003*貴方は───誰?
「・・・・・・・て」
「・・・・・ん」
誰かの声で目覚めたらしい。呼ばれたような記憶がわずかだがある。
ぼんやりと、重たい瞼を押し上げ起きる。どうやら自分は緑が広がる芝生の上で寝ていたらしい。頬に草があたる感触がした。視界に広がるのは青い空。
そよそよと風が心地よく吹き、日光も気持ちがいい程に照らしていた。
そして大きな木の下に居るのか木が見えた。重い腰をあげるとずきっと頭痛がする。
「───っ痛・・・」
起き上がって立ち上がる、が。そこは寝ている時とは変わらない景色だった。
雲1つないどこまでも青い空。そしてどこまでも続きそうな程広がる草原。木は自分の近くにある大きな木だけらしく淋しくぽつりと立っていた。そよそよ吹く風が草をそよそよと揺らす。
そしてやっとぼんやりとしていた脳がはっきりとしてきた頃、
(どこだ・・・・?・・・ここ・・・・)
ふと思う。見回すが人1人居ないし、家や建物もない。ただ草が広がる草原。
はっきりしてきたのと同時に、シロラビ(白いラビットの略)に無理矢理にしかも行き成り穴に連れ込まれたのを思い出す。
(あ・・・なんかむかついてきた・・・)
だが穴に落ちたとしてどうしてこんな所に居るのだろう。肝心の穴すら見えない。
「くっそ───シロラビ!今度会ったら殴ってやる!ふざけんなこのヤロ──────!!」
ずきっ
「痛っ!」
思い切り叫ぶとさっきまでちょい痛い位の頭痛レベルが痛くてたまらないレベル位に頭に響いた。
「あーもういいや。もうちょい寝てから考えよ───難しい事は後にしよ───」
ばたん!と効果音がでそうな程後ろに倒れこむ。
「ふ───・・・」
そよそよと頬を撫でる風が気持ちいい。頭痛がおさまるまで寝ていようと瞼を閉じようとすると───
「───貴方、大丈夫かしら?」
にょ、と視界に行き成り凄く綺麗で美人な・・・少女が出てきた。
「ぎゃわわわわわッ!!!」
悲鳴と共にがばっと起き上がる。
少女は腰までありそうなふわふわの金髪にその髪を少し結い上げた青いリボン。くりくりとした透明感のある碧い瞳。整った顔立ちの美女。青と白のエプロンドレス。居るだけで圧倒されそうな存在感。
そして・・・自分の腰より少し大きい位の身長。つまり、ちっちゃい。
(・・・誰だこの美少女・・・)
行き成りの美症状の登場にドキマギと心臓が高鳴っていた。
少女は時雨の顔から足のつま先までジロリと見ると聞こえないような小さな声で呟いた。
「──────迷子ね」
「・・・え?」
「いえ、何でもないわ。貴方、この世界の外から来たでしょう?この世界の遠い遠い国から」
(・・・・・・え?何で知ってるの?)
口には出さなかった。ただぽかんと目を見開いて少女を見つめるだけで肯定したようなものだった。曰く、図星。
「ふん。珍しいものを見たわね。やけにいつもと違うと思えば・・・いいわ、来なさい」
「え?あ、あの!」
いきなり踵を返して歩きだした少女にやっとの思いでたずねる。
「貴方は───誰?」
「貴方、人に名を尋ねる時普通自分の名から言うものではないかしら?・・・ふん、いいわ。私は───アリス=リデル。アリスと呼びなさい。いいわね?」
「は、はぁ・・・」
堂々と名前を名乗るアリスに圧倒されながらも頷いた。そのままスタスタと歩き出したアリスに置いていかれないように着いていった。