるなんて・・・」
「だから、少し落ち着きなよ。レオン。続きを聞いてもいいかな?多分まだ何かあるんだろ?」
冷静なロイン兄さんに促されて俺は首肯くと話し始める。
「僕の命を分ける・・・とはいえ、女神様からのご加護なのでそこまで寿命は減りません。二人を助けてもせいぜい1、2年短くなるかどうか・・・その程度らしいです」
「だからって・・・」
「わかった。頼むレオン」
「「お父様(旦那様)!?」」
マリア姉さんと母さんが父さんの返事に驚愕の声をあげるが・・・父さんは沈痛な面持ちで答えた。
「私は・・・フェリスも新しい娘も助けたい。レオンは大切だが・・・女神様からの加護なら間違いはないと思う。だから・・・」
「大丈夫です。お父様。僕も・・・大切な家族のために出来ることはしたいですから」
「すまないレオン・・・」
「謝らないでください。お父様。これは僕の・・・家族愛ですから」
「「レオン・・・」」
「マリア姉様。お母様。ご心配しなくても大丈夫です。僕は・・・大丈夫ですから」
二人にそう言うとロイン兄さんも説得に加わってくれた。
「レオンがここまで言うんだ・・・信じましょうお母様。マリア姉さん」
それでもぐする二人をなんとかその後説得して俺は女神様に教えて貰った・・・いや、女神様から貰った力を使う。
意識を集中させて母さんと・・・妹に合わせる。
すると、俺の体と母さんの体の間に淡い2本のパイプが出てきて俺の側から命が・・・光となって流れていく。
「これは・・・」
「なにこれ・・・」
唖然とした声が聞こえてくるが・・・俺の意識は今は母さんと妹にしか集中していない。
多分、横から見れば神秘的な光景なのだろうが・・・俺はただ、ひたすらに命を母さんと妹に捧げる。
やがて、繋がっていたパイプが途切れて光が止むと・・・俺は床に座り込んだ。
「レオン!大丈夫!?」
慌てて駆け寄ってきてくれるマリア姉さんに微笑んでから俺は母さんに視線を向けた。
「お母様・・・どうですか?」
「・・・体が・・・さっきまでの苦しさが消えたわ・・・」
「ほ、本当か!?」
「ええ。でもレオンが・・・」
「僕なら平気ですお母様」
「レオン・・・ありがとう・・・」
涙を浮かべてそう言った母さん。
その後で医者に調べて貰ったが、当然のように治っており、なんとか家族を失わずにすんだ俺は心底安心した。
とはいえ、少しだけ嘘もついてしまった。
俺に与えられた力は命を分けることだが・・・捧げる代償は命以外もある。
使う度に俺は命を分ける以外に・・・感情か記憶を女神様に代償として支払わねばならない。
今回は妹と母さんを含めて2つ・・・何をなくしたかはわからないが・・・ばれないように気を付けないと。
そう心に決めて俺は家族と一緒に微笑んだ。