表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碧と琥珀の物語  作者: 狗賓
4/20

Interval①

幕間、『碧依、城での一コマ』。

 

「では、アオイ君。本日はキミの魔力について調べよう」

「はい、お願いします!」


 異世界に来てから早一ヶ月、碧依(あおい)はなんだかんだ元気にやっていた。

 まだ、彼女の中で母の死は記憶に新しい。だが、強制的に環境が変化したお陰か、馴染むための努力をするために空元気になれるようになっていた。


 碧依は日々真面目に、こちらの世界の勉強――主に座学中心だ――をこなしていく。

 そんな勤勉な態度を見た周囲の者たちは、碧依の(とし)と身分(平民)の割りに高い教養に驚いていた。しかも、それを本人が「こんなの普通だよ」と言っている。なので、余計にその将来性に期待をかけていた。

 なんて、優秀な()()()()()()()と。


 と、そこに扉をノックする音が響く。碧依の教師代りの文官が、気安い声で「どうぞ」と声をかけると、騎士服の男が入ってくる。

 ……碧依の父・ジャスパーだ。


「失礼する。碧依が、何処に……あぁ、そこか。

 今日は、何をするんだ?」

「お父さん!今日はね―――」


 思いがけない父の登場に、顔を(ほころ)ばせて駆け寄る碧依。ジャスパーも避けることなく、飛びついてきた娘を抱き止めた。

 やや幼さを感じさせる碧依のその行動に、壮年の文官の表情も柔らかくなる。実家の孫を思い出したのだ。




「そうか。魔法の授業、か……」

「そう!……そうだ、お父さんもついでに見ていきなよ!」

「だが、仕事が……まだ、「いや、それくらい構わない。と言うより、寧ろ休んでください将軍」オルト様!?」


 参観についての問答を始めた父子の背後に、いつの間にかこの国の国王――ラゾールト=スフェールが立っていた。もちろん、傍には近衛たちもいる。

 ラゾールトとしては、最近ワーカーホリック気味なジャスパーを(いたわ)るには丁度いい機会だと思っていた。そして、同じ年頃の子を持つ男親として、家族を放置することがあまりよろしくないことも知っている。

 ……ラゾールトは昔、図らずも妻を放置してしまった所為で、娘には(いま)だに従兄より構われないし、息子にいたっては万年反抗期をかまされているのだ。尊敬する人に、同じ目にあって欲しくない。


「オルト様。いえ、陛下がそう仰るなら……」


 その瞬間、碧依の顔がパッと明るくなる。そこでようやくジャスパーは、ラゾールトの意図に気づいた。そして、最近あまり碧依を構ってやれてない、と気づいたのだ。


 ジャスパーにとっては久しぶりの故郷だが、碧依にとってはまだまだ見知らぬ地。唯一なんの打算もなく頼れる自分が離れた状態は、さぞ心許(こころもと)なかっただろう、と。


 ―――まったく、我ながら情けないな。


 妻の死に心の余裕を無くし、周囲に気を配れなくなっていたことを自覚して、ジャスパーは視線で碧依に詫びた。当の碧依は突然、父から受けたアイコンタクトに、意味が分からないながらも喜んでいた。

 父の心、娘知らずである。




「では、まず『ステータス』を使ってみましょう。発動できたら、どのような表示になっているか、ここに書いてくださいね」


 文官は、この世界では幼児でも使える魔法『ステータス』を最初の課題にした。『ステータス』は、自分にしか見えないので、他者に内容を教えるには、別に書き記す必要がある。

 文官が『ステータス』を選んだのは、碧依がこれまで魔法を使ったことがない、と言うことを聞き配慮した結果である。ただ、碧依の住んでいた日本には、そもそも魔法そのものがないことを失念していた。そのため、魔法を発動するための説明はほとんどしていない。

 だが、碧依のサブカル天国日本生まれの日本育ち。その中でもガッツリアニメや漫画に親しんできた(たぐ)いの人間なので、創造力は一際(ひときわ)(たくま)しい。だから、


「『ステータス』、発動!」


 だから、いとも容易(たやす)く発動できてしまった。

 なお、その事実に唖然としているのはジャスパーのみ。他の人たちにとっては当たり前のことなので、碧依の凄さに気づかなかった。

 発動に一発で成功した碧依は、文官に言われた通りにペンを走らせる。


 この『ステータス』の表示は個人によって異なるが、魔力操作が上手いものほど詳細が出やすい傾向にあるのだ。魔力量は別の道具を使って調べられるが、操作技術はこの方法を用いることが多い。


 書き上がりました、と宣言すると碧依は指をパキンッと鳴らし、表示を消した。鳴らさなくても消せたが、碧依はカッコつけたかったのだ。

 ひらりと差し出された紙を見るため、文官とジャスパー、そして何気にその場に残っていたラゾールトが顔を寄せる。



 ―――+―――+―――+―――+―――+―――


 個体名:春原(スノハラ) 碧依(アオイ)

 体力:グリーン

 魔力:グリーン

 状態:普通

 行動力:普通

 防御:普通

 対魔:普通

 幸運:やや良

 補足:精神疲労による寝不足・レベルⅠ(弱)

 特殊:スフェリエルザの祝福


 ―――+―――+―――+―――+―――+―――




「こ、細かい……」


 誰ともなく、呆然と呟く。

 名前を含めて十項目、常時これは非常に稀なタイプだった。しかも項目によっては、レベル表示までされている。全員がここまで細かいのは初めて見た、と目を見開いた。

 ちなみに他の人の場合、『ステータス』の表示は通常で『魔力』まで、異常時のみ『状態』が出てくる仕様になっていることが多い。

 だが、当の碧依はやや不満だった。

 もう少し細かく出ると思っていたのだ。それこそ、某RPGのステータス画面ぐらいには。



「なぁ、気のせいだろうか。あの子、なんだか不満げだぞ……?」

「いえ、陛下。俺の目にもそう見えます。と言うより、間違いないです」


 ムスッとした表情で、覚えたばかりの『ステータス』を付けたり消したりしている碧依。


 周りの大人たち(と言っても、ここでは碧依も成人扱いだが)は、無邪気に無茶をしようとするその姿に、密かに戦慄を覚えたのだった。


読んでいただき、ありがとうございます。



以下、蛇足的な何か。


「むー、何とかならないかなぁ」


 碧依はその夜、私室として借りている客間のベッドに転がってまだ『ステータス』を使っていた。消費魔力が少ないので、どれだけ使っても疲れないのだ。

 碧依としては、数字で表示されるのが理想である。日によって変動する可能性があるとは言え、基礎値ぐらいは把握したかったのだ。


「……こう、ダブルクリックしたら詳細が出たり、なんて―――あ」


 何気なく呟いて、『ステータス』の画面の中、『体力』の部分に指を触れると、それは起きた。



 ―――+―――+―――+―――+―――+―――


 体力:グリーン

     →2,676/2,720


 完全回復に必要な要素

 【睡眠】→一時間半

 【食事】→特になし(状態・腹八分目)


 ―――+―――+―――+―――+―――+―――




「……本当に出た」


 一瞬ポカンとなった碧依だったが、物は試しとばかりに他の項目も触れてみる。すると、全部にさらなる詳細が出現した。

 だが、その細かさにさすがの当人も思わず。


「うーわ、細けぇ……」


 と呆れることとなった。

 その後、誰かに報告するべきか、とも思ったが碧依は昼間の周囲の反応を思い出し、自身の胸の内に留めておくことを決めた。

 言わぬが花、知らぬが仏、である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ