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1-10 劣化魔法使いの業火


「せ、先生? 今のは一体……?」


 ダリウスの古代魔法を初めて見れると期待していたセシリアが戸惑い気味にダリウスに尋ねる。

 他の生徒もセシリアと同じか、それ以上に戸惑ったような反応を見せていた。

 一度はダリウスの高度な古代魔法を見たことがあるリュエルも、あまりに拍子抜けなダリウスの古代魔法にどう反応したらいいのかと視線を彷徨わせている。


「まあ待てって」


 しかしダリウスはそんな生徒たちの反応に対して特に何かを説明するではなく、ただそのまま待っていろと言うだけ。

 それだけでは納得出来るはずがないという視線を向ける生徒たちではあったが、授業の邪魔をするわけにはいかないと思ったのか大人しく引き下がる。


 そんな生徒たちを見て「よし、さすが優等生たち」と皮肉なのか分からないような口ぶりで呟くと、ダリウスは再び、開かれた窓へとその掌を向ける。

 そして再び、古代魔法の詠唱を始める。


「全てを無に帰す灼熱の槍」


 ダリウスの詠唱の途中。

 まだ半分しか詠唱を終えていないにも関わらず、生徒たちは全員、その時点で先ほどの古代魔法との違いを確かに感じていた。

 ダリウスの掌に浮かび始める魔法陣。

 見ている光景は何も変わらないはずなのに、まるで業火に晒されているかのように頬が熱い。

 そしてそんな生徒たちの感覚を裏付けるためかのように、ダリウスの詠唱が終わりに近づいていく。


「我が眼前に立ちはだかりし敵を燃やし尽くせ」


『————————』


 その瞬間、先ほどの魔法とは比べ物にならないほどの大きな炎の槍がまるでダリウスの掌から溢れ出すように、魔法陣から飛び出す。

 生徒たちの視界が真っ赤に覆われてしまうほどの炎。

 窓枠すれすれを行く炎の槍は次第にその勢いを落としていく。

 そして数秒後にはまるで何もなかったかのように、ダリウスの掌に浮かんでいた魔法陣と共に消え失せてしまった。


「どうだ、これが古代魔法だ」


 見なくてもダリウスがどや顔を浮かべているのが分かる。

 しかしセシリアを含む生徒たちは皆、それどころではない。

 今目の前で繰り広げられた古代魔法が頭から離れなくなっている。


「い、今のは……」


 セシリアの口から渇いた声が出てくる。

 それは今の炎の槍のせいで口の中が渇いてしまったのか、それとも何か別に理由があるのか。

 しかしどちらにせよセシリアの口からは続きの言葉は出てこない。

 というよりもセシリア自身が、無意識に、自分の中にある可能性を否定したくて続きの言葉を止めていただけかもしれない。


 だがそれでは本当のことを知ることが出来ないということもセシリアは理解している。

 だからこそ自分の意図を伝えようと、その気持ちを視線だけでダリウスへと届けようとしていた。

 そしてダリウスはたったそれだけで、セシリアの気持ちを察していた。

 ダリウスはセシリアの視線にその身に受けながら、頷く。


「ああ、今俺が使ったのは二つとも同じ魔法だ」


「……っ」


 ダリウスの言葉に肩を震わす生徒たち。

 それには当然セシリアも含まれている。


 同じ詠唱を唱えているのだから、同じ魔法であることは当然だ。

 一体何が驚くことがあるというのか。

 そう思うかもしれないが、セシリアにとって古代魔法とは詠唱が全てだと思っていた。 

 そしてそれは現代魔法も同じで、魔法陣さえあれば、それが現代魔法とさえ思っていた。

 つまり魔法陣や詠唱こそ魔法に作用すれども、そこに自らの意思は関係ないというのがセシリアや他の生徒たちにとっての常識だったわけだ。


 そんな若き魔法師たちの常識を、ダリウスが一瞬にして崩し去ってしまった。

 魔法には魔法師のイメージが大きく作用する、と。


「一回目は消えかけの灯、二回目は怒りに狂う業火のイメージを詠唱に加えている」


 ダリウスは固まる生徒たちに説明を始める。

 そこでようやく我に返った生徒たちはダリウスの説明を聞き逃すまいと必死にノートにダリウスの言葉や板書を書き記していく。


「今回は分かりやすいように極端なイメージを加えたが、お前らで言う普通の古代魔法のイメージを加えない詠唱をした場合だと、今回やった二つの魔法のちょうど中間くらいの威力になる」


「中間、ですか?」


「あぁ。あんなに弱弱しい火でもなければ、あそこまで強力な炎でもない。中間だ」


 そう言われて、セシリアたちは二つの魔法の中間くらいの威力の魔法をイメージしてみる。

 確かにそれだと一般的な古代魔法に当てはまる。

 現代魔法とほとんど同じ威力のくせに無駄に詠唱に時間がかかるので、劣化魔法と呼ばれても仕方がない出来だろう。


(でも、先生が見せてくれた魔法はとても劣化魔法なんて言えない……)


 セシリアはダリウスが見せてくれた古代魔法に思わず目を輝かせる。

 そしてそれは元より古代魔法に強い思い入れのあったセシリアだけでなく、他の生徒たちも同じだった。

 劣化魔法なのに凄い、本当にこれが劣化魔法なのか。

 そんな会話がいたるところから聞こえてくる。

 セシリアはダリウスのおかげで徐々に皆の劣化魔法の認識が変わってきていることを嬉しく思わずにはいられなかった。


「まあ因みにだが、俺は今回やったイメージを確立させるまでに二年かかった」


「え……」


 しかし一転してダリウスは真剣な顔で言う。

 その言葉を聞いた生徒たちは驚きの声を隠せない。

 ダリウスが言った二年という期間は、それだけ、今ダリウスが見せた技術の難しさを言っていることを皆理解しているのだ。


「お前らも分かったと思うが、この技術は思うよりも全然難しい。それは単に魔法のイメージをすれば良いと言うわけじゃなく、お前らの常識をまず覆さないといけないからだ」


「僕たちの常識……」


 生徒の誰かが呟く。

 彼らにとっての常識は、魔法に魔法師のイメージなどは作用しないという常識だ。

 これまで長年培ってきたその常識を覆さなければ、本当の意味での魔法のイメージをすることは出来ない。


「でも俺は”それ”で古代魔法を専門に出来た」


「っ!」


 ダリウスの言葉に生徒は俯かせていた顔を上げる。

 その言葉はつまり、ダリウスが二年かけて覚えたという技術にそれだけの価値があるということ同じだ。


「どうせお前らは卒業した後に、現代魔法のどれかを専門にするんだろうよ」


 ダリウスは特に疑うことなくそう言う。

 ダリウスから見ても生徒たちは優秀だ。

 そんな彼らは、そのほとんどが卒業後に現代魔法を専門にするのは疑う余地のない事実であるとダリウスは考えている。


「高等部を卒業するまであと三年、その間に現代魔法の片手間にでも魔法のイメージを練習してみたらどうだ? もしかしたら現代魔法を専門にしながら、古代魔法を専門にしてる奴らと同じレベル以上のことが出来るようになってるかもしれないぞ?」


 ダリウスは含みのあるような笑みを浮かべながら、生徒たちへと告げる。

 古代魔法を相当なレベルで使える現代魔法使いになれ、と。


 それが生徒たちにとってどれだけの話なのかダリウスは実はいまいち理解していない。

 ダリウスの言う通り、ここにいる生徒たちがいくらダリウスの古代魔法の授業に感銘を受けたとはいえ、それで古代魔法を専門にするという輩はほぼ皆無だろう。

 しかし現代魔法を専門にしたいと努力する彼らにとって、現代魔法を使いながら、古代魔法を専門と同等のレベルで使えるという価値は計り知れない。

 それはつまり専門にする魔法が二つであるといっても過言ではないのだ。


「どうだお前ら。魔法のイメージ、練習する気になったか?」


 生徒たちは互いに顔を見合わせると期待に満ちた表情を浮かべ、頷いた。

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