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645回目の転生

漆黒の空間にいくつもの青白い炎が浮かぶ。

幽鬼の様なその灯りに幾つもの影と一際大きい影が交差する。

幾度も響き渡る剣戟音。

大地や虚空で炸裂する様々な魔法。

ぜいぜいと荒い息が聞こえ、早口で唱える詠唱言語も耳に入る。

剣や斧、重装鎧や軽装鎧の残骸がそこかしこに転がっている。

眼前に立ちふさがるは世界の敵、魔王エスダーグリゴリオ。

横に並び立つのはこれまで長い旅を共にしてきた心強い仲間。

それに王女という立場を捨ててまで俺と添い遂げる事を選んでくれた最愛の妻、『グェルゴボスガルプ・ド・ポジャマッカスガス』

グェルが俺ににっこりと獰猛に微笑んでくる。

それを見た瞬間に俺の細く長く伸び切った堪忍袋の緒がブチンと切れる音がした。


「いやいやいやいやいや、むりむりむりむりむり、だってお前オークじゃん。まごうことなくオークじゃん。むりむりむりむりむり」


俺の横でグェルという名前のオークが『は?』みたいな顔で俺を睨んでくる。


「ヒゲは生えてるわ、鼻毛もぼさぼさだし、それに胸板も筋骨隆々で胸毛もばっさばさだしむりむりむりむり」


「それにこの魔王倒したら俺はお前と契りを交わさなきゃなんねーんだろ? それがいやでいやで先延ばしに伸ばしていたらとうとう魔王まで倒すハメになっちまったじゃねーかコラ」


「そんな、わたすにゆびいっぼんもふれぬかったのはそんだりゆうだったのが?」


「おばえら、できのまえでなにやっとるだ、ぞれにゆうじゃ『ンゴダボウ・ボツボツ・ゴブズ』ぞのごどばはぎぎずでならねぇど」


次々にオーク共が俺の周りに集まってくる。その中に一人が持っている大剣に一匹の醜いオークが写っていた。

そう、俺自身の姿。

俺はオークに転生してしまっていた。

そして、こんな隙を魔王が見逃す訳は無く俺たちは一瞬にして灰燼に帰した―――――――――


……………

…………

………

……


そして俺はいつも通りに目を覚ました。


「まったく、ここまで私をコケにしてくれたおバカさんは初めてですよ……」


うろ覚えの○リーザ様のセリフを得意げに胸を反らしながら言い放つ駄目天使がそこに存在した。

なにやらギリシャ神話の神々のコスプレっぽい格好をし、背中にちっこい羽をつけているそいつはメガネをずい、とずり上げながらドヤ顔でこちらを見つめてくる。


「あー、やっぱり○リーザ様ってば理想の上司ですよねー。ホワイトもホワイト、私も転職するならああいう理想の上司がいる理想の職場がいいなぁ」


胸元には仕事中に読みあさっていたのだろう、様々な漫画やアニメ雑誌を抱えながら目を輝かせながら話しかけてくる。

俺が無反応なのを見ると小さくため息を付きながら軽く責める口調で口を開く。


「それで、今度はどんな理由でリセットしたんですか?」


「オークアンドオークそしてオーク」


「あー、うん、それはまぁ、わからなくもないんですけど、でも資料によりますとオークに転生した方でもその現実を受け入れて立派に天寿を全うした方たちはいっぱいいますよ?」


「いや、そんな特殊性癖者と一緒にされても」


「アウト、その発言はアウトですよ」


「俺だってギリギリまで我慢したんだぜ? でも無理なものは無理」


はぁ、と大きいため息をつく目の前の駄目天使。

軽く恨みがましい目で俺を見つめる。


「でも、いい加減に満足してくださいよぉ。あなたこれで645回目の転生ですよぉ? それに付き合わされる私の身にもなってくださいよぉ……。

同期はもうすでに課長クラス(ドミニオン)に昇進している人たちもちらほらいるっていうのに、私はまだ一人も転生ノルマをこなしていないんですよぉ……もぉぉぉぉおおおっ!!! ぜぇえんぶあなたのせいですよ? わかってるんですか? もぉぉぉぉおおおっ!! あなたのせいで私はサービス残業(神託)しまくりで有給(天生)研修(地獄めぐり)もまともに取れないんですよ………ひっくひっく」


目の前で徐々に泣き崩れていく駄目天使。


「私だってねぇ。いつかは局長(女神)を目指して頑張っていこうと固く心に決めてこの仕事を選んだんですよ。それがこんな最悪の不良債権みたいな転生者を最初に担当するハメになるなんてっ、あああああぁああぁああもぉぉぉぉおおおぉおおおおおおおっ いい加減にしてくださいよぉぉおおおおおおおおお!!!!!!」


「でもなぁ、一番最初に俺の希望を許可したのはあんただぜ? 好みの異世界に転生できるまで何度でもやり直せるって条件を」


俺の言葉にがっくりと肩を落とす駄天使。


「それは……初出勤(叙任)の日にたまたま寝坊してしまって……いっぱいいっぱいの状態であなたを担当してとにかく遅れを取り戻さなきゃって思って判子(聖印)つきまくったのはたしかに私のミスですけど……ううう」


「それに俺の世界のアニメとか漫画にハマって、仕事中に読み漁ってるのは俺のせいじゃねーよなぁ?」


「……う、そ、それは一種のその、つらい現実からの逃避といいますかなんといいますか……」


「おいおい、アニメや漫画は現実逃避する為のもんじゃねーぜ? それは夢を与え希望を与える神々の物語とでもいう代物だ。他ならぬ神々の世界に生きるあんたの口からそんな言葉が出るなんてがっかりだぜ」


「は? あなたがそれをいいますか? それをあなたがいう資格があるとお思いですか?」


「そんなんじゃ本当に駄天使になっちまうぜ?」


「はぁ? 今なんて言いました? 天使に向かって堕天使とはそれ最大級の侮辱ですよ? 地獄への道は塗装されてるぜとか言われるレベルの言霊ですよそれ」


「いや、堕天使じゃなくて駄目天使、略して駄天使っていったんだが」


「もっと悪いですよっ!!、なんですかそのパチもんみたいな名称は。それだったらまだ堕天使の方がマシですよっ!!!」


「まぁまぁ、いろいろ時間が推してるんだろ? じゃあちゃちゃっと次の転生いってみようぜ。レッツゴー!!」


俺の言葉に目の前の駄目天使は力なく肩を落としながら追随した。


「ううう、れっつごー」


これは最悪の不良債権と呼ばれた男、その男が世界を救う事になる物語かもしれない物語である。

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