石打ち
「先生! 姦淫していた女をひっ捕らえました」
武器を持った人が言いました。その仲間に連れられた女はたちまち足を埋められ身動きが取れないようにされました。
その周りに人だかりができ、人々は女の服が剥がされるのを立って見ていました。
「先生! この女は叔父に犯されたのです。律法では石で打ち殺せとありますが、あなたはどう思いますか」
ただ一人無関心にじっと地面を見ていた聖者は、問い続けられているのが自分だと気付き、身を起こしてこう言いました。
「あなたがたの中で罪を犯したことのない者だけがこの女に石を投げなさい」
周りの人々は手に持った石を次々と取り落としました。
しかしどうしたことでしょう。一人の男が輪から一歩前へ出て、嬉々として石を投げつけ始めたのです。
聖者はその男を呼び止め聞きました。
「あなたは今の流れでどうして石を投げたのです」
男は答えました。
「はい、わたしは今まで罪を犯したことがありません」
その目は爛々と輝いています。
「それを証明する者はおりますか」
「はい、わたしは生まれてずっと主の教えに沿って生きてきました。わたしの無実は主が証明してくれるでしょう」
聖者は男の目の輝きに狼狽えます。男はずいと一歩踏み出て聖者にこう話します。
「実はわたしは未来から来たあなたの信者なのです。あなたの教えは素晴らしい。今や全世界の人があなたの教えを信仰しているし、これからもまだ見ぬ全世界の人々にしんこうを伝えるでしょう」
男はぶじ女を打ち殺すと「また善行を積んだ」と喜んで去っていきました。
聖者の苦悩は偶像となって今もなお人々に道を説いています。