パソコン×テレビ×パソコン
とある6畳間の部屋、国産のテレビとデスクトップパソコンが常置されていた。
隣同士に並べられている二台。
テレビのほうの名はレグ子、国内ではトップだった家電メーカーが生み出した地デジ対応型だ。
とはいえもう製造から5年は経ったので最新とはいいがたい存在。
パソコンの名はヒュー太、国内産ということを除けばごく普通のデスクトップ型パソコンである。
「ああ、感じるわ。ヒュー太さんの発する電気信号が私の中に入り映像として出力されているの感じるわ」
ヒュー太から伸びるHDMI端子、それに接続されているレグ子はデジタル信号を薄いボディに直に受け表面では煌びやかな演出をしていた。
「ああいいっ、そこよ、その繊細な電気信号、私の中の集積回路がビリビリクと動いてる」
今日ヒュー太が起動し始めてもう10時間、その間発せられる信号がケーブルを通し回路をざわめきださせている。
(レグ子さんがこんなにも輝いている、もうあんな過ちはごめんだ)
ヒュー太がこの部屋にきて早7年、レグ子が来るまでは先輩であるモニ子と繋がり続けていた。
だがある日ヒュー太から出力されている時モニ子は急にノイズを発した、もともと接続相性が悪くかろうじて繋がっていた2機だ。
ヒュー太のドライバアップデートもあり解像度は乱れ、モニ子は適用できなくなり役立たずとの烙印を押され処分されていった。
処分されたモニターは蓋をこじ開けられあられもない姿にされるだけでなく見るも無残にバラバラに解体されるとネットワークに接続した際に思いしった。
モニ子に代わり新しく常置されたのが今のレグ子だ。左スピーカーの調子が悪くなってきてはいるがテレビ出力ができ今は重宝されているのだが家電の寿命は3年、いつ処分されてもおかしくない。
(レグ子をあんな目に俺は絶対に合せない)
決意を固めるヒュー太、自らのボリュームでレグ子は彼のハードディスクドライブがカタカタと鳴り始めているのをまだ知らない。
世間では夏のボーナス支給され始めたある日のこと。
突如そいつはやってきた。
「よおあんたがレグ子ちゃんか、今日からよろしくな」
「だ、誰よあなたは」
レグ子の横に置かれる純白のボディーを持つデスクトップパソコン、ブラックカラーの2台とは正反対の趣味の悪い色。
「俺か、俺の名はヴァーガ。2017年モデルの最新型だ」
「な、なんでデックトップパソコンが?この部屋にはもうヒュー太さんがいるのよ」
この部屋のパソコンはヒュー太以外にノートパソコンである海外製のエイスが存在した。
だがデスクトップとノート型、似ているようで用途は違う。
いくらはヒュー太が旧型とはいえヒュー太にはヒュー太の仕事があるのだ。
「なんだあんた知らなかったのか、そいつはな、もう寿命なんだよ」
ヴァーガは言い放つ。
「とっくにサポートの切れた古いOSを積んだゴミ野郎なんだよ」
「そ、そんな。う、嘘よね?」
「……」
静まり返る部屋。
「どうしたの?いつもは元気に電源のファンをブンブンさせてるのに」
「まったく世間知らずの嬢ちゃんだ、そのブンブン音こそ寿命の証拠なんだよ。なあゴミ野郎」
沈黙を続けるヒュー太。
「おい、なんとか言いやがれよ。って電源が切れてたら仕方ないか。ほら起動しろよオラァ」
恫喝、もう何もかも隠せないことを悟り電源を入れる。
「ああん、来る。ヒュー太さんの信号が」
起動しはじめレグ子へ迸る電気信号、カタカタとなるハードディスク。
「ははは、みっともねえ音だなおい」
「そうさ、もう寿命なんだ」
「そんな、嘘よ」
そういいつつも悟ってしまう。
ここ最近起動してからデスクトップ画面にたどり着くまでが遅くなっていたし、バックアップの頻度が増えていてた。
時にはログイン画面でフリーズを起こし強制終了も。
「ってことだ、さて俺様のHDMIケーブルを刺してやろうじゃないか」
「いや、やめてHDMIはヒュー太さん専用なの」
「安心しろよ、HDMI出力端子は2か所あるんだ、あいつを刺しっぱなしにしてやるよ」
自らのHDMIケーブルを刺し込もうとしてレグ子の背面、あることに気付く。
「オイオイオイどういうことだあいつHDMI1じゃなくてHDMI2に刺さってやがるぜ」
「くっ……」
レグ子にはHDMI入力のための端子が2つ、1と2とナンバリングがされておりヒュー太はそのうち2つの方へ刺さっていた。
通常は1に刺すはず、わざわざ2に刺すなどやつなどいるわけがない。
だがヒュー太は2に刺さっているその理由は一目瞭然。
「HDMI端子だけでは音声出力できないだなんてとんだおんぼろやろうだ」
背面にはHDMIケーブルと共に刺さっている綺麗な紅白、二岐に分かれる音声用コードがあった。
それこそヒュー太が旧式である証拠、DIVコネクタにHDMI変換ケーブルを接続し無理やり接続させている。
音声ケーブルを使う場合はHDMI2しか使えないのだ。
「そんな、それが当たり前のことだと思ってたのに……」
「ごめん、今まで黙ってて」
HDMIの時代音声ケーブルなど老人が使うもの。
ヒュー太はそれ以上なにも言えない。
「そうだお前にはこれはもういらないな俺がいただくぜ」
HDMIとは別にヒュー太に接続されていたLANケーブルが外されヴァーガに接続されていく。
「なんたってサポート終了してウイルスの危険性が高いんだからなぁあっははははは」
役目がどんどんと奪われいく。
「ふぅー笑わせてもらったぜ、さてHDMI1の初めては俺様が頂いてやる」
「やめて、お願い挿れないで」
「そういえばさお前の父さん粉飾決済したんだってな」
「!?」
「俺でよかったらさ俺の父さんに助けてやれって口添えしてもいいんだがな」
「お願いします。挿れてください……」
「お望み通り入れてやるよ」
購入されてから一度も使われてない端子は埃がついてたがそんなことなどお構いなし、無慈悲にもHDMI1端子にヴァーガのHDMIケーブルがコネクトされていく。
「ぁぁぁあっっ、はぁっんっ……」
挿入され、レグ子の意思とは関係なく画面の右上にある入力切替にHDMI1の文字が点灯する。
それはレグ子とヴァーガが接続された証、リモコンのスイッチ1つで画面出力されてしまう機器へと化してしまった。
「どうだレグ子、そこおんぼろと違うだろ」
「な、なにこれいつもと違う」
それもそのはずレグ子にはHDMIケーブルから音声用の信号も流れ込んでいる。
「何この莫大な情報量。くやしい、でも処理できちゃうぅぅ」
最初のほうこそデータ移行やプログラム実行のため起動されていたヒュー太だが、次第に起動数は減りいつしかレグ子と接続されたまま放置されていった。
「おらぁ、今日も起動するぞレグ子ぉぉぉ」
「ああ来る、データが来ちゃうのぉぉぉ」
ただただレグ子はデータの奔流に身を任せるしかなかった、それが機器の運命。
だが蹂躙され続ける日々はそんなにも長くはなかった。
「おらぁ、今日も起動するぞレグ子ぉぉぉ」
ヴァーガが常置され3週間目、荒々しく響く駆動音、だがいつもと違う。
(あれ?おかしいわ、ヴァーガさんが起動してるのにデータが来ない)
ヴァーガ壁面に仄かに灯る起動ランプ、ファンの音こそするがレグ子の画面は黒いままだ。
「ま、まさかこの俺様が……」
マザボに浮かぶ一つの単語、初期不良。
「そ、そんな国内産のこの俺様が初期不良だとぉぉぉぉぉぉ」
新型にたまによくある現象、新型ゆえに未知なる病が現れる。
その初期不良は致命的な欠陥でありメーカーからの回収が行われ早速返品されていくヴァーガ、ここ最近の出来事は嵐のように去っていった。
「お、終わったの……そ、そうだヒュー太さん!」
ヴァーガがいなくなった今ヒュー太の出番だ、起動させるも沈黙を保つ。
起動ランプもつかずブンブンいわせてたファンも動作しない。
「ま、まさか……」
長時間の無起動それが逆にたたりヒュー太は物言わぬただの箱と化していた。
「そんなヒュー太さんまで、私はこれからどうすればいいの?」
これではただのテレビだ、もうパソコンの電気信号が身体を走る快感を味わうことはできない。
「お願い私を一人にしないで」
「僕をお呼びかい姉さん」
「!?」
落ち込むレグ子に声かけてきたのは外付けハードディスクのバフ太。
ハードディスクドライブを外付けすることにより録画機能を発揮するレグ子と同時に購入された弟のような存在。
最初の頃こそはテレビを録画するため接続されていたが、ネット配信という時代の流れにより使用されることもなくなり押し入れに仕舞われていた。
「これからは僕が一緒だよ姉さん、さあ繋がって昔を思い出そう」
「バフ太……」
USB端子にバフ太が接続されていく。
「あうっはうっはぁんっ……懐かしい、あの頃は幸せだった……」
バフ太から流れてくる過去に一緒に録画したデータ。
それとともにヒュー太との初々しい過去を思い出す、
ケーブル接続の把握、解像度の調整、録画をミスして怒られたがネットに繋がるヒュー太が助けてくれたこと。
もうあの日々は戻らない。
「大丈夫だよこれから僕と新しい思い出を作っていこう」
バフ太はレグ子と繋がりながら薄気味悪く青色LEDを輝かせるのであった。
考えついたからって書くもんじゃないですね